BigbeatLIVE 2025.07.01 「世界一のバインミー」を国家ブランドへ | ベトナム発・兄弟起業家が挑む飲食ビジネス


2025年8月1日に開催される「Bigbeat LIVE 2025」。
“らしさ”というキーワードを軸に「経営」「ASEAN」「コミュニティ」「働き方と選ばれ方」というテーマでセッションを展開します。
今回ご紹介するのは、「ASEAN」セッションにてご登壇をいただくブイ・タン・ユイ さん、ブイ・タン・タム さんのおふたりです

昨今、東南アジアでビジネスを展開する日本企業が増える一方で、逆に東南アジアから日本へ挑戦する起業家たちも増えてきています。

「バインミーを日本で広めたい」という想いを胸に、東京を中心にバインミー専門店「バインミーシンチャオ」を展開する株式会社BTKもその一つです。今回は「バインミーシンチャオ浅草店」にて、創業者であるベトナム出身のブイ・タン・ユイ社長、ブイ・タン・タム副社長のお二人に、起業のきっかけから日本での苦労、そして「世界一のバインミー」にかける今後の展望までを伺いました。ビッグビート社員による、バインミーの実食レポートもあわせてお届けします。
 

アメ横のケバブがヒントに? 起業のきっかけと兄弟を突き動かした「幼少期の経済体験」

浅草駅から徒歩数分。隅田川沿いの雷門ビルの2階に「バインミーシンチャオ浅草店」があります。


 ※バインミーシンチャオ浅草店の外観。
撮影中にも、日本在住と思われる東南アジア系の二人組が、店内へと入っていきました。
バインミーシンチャオ全体では、お客さんの8〜9割が日本人とのことですが、
浅草寺などの観光地が近い浅草店では、約半数が海外からの来店客なのだといいます。


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「父は香木の卸をしていて、自営業をしてました。親戚もビジネスをしていたこともあり、子どもの頃から商売が身近にありました」と語る兄で社長のユイさん。
ベトナムで高校を卒業後、2007年に来日し、2年間の日本語学校を経て、三重県の四日市大学で経済を学びます。卒業後は会社員として働く一方、いずれ起業したいという想いを持ち続けていたそうです。

※兄のユイさん

 弟で副社長をつとめるタムさん。2011年、ユイさんにつづいて、東日本大震災の直後に来日。兄のユイさんと同じ日本語学校と大学へ留学しました。家族の不安を押し切って日本に渡るほど、強い想いを抱えていたといいます。「日本製品やアニメや漫画などの日本文化が好きだったこと、日本で働いているいとこの話を聞いたことで、憧れがさらに強まりました」(タムさん)


※弟のタムさん

二人が起業を目指したきっかけとなったのは、2015年夏にタムさんが東京・アメ横で見たケバブの行列でした。「ベトナムではバインミーが流行っているのに、日本では専門店がなかった。だったら自分たちでやろうと、その場で兄に電話をしました」とタムさんは当時を振り返ります。その日のうちに店名「バインミーシンチャオ」も決定。一気に起業に向けた取り組みがスタートします。

 
※バインミーシンチャオの店内の様子。店名の「シンチャオ」は、ベトナム語で「こんにちは」という意味。
「覚えやすさと親しみやすさを込めてネーミングしました」(タムさん)

 

高田馬場に第1号店を開くまで——資金調達、契約手続き、パン作りetc.ゼロからの立ち上げ

エレベーターで2階に上がり、細い通路を進むと、急に開けた店内が広がります。黄色を基調とした壁に、隅田川に面した窓からは柔らかな光が差し込みます。すでにテーブル席やカウンター席にはお客さんの姿がありました。バインミーを楽しむ方に加え、汗ばむ陽気だった取材日には、ドリンクを注文する人の姿も見られます。


 ※浅草店内の様子。隅田川が見下ろせるカウンター席には、海外からの旅行客と思われるお客さんで賑わっていました。

 
※ベトナムの絵画がいくつも飾られた店内の様子。日本にいながらベトナムにいるような気分を味わうことができます。

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当時、大阪でベトナム人支援の管理団体に勤めていた兄のユイさんと、三重県の大学に通っていた弟のタムさん。起業に向けてまず取り組んだのが、「出店場所」の選定でした。

候補地としては、ベトナム人が多く住む名古屋も挙がりましたが、都心ではないことから見送りに。最終的には、日本でもっとも都会的で、ベトナム人コミュニティも大きく、ベトナム大使館も所在する「東京」に決定しました。都内の候補地の中で最終的に「高田馬場」を選択。日本語学校が多く、留学生も多いエリアで、ベトナム人が多く住んでいること、また交通アクセスの良さが決め手になったといいます。

出店地が決まると、メニューや食材の調達先などを次々に決定。大学で学んだ経済学の知識を応用しつつ、ベトナムでビジネス経験のある家族や親戚にも相談を重ね、準備を進めていきました。

一方で、苦労も多くあったと語ります。

大きな課題の一つが「資金調達」でした。当時、タムさんはまだ大学生、ユイさんも社会人3年目で貯蓄に限りがありました。そのため、ユイさんは結婚したばかりで、結婚祝い金を起業資金に充てたそうです。それでも資金は不足していましたが、家族や日本在住のベトナム人の知人が応援金を出してくれたことで、なんとか初期投資の費用を集めることができました。

次に困難だったのが、契約や許可の手続きです。たとえば店舗の不動産契約では、日本人の連帯保証人が必要でした。そんなとき、大学の先生が快く保証人を引き受けてくださり、大きな支えとなったといいます。営業許可の取得なども未経験のため、一から調べて手続きを進めました。

もうひとつの大きな課題が「食材の調達」、とくにパンの問題です。バインミーの要となる専用のパンを日本で製造している業者はほとんどなく、既製品では理想の味が出せませんでした。「世界一のバインミー」を目指すには、自分たちが納得できるオリジナルのパンが不可欠であると、製造ラインを用意できる工場を探し、ようやく東京都内で一社とであえたといいます。

「パンについては、お客様の声なども踏まえながら、工場とも対話をしながら改良を加えています」(ユイさん)

「起業前には、三重県四日市市の地域イベントで大学のゼミとしてバインミーを提供もしました。また、起業にあたり大学で学んだ経済学を活かした他、困ったことがあるとゼミの先生にもたびたび相談に乗っていただきました」(タムさん)

こうしてさまざまな苦労を乗り越えた末に、2016年10月、第1号店となる「バインミーシンチャオ高田馬場店」がついにオープンします。
 

国内外のメディアから取材殺到。ついにはベトナム国家主席と都知事の会合会場に抜擢!


※お腹を空かせたビッグビート社員が注文をして待つこと数分。「世界一のバインミー」がテーブルに届きました。
 実際に口にした社員からは「これはおいしい…!」「パクチー好きにはたまらない」との声が。
 ベトナム出身のスタッフからは「まるでベトナムに帰ったみたい」と懐かしそうに笑顔がこぼれました。


 
※ドリンクやフードも追加注文し、食事を満喫するビッグビートのスタッフたち。各種グルメサイトでも、
 「ベトナムで食べた現地の味を日本でリーズナブルに楽しめる」といった旨の喜びのコメントが多く投稿されていました。


***

「バインミーシンチャオ」第1号店がオープンした2016年10月から、わずか数カ月後の2017年2月。中日新聞三重版にて、バインミーシンチャオが紹介されます(※)。
きっかけは、タムさんが起業の経緯をまとめた卒業論文が、大学の優秀論文に選出されたことでした。その内容が注目を集め、新聞社から取材を受けたのです。
(※)紹介記事はこちら

この報道を皮切りに、ベトナム国内のコミュニティにも二人の取り組みが徐々に広がっていきます。2017年の2月末には、ベトナム国営テレビが「日本に留学したベトナム人兄弟が、現地で起業・成功」という内容で二人を取材。番組は国内のテレビだけでなく、アプリやウェブプラットフォームを通じて世界中に配信され、大きな反響を呼びました。その後も、地方のテレビ局や複数メディアからの取材が続き、注目度はさらに高まっていきます。

そして2023年、転機となる出来事が訪れます。ベトナム版「¥マネーの虎」に起業家として出演し、事業内容をプレゼンテーションしました。その内容が評価され、審査員の投資家から見事に50万USDの資金調達に成功したのです。この一件によって、「日本にあるベトナム飲食ブランドの代表格」として、二人の存在はベトナム国内でさらに広く知られるようになります。

こうした注目を決定づける出来事が、2023年11月に実現します。ベトナム国家主席が来日し、東京都知事と面会した際、その会合の会場として選ばれたのが、「バインミーシンチャオ浅草店」だったのです。

 

※バインミーシンチャオ浅草店での取材時の二人。二人が座っているこのテーブルに、実際に国家主席と東京都知事が座っていたとのこと。


今ではベトナム国内でちょっとした有名人となったユイさんとタムさん。インタビューの最中にも、「最近はベトナムに帰ると、街中で時々声をかけられることがあるんです」と、はにかみながら語ってくれました。
 

「バインミーといえばシンチャオ」と呼ばれる存在を目指して


※食事のあと、ベトナム出身のビッグビート社員がくつろいでいる様子をパシャリ。「なんだかここにいると落ち着くんです」と語ってくれました。
バインミーシンチャオは、日本人だけでなく、日本に暮らすベトナム人にとっても、出身の故郷を感じられる憩いの場となっているようです。


***

今ではベトナム国家からも、「ベトナムを代表する国民的飲食店」として認められた「バインミーシンチャオ」。その歩みは多くの注目を集めてきましたが、ここで立ち止まることはありません。最後に、お二人に今後の展望を伺いました。

「さまざまなメディアから取材をいただき、たくさんの反響もありましたが、一方でコロナ禍による影響など、順風満帆とはいかない時期もありました。今回、資金調達に成功したことで、今後は直営店への投資が可能になりました。まずは、2025年度中に店舗数を、現在の24店舗から30店舗に拡大することを目標にしています。また、時期はまだ未定ですが、アジアを中心とした海外展開も社内で計画しています」(ユイさん)

そして、タムさんが語ったのは、創業当初から変わらない想いでした。

「創業当時から変わらない想いがあります。それは、『バインミーシンチャオ』を“国家ブランド”にしたい、ということです。たとえば、『ハンバーガーといえばマクドナルド』『チキンといえばケンタッキー』というように、世界中の人が『バインミーといえばバインミーシンチャオ』と連想してくれるようになることが夢です。まずは日本でこのブランドを広め、そして次のステップとしてグローバル展開へ。その実現に向けて、これからも日々、改善と挑戦をつづけていきたいです」(タムさん)

 
執筆:上杉 公志

 
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ブイタン ユイ さん・ブイタン タムとともに「ASEAN」のセッションを盛り上げてくださる

ホストの長谷川 卓生さんの記事はこちらから

講演者の森 大輔さんの記事はこちらから

講演者のスワンシン・ラッチャタさん さんの記事はこちらから

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