デザイン 2020.06.18 マーケティングとデザインで未来を変える 〜25周年特別企画・第2章 尾﨑元高知県知事との対談〜

未来をワクワクさせる一手は、「選ばれる地方」にある!

代表・濱口です。

「マーケティングとデザインを考える」というテーマで執筆をスタートしましたが、本企画にあたって、私はかねてからぜひお話を伺いたいと思っていたリーダーたちとの対談を実現することができました。

彼らはそれぞれに素晴らしいリーダーシップを発揮され、マーケティングやデザインの力で社会に影響を与えてきました。そのうちの1人は、私の故郷である高知県で、2007年から3期連続で高知県知事を務められた尾﨑正直さんです。

尾﨑さんとは、新型コロナウイルスの影響が広がりつつあった3月中旬にお会いし、日本の未来や地方の在り方についての意見を交わしました。

*本記事には、対談の模様を収めた動画を埋め込んでおります。
対談動画の全編はこちら

 

浮かび上がる「一極集中」の課題

尾﨑さんとの対談の中でも話題に上がった「これからの日本の課題」。その1つは「東京一極集中」による歪みです。
しかし、遠くない未来にも、この仕組みは変わっていくのではないかと思っています。

東京は日本の首都として、非常に多くの機能を持った都市です。国の中枢機関が集結しており、政治が行われています。また、多くの企業の本社が置かれ、経営に必要な機能が揃う本社を中心に企業活動がなされています。

東京にはオフィスビルや商業施設、飲食店が立ち並び、ここにいるとあらゆるものが手に入ると感じられます。
私自身もそうですが、東京には人を惹きつける強い魅力があって、目指す対象として意識するようになっていました。東京に行きたい、東京で成功したい。そんな憧れから生まれるエネルギーは、人々の心を突き動かす原動力になっていると感じます。

当社でいえば、創業したばかりの頃、当時オフィスを構えていた西葛西から「何とか荒川を渡って、都心に移りたい!」という熱い想いを持って、よく社員と語り合ったものです。あちこちを転々としましたが、お陰様で、今では千代田区紀尾井町にオフィスを持てるようになりました。こうしたエネルギーは、企業や社会の発展には欠かせないのです。

ただ一方で、この状態は人々の心の中に東京を頂点とする一種のヒエラルキーを植え付けています。東京で成功したら偉いとか、東京でなければ大企業を相手にするビジネスができない、といった発想です。これらの一部は事実でしょうが、今まさにこのヒエラルキーの構造が限界にきているのではないかと思うのです。




私たちは今、あらためてこの「東京」の意味を考えるべきタイミングです。

今回の新型コロナウイルスの影響で見えた、都市の脆さや、経済の停滞。もちろんウイルス自体の脅威はありますが、東京に人口が集まっていること、政治や企業の中核が東京に置かれていることも1つの課題となり得ることがわかりました。

もし今、東京に大きな地震が起こるようなことがあれば、日本全体が破綻してしまうでしょう。東京だけにヒト・モノ・カネが集まっている状況では、その衝撃を受け止める術を持たないのです。

それと同時に、場所が離れていようとデジタルでつながれば仕事ができることが明らかになりました。
もちろんすべての業種で可能というわけではありませんが、これからの社会ではリモートワークも1つのスタンダードな働き方になるでしょう。

オフィスが存在することの意味や役割も問われます。東京ではない場所にサテライトオフィスを構えたり、地方に本社を移して今まで通りのビジネスを続ける企業も出てくるのではないでしょうか。「東京がいい、東京に行きたい」と選ばれていた時代から、違う場所を選んだり、違う働き方を選ぶ人が増えてくると考えています。

 

地場産業の発展を加速させるデジタル

東京一極集中の課題に対して、まず打ち手として必要になるのは、地方が強くなること。

地方が強い状態を社会制度として取り入れている例は、アメリカやドイツにみられる州制度です。どちらも州に政治・経済上の大きな権限が与えられ、個々の実態に合わせて自治を行える環境を作り上げています。国はそれらを統括するものの、それぞれの州の政策について積極的には関与していません。

もちろん、それぞれの国の歴史や背景があって州制度が敷かれているのも事実です。今から日本で州制度が採用されるというわけではないでしょうが、そこには “地方が強くあれば社会で戦っていける” というヒントがあるのではないでしょうか。



私は地方が強くなるために、その地方の産業が発展しなければならないと考えています。この考えは、尾﨑さんにも同意していただけました。「地方の産業が世界と戦えるほど高度化した日本であるべきだ」と、尾﨑さんは話します。
 
「東京一極集中は、多くのポテンシャルを活かせない状況をつくってしまっているのではないでしょうか。
地方の持つポテンシャルも、そのうちの1つ。それを打破するのが、デジタル×地場産業の構造だと考えています。

デジタルの知識や技術を取り入れて、それぞれの地場産業が世界で戦っていけるだけのレベルまで高められれば、わざわざ地方から東京へ出ていかなくともビジネスができます。若者もその土地に留まるようになるでしょう。

また、これまで生活上の理由から自分の理想としていた働き方ができない人もいましたが、その制約を乗り越えて自分の志を果たせる日本になるのではないでしょうか。」(尾﨑さん)




私自身も、地方が直接世界と戦っていくという考え方には大いに賛同しています。デジタルはそれを可能にする1つの武器です。

尾﨑さんの語るように、地場産業を高度化するためにデジタル技術を取り入れるというのは、とても有用でしょう。それと同時に、デジタルは世界とつながるための武器にもなります。

今、日本には約165万人の外国人労働者がいます。今の私たちは、日本で働く意思を持って来日した人々を受け入れる構造でしかありませんが、反対にこちらからも「この人と働きたい・この技術を取り入れたい」という思いがあれば、それを伝えることができるのです。

世界の人々と、互いに積極的な想いを持ったコラボレーションができれば、きっと産業の発展につながることでしょう。これは地方を強くするのと同時に、私の考える本当の意味でのグローバルを実現することができるのです。



 

今の課題を解決する視点、新しいものを生み出す視点

地方を強くするための秘訣としてもう1つ、尾﨑さんからは地方の実情をしっかりと見つめることの重要性が話されました。

特に地方は、地理的条件やその土地の歴史によって、今持っている強み・弱みがはっきりと表れています。ほしいと思ったものも、こうした条件や予算の制限などで、すべてが手に入れられるわけではありません。

例えば高知県では、坂本龍馬をはじめとする歴史コンテンツや、豊かな自然に支えられた文化が根付いていますが、地理的条件から、重化学工業系の工場を建てることができなかった過去があります。
何を持っていて、何を持っていないのか。これを見極めることが非常に重要なのです。



こうした尾﨑さんのお話から、私は「今ある課題を解決する視点」と「今はない新しいものを生み出す視点」が養われるのではないかと感じました。「今ある課題を解決する視点」では、地方それぞれに持っている課題に対して、地方ならではの打ち手が見えるようになると思うのです。

今回の対談からは少し離れますが、尾﨑さんは高知新聞に寄せた回顧録の中で、産振計画・防災対策・長寿県構想・教育改革の大きなテーマで、知事の在任期間中の活動について振り返っていました。その中でも、長寿県構想の取り組みで、医療・福祉の分野は地域の実情に応じた政策展開が必要だと語っています。

例えば、高知県は県民1人当たりの医療費の高さが日本でも1、2を争うという事実があり、それは中山間部の医療・福祉サービスが手薄く、都市部に移動しての入院を迫られているから、という実情が原因となっています。
この実情が見えたことによって、高知全体で何かを変えるよりも、中山間に特化して支援をする方が得策だという判断がなされました。

各都道府県でも、それぞれの実態に合わせた工夫がきっと行われている。そう考えた尾﨑さんは、関係省庁に対して地方独自の工夫を後押しする制度創設を働きかけたそうです。私は、地方の実情を把握できたからこそ見えた解決策なのだと思います。

「今はない新しいものを生み出す視点」では、何を持っているかを理解しているからこそ、足りない部分を外部からの力を借りてどう埋めるか、というのが考えられるようになると思います。

新しいものをつくることなので正解はないでしょうが、例えば尾﨑さんは、先ほどの地場産業とデジタルを掛け合わせるためには、今はまだ十分でないデジタルの知見を高め、実践的にデジタルを取り入れてみる施策が必要だろうと説いています。

そのためには、例えば大学における知見を地域・産業に活かすことや、オープンな形で地域同士で情報交換ができ、共同開発のデジタルイノベーションが生まれるようなプラットフォームを整えられるとよいのではないか、と尾﨑さんは考えます。

もしかすると、それが先ほどのグローバルの視点で、国内外を問わず知見を持っている人の力を借りる、というのも選択肢になるかもしれません。取り入れやすい新しいツールの開発を待つのではなく、どうやったら実装できるかを考え、今までにない方法を考えてみることが実は近道かもしれないのです。



 

他ではない、“自ら”の地方が「選ばれる」ために

実情を把握し、地場産業の高度化を中心に地方を強くすることができれば、「東京ではなく、その地方がいい!」という声が高まり、結果的にその地方が選ばれる状態につながっていくことでしょう。理想の姿があり、現状があって、そのギャップをどう埋めていくか。これもまさしくマーケティングです。

一極集中の課題を打破していくカギは、社会の制度や企業の価値観を変えることもありますが、地方におけるマーケティングとデザインもその1つでしょう。前者はなかなか変えられるものではなく、長期的に時間がかかりますが、後者は今までやってきたことを踏まえてマーケティングの考え方を取り入れる、比較的シンプルな発想だと思います。


高知県アンテナショップ「まるごと高知」

尾﨑さんの在任期間中、高知県でもマーケティングの考え方に基づいて、地産外商の取り組みを中心とする様々な政策が行われてきました。東京にいる私たちであれば、銀座にある “まるごと高知” にその考え方を見ることができます。

高知県がどんなマーケティング戦略を持って、形にしていったのか。それはまたあらためて、別の章でご紹介することにしたいと思います。


 
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