デザイン 2020.06.14 マーケティングとデザインで未来を変える 〜25周年特別企画・第6章デザインへの共感は、なぜ生まれるのか?

前回の記事では、hyphenate株式会社(元 株式会社ziba tokyo)の平田智彦さんと「デザインの定義」や「セルフキャスティング」について語った内容をお届けしてきました。特に「セルフキャスティング」は、変化の激しいこれからの時代に、どんなコミュニケーションが求められるのかを考えるヒントになるのではないか。私自身、そう感じています。

今回はそこからもう一歩踏み込んで、デザインに対して、個人がどう向き合っていくのかを考えていきます。

 

アイデアを広げるホワイトスペースの仕掛け

これまでの章でも繰り返し述べてきましたが、私はデザインを形にしていくうえで、アイデアが具現化したときの未来のシーンである「一枚の絵」をつくることによって、周囲からの共感を生み、同じゴールを見て進んでいくことができると考えています。平田さんはこの未来のシーンを見せることに加えて、「相手とその未来を共創することが、デザインを形にするために必要だ」と語りました。

平田さんからは、印象的なロゴマークが特徴で、世界中のアスリートから支持されている大手スポーツメーカーへ、とある提案をしたときのエピソードを紹介いただきました。
平田さんは13年前、来日中のそのメーカーのアジア圏の責任者と知り合い、自主提案の機会を得ることができました。そこで用意したのが、8枚のスケッチ。そのスケッチには、就学前の1人の子供と、その子の両親や祖父母の姿が描かれ、周囲の人と関わりながら、その子供が成長していく姿を1枚1枚に描いたものでした。



特に、最初のスケッチには子供と両親の3人が描かれ、そのスケッチに込められたストーリーが語られました。

「お父さんは大学のバスケットボール部で、このメーカーのバスケットシューズを履く体験をしていました。お母さんは中学生時代からこのブランドを気に入っていて、ウェアやバッグなどを持っています。この子供が成長に伴ってどのようにこのブランドと対峙していくか、というのが、ブランドと顧客との関係づくりにつながります。」と、平田さんは話しました。

このスケッチには、提案したい商品そのものの絵が描かれていません。スケッチのプレゼンテーションが終わった後、平田さんは今回提案したかったものが “ランドセル” であったことを明かしました。

アジア圏の責任者はランドセルがそもそもどんなものかを聞いて、自社で開発するランドセルであれば「小指で持ち上がるくらい軽い」「メッシュ素材で身体に負荷が少ない」といった特徴を出せるのではないかと、いくつものアイデアが飛び出しました。

平田さんは「この瞬間、彼は1人のクリエイターになっていたのです。」と話しました。
「私が意図的にランドセルを描かなかったことは、私と彼との間にホワイトスペースをつくり、彼が意見を言いやすいような仕掛けにすることが狙いでした。相手をクリエイターにすることで、その物事に相手から積極的に関わってもらうことができて、話がスムーズに進んでいくのです。」と、平田さんは語りました。

平田さんの話すように、1人ひとりがクリエイターになることは、共感を生む方法の1つでもあると感じます。これも1つのセルフキャスティングと言えるでしょう。相手が自分ゴトとして捉えるようになり、どんなデザインをしていくべきかを一緒になって見つけていけるからです。誰であってもクリエイターになることができ、それと同時にいかに相手をクリエイターにさせられるかが、私たちが広告会社として考えるべきポイントだろうと感じました。

 

ロジックもアイデアも、マーケターに必要な力

長く広告業界に携わってきましたが、私自身、うまく絵が描けるわけではありません。自慢じゃありませんが、自分で書いた字ですら何と書いてあるのか読みづらいなと思うこともあります。

しかし、この仕事が好きで、これまで続けてこられた理由の1つは、お客様の課題に対してパートナーの皆様と組んで、私自身が楽しみながらデザインを提供してこれたからだと感じています。具体的な案件に対しては、営業としての立場から関わることが多かったですが、提案内容には自分自身もクリエイターになった視点で意見を出し、こだわりを持って広告やイベントなどをつくりあげてきたつもりです。

同じような発想で、私たちが向き合うマーケターの方々もクリエイターになることができるのだと、平田さんとの対談の中で強く感じました。打ち合わせに参加する全員が一緒に何かをつくりあげるクリエイター集団として、そしてそれぞれが少しずつ立場の違いや役割の違いを踏まえながら意見を出し合える状態になれば、プロジェクトの成功に結び付いていくのではないかと考えます。


平田さんは「マーケターがクリエイターにもなれれば、最強のマーケターと言えるのではないか」と話しました。

「優れたロジックを考えられるマーケターの力と、アイデアをわかりやすく示せるクリエイターの力が合わされば、素晴らしいデザインが生まれるのではないでしょうか。そして必ずしも、マーケター自身で絵が描けるという技術はいりません。インターネットで調べれば、アイデアを示す素材になるイメージはたくさん転がっています。重要なのは、アイデアを示すことそのものです。」と、平田さんは語りました。

広告会社である私たちは、企業のマーケティング戦略・マーケターのロジックをどうやってデザインしていくのか、そのデザインの部分で企業の右腕のような存在になることであり、そこに価値を見出していきたいと思っています。

アイデアを提供することはもちろん、絵や言葉にして伝わりやすい表現をつくりあげたり、具体的な施策の実行部分までサポートをする。これは、私たち1人ひとりが、マーケターの皆様に寄り添い、クリエイターとしての視点を持つことで、ようやく実現できることでしょう。

1つひとつを切り取ってみればこういった仕事になるかもしれませんが、根底にあるのは、マーケティングとデザインの力で企業の経営の役に立つ存在でありたいという想いです。オンラインであろうと、オフラインであろうと、このマーケティングとデザインの力は変わらず、経営にとって重要な役割を担うのだろうと信じています。

 

プロジェクトを加速させる「PDDCA」の考え方

ここまで平田さんと共に、マーケター自身がクリエイターになるという視点で、ロジックとクリエイティブ、そこから生まれるデザインについて考えてきました。

この考えにもつながっているのですが、最近、私自身が感じていることとして、アイデアをわかりやすく示すクリエイティブの力、アイデアを具現化するデザインの力は、物事を進めるプロセスにも生かせるのではないか、と思っています。それが、「PDDCA」の考え方です。
一般的に使われている「PDCA」の、「Plan」と「Do」の間に「Design」が入る。つまり Plan → Design → Do → Check → Action の順になるとよいのではないか、という持論です。

何かのプロジェクトにおいて、「Plan」の部分そのものを大きく間違えるということはありません。ゴールを設定し、そこに向かうプロセスを明らかにするという意味で、筋道が通るストーリーがあればそれが「Plan」になります。そこから「Do」に向かうとき、この実行の部分に大きな負荷がかかっているように、私自身感じているのです。

計画から実行をするときに、さあどうしよう…となりますね。実行部分ではプロジェクトの中心メンバーだけではなく、社内・社外を問わず様々な人たちと関わるケースが多く見られます。この周囲の人たちを動かすところに、膨大なパワーがかかっていると思うのです。

「Do」の前に加える「Design」は、周囲の人たちとの共感を高めるために機能するもの。「Plan」されたものがどんなゴールを目指しているのか、成功したシーンとはどんなものか、絵や言葉などを使ってデザインし、わかりやすく相手に示すことができれば、相手からの共感が生まれます。その結果、実行段階のスピードが上がったり、何を目指すべきかが明確なので軸がぶれずに判断がしやすくなって、成果物のクオリティも高まるのではないでしょうか。

平田さんの仰るように、個人のレベルでロジックとクリエイティブの力を使うことができれば、素晴らしいデザインが生まれると感じます。それだけにとどまらず、誰かとの共感を高めるためにもデザイン、特に私たちの言葉で言う “成功のシーンをわかりやすく示した「一枚の絵」” が機能すると思うのです。

刻一刻と変化を続ける今だからこそ、1人ひとりのチューニングを合わせ、速いスピードで実行していくことが求められています。「PDDCA」を高速に回転させていくことで、正解がまだ見えていない今を乗り越えていけるのだと、私は考えています。



長く「デザイン」に向き合い、顧客の最高の体験をデザインすることをミッションとする平田さんとの対談では、デザインの本質とは何か?という部分に少し迫れたような気がします。

デザインができるのは、何もデザイナーだけではないこと。誰かの視点に立ってみることや、1人ひとりがクリエイターの意識を持つことができれば、新しい発想やイノベーションが生まれるだろうということ。そして、デザインを起点とする相手との共感は、計画から実行までをより正確にスムーズにしていけるだろうということ。
デザインが持つこれらの可能性が、これからの時代を戦っていくヒントになるのだと感じています。

今回の対談をご快諾いただき、様々な事例やご自身の考えをお話しいただいた平田さんに、あらためて感謝を申し上げるとともに、私たちビッグビートがより一層デザインのスキルを高めていくこと、それをお客様にも広げていくことができるように、これからも良いパートナーシップを築いていければと考えています。

マーケティングとデザインへの想いは変わらず、私たちの挑戦はこれからも続いていきます。
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