マーケティング 2024.02.19 タイのプロサッカー選手馬場さんの「選ばれる自分になるために」

2023年12月、ASEANの温度を体感する旅「ビッグビート イン バンコク アロハロハツアー」が催行されました。

旅のテーマは『Think Local & Go Global!』ー自分の居場所を大切に外とつながってよりよい未来のために挑戦しよう!という意味が込められています。
(タイ・バンコクにビッグビートのメンバーが集結した様子はこちらから)

このテーマに合わせて、今回ニシタイ編集部ではASEAN・タイで挑戦されている3名にインタビューを実施。今回は、タイのプロサッカークラブ『スパンブリーFC』で活躍する馬場さんに、ビッグビートの前垣がお話を伺いました。


馬場 悠企(ばんば ゆうき)さん

滋賀県出身。ポジションはMF。草津東高校から京都産業大学を経て、2009年よりJFLのSAGAWA SHIGA FCに加入。2012年タイ・ディヴィジョン1リーグのスパンブリーFCに移籍。中盤の要として活躍し、チームのタイ・プレミアリーグへの昇格に貢献した。
その後はスパンブリ、バンコクFC、チョンブリ、BBCU、タイホンダ、ナコンパトム、トラート、BGパトゥム・ユナイテッドFC、チェンマイFC、ネイビー、ランパンでプレー。タイリーグの2部から1部に10チーム中6チームを昇格させたことから「昇格請負人」とも言われる。現在は再びスパンブリーFCで活躍中。



聞き手 前垣 遼

株式会社ビッグビート
アカウントディビジョン シニアアカウントマネージャー
2012年に新卒入社。外資ソフトウェアベンダー、内資SaaSベンダー、内資ディストリビューターのBtoBマーケティング支援に携わる。
中学から大学までサッカー部に所属。ポジションはMF。海外旅行は数年に1回、現地でのコミュニケーションは友人任せ、好きな料理は日本食。


 

プロにこだわり、たどり着いたタイ

ータイで初めて所属してリーグに参加したチーム、スパンブリーFCでまたプレーされていますね?

はい、タイに来て12年目。またスパンブリーに戻ってきました。初めて所属したチームに戻って来れたのは嬉しいですね。スパンブリー県ってどこにあるか知ってますか?


ー地図では見ましたが、行ったことないです

バンコクにいる人もなかなか行かないかもしれません。日本で言えば北関東くらいな距離感でしょうか。


ー群馬あたりですかね(笑)早速いろいろお伺いしたいのですが、そもそも馬場さんはなぜタイに?

小さい頃から「プロサッカー選手になりたい」という夢がありました。Jリーグが開幕して、カズ(三浦知良)さんの活躍ぶりが印象に残っている。自分もああいうふうに騒がれたいと思ったのがきっかけです(笑)

それから大学までやり続けて、いろいろなクラブの練習にも参加しましたが、なかなかプロのオファーはありませんでした。

その頃、当時地元の強豪チームだったSAGAWA SHIGA FCの関係者から声をかけていただいたんです。チームがJリーグを目指していくという話もあったし、プロになるチャンスだと思いました。それで練習に参加したら1回で合格、所属が決まりました。


ー僕から見たらJFLもほぼプロです

強いチームでしたね。3年所属したうちに2回リーグ優勝を経験してます。

でもプロチームを目指していくという話で入団して1年経った頃、そのつもりがないらしいという噂が聞こえてきたんです。それでも自分はここで頑張って、いずれJリーグのチームから声が掛かるようにアピールしようと思いなおして、そのままずっと続けるつもりでいました。

ところが2年目の終わりに、大学時代のライバルだった同級生がプロを目指してタイに行ったことを偶然知って、ものすごい衝撃を受けました。「海外でプロになるっていう手があるのか!!」と。プロ=Jリーグという目線しかなかったんです。

それで自分も行こうと決めました。すでに3シーズン目も契約してしまっていたのですぐには動けなかったけど。辞めると伝えて手続きを終えて、体づくりと貯金をして、1年後の2011年12月にタイに渡りました。


ープロになるために、タイへ。プロにこだわったのはなぜでしょうか?

周りの影響が大きいかも。プロになった選手や意識の強い仲間が近くにいたから、その中で自然とプロに向かっていましたね。プロにならなきゃという想いで突っ走ってきた。そして近くにいたライバルが、ひっそりと野望を持ってタイに渡ったのを知って「お前がプロなるなら俺もならなアカン!」となったわけです。


ー初めてのタイ、不安はありませんでしたか?

ありませんでしたね。忘れてるだけかもしれないけど(笑)どうとでもなる!と思ってた気がする。エージェントには「これからタイのサッカーは盛り上がっていくタイミング、チームは決まるよ」と言われていたのでそれほど心配はしていなかったです。



しいて言えばお金の面で若干不安はありましたね。初めての海外生活で、チームが決まるまでどれだけの生活費が必要かもわかっていませんでしたから。10万バーツ(当時のレートで約25万円)を持っていったけど、それが多いのかどうかもわからない。贅沢できない気持ちがあったし辛いものも苦手なので、しばらくは毎日カオマンガイ食べてました(笑)


ー僕は神経が細いタイプなので…チームが決まっていない状態でタイに渡るなんて僕だったら胃が痛くなりそうです

確かに、あれで決まらなかったらどうなってたんだろう、怖!(笑)
そして、実は正直海外に行くのは苦手です。いま行くとなったら緊張します。


ーそうなんですか!当時は「やるしかねえ」という気持ちでしたか?

そうですね。とにかくライバルを追いかける一心でした。


ーいまでこそASEANで活躍する選手は多いですが、2012年頃はあまり聞かなかったように思います

それが、行ってみたらすでに10人くらい日本人選手がいました。SNSもいまほど活発じゃないし情報がなかっただけで。当時はタイサッカーが盛り上がり始めた頃で、知っている人は先に動いていたんですね。

僕はチームが決まるまでに2ヶ月くらいかかりましたが、1年前に渡っていたらもっと早く決まったんじゃないかと言われました。
 

タイで見た日本と自分

ー日本とタイでは選手として選ばれるポイントは異なりますか?

大きな違いはタイでは数字、結果で評価されるということ。ミッドフィルダーの貢献度という視点では見てくれません。

だから、目に見える結果を出すことに注力してきました。12年の間ずっと意識していまも実行していることの一つです。

僕のボランチというポジションは、周りに生かされています。逆に周りを生かしていく役割でもある。パスを出してその選手を活かして得点につなげたい。僕がボールもったら走れ!といつも仲間には言っています。

そしてもちろん自分でもチャンスがあれば前にでて得点をとること。いい意味でも悪い意味でも前へという意識が強くなりましたね。




ー仲間をアシストして、チームで結果を出す。だから「昇格請負人」と言われているんですね。別の記事で「一度海外でプレーすると危機感が増す」とおっしゃっていたのを拝見しました

結果で評価されるし、外国人選手の立場ですからね。タイでは多くのチームが毎シーズン選手をがらっと変えてしまいます。下のチーム、ティーンまで変えて新しいチームをつくります。勝ってない、試合に出ていないと変えられてしまうわけです。

逆にそれだけ移籍するチャンスがあるってこと。1試合でも活躍してメディアに取り上げられたりするとすぐにビッグクラブに引き抜かれます。


ーハットトリックでもしたら大変だ!日本とはチームのつくり方、考え方が全然違うんですね

日本はチームビルディングを大切に1〜2年かけて軸を持ってチームづくりをしたりしますが、タイでは最短で勝つことが大事で5試合結果がでなかったらすぐに交代です。何が正解かわからないけど、とにかくタイではプロセスは重視されないし、長く待ってはもらえません。


ーそんなタイサッカーの環境で何度も移籍を経験されていますが、新しいチームで仲間に自分を信用してもらうためにコミュニケーションで気をつけていることはありますか?

行動で示すこと。具体的には走ることです。日本ではチームのフォローのために走る、というのが徹底されていますが、タイの選手は疲れたら走らないので、走る人は目立ちます。だから新しいチームにいったら、できるだけ走る。まずは自分のプレーを知ってもらうために動くようにしてますね。


ーなるほど、行動で示すんですね。ちなみにピッチの外ではありますか?

日本も同じだけど、お酒を交わせばすごく仲良くなれますね。タイでは他人に強制することもされることもなく、自分のペースで飲みます。強い人も多くて朝方まで飲むことも。そんなときは酔ったふりして帰ります(笑)



でも基本的にタイでは彼女や家族がいると、みんな練習が終わったらすぐに帰るんですよね。チーム監督などが言わない限りあまり行きません。

 

プロとは何か

ー馬場さんが思ういいチームとは、どのようなチームですか?

チーム内の紅白戦で、サブ組が上手なチームは勝てる、いいチームですね。下からの押し上げでレギュラーが変えられる危機感があることは大事です。

サッカーは個人の戦術理解度や能力の影響も大きいですが、やっぱりチームでプレーします。結果を出すために、試合に出るメンバーだけじゃなくて全体で結果のために準備しているのが強いチームですね。


ー選ばれる立場として、意識していることはありますか?

結果を出すためには、試合に出ないとだめなわけです。だからまずは試合に出ることを目標に、土日に開催される試合に向けて、1週間を過ごすようにしています。

年齢的に怪我のリスクは高いので、練習で怪我をしないよう、筋肉に負荷を与えすぎないように気をつけるようになりました。そしてどんなに大敗しても、メンタルを落とさないように徹底すること。


ーなるほど、まずは試合に出ること

そうです。怪我をせずに試合に出て、出たら90分の中で結果を残すようにハードワークする。選手として生き延びるために徹底しています。
 
オリジナルトレーニング方法が紹介されているYouTubeチャンネルも運営している

ーさすがプロです

もちろん怪我をしないことは徹底していますが、お酒も好きだしストレッチをしないこともありますよ。意識高いと思われているかもしれませんけど、ときには低いこともあります(笑)


ー馬場さんにとって、プロとはどのような存在ですか?

「夢を与える人」って言いたいけど。やっぱり、自分でしっかりお金を稼ぎ出す人、稼ぐチカラがあってこそプロだと思います。

そしてプロになってみて思ったのが、プロサッカー選手ってすごいんやということ。

僕はタイに来てプロサッカー選手になって、たくさんの人との出会いがありました。ありがたいことに紹介いただくことも増えて、これまであまり交流のなかった経営者の方々と知り合う機会も増えました。

特殊な職業だからこそ、新しい出会いやチャンスがある。ずっとプロとして生きていくのは難しいけど、これを活かしていきたいですね。

 

好き!だからここにいる

ーInstagramに掲げられている「Life is not fair,get used to it(人生は公平でない。そのことに慣れよう)」の意味を教えてください

タイもどこの社会もそうだけど、理不尽なことはもちろんある。きっとみなさんもありますよね?活躍しても評価されないこともあるし、いいプレーしてないやつがいいチームに所属できることもあります。

タイには契約金の未払問題もあります。僕にはまだ起きていないけど、そういうことが起きることはあるよという意味で、教訓として入れてます。

ちなみに、そんなとき他の選手たちはお金もらえないなら練習しないと言いますが、日本人選手は練習しよう、となります。考え方の違いですね。


ーなぜタイでの挑戦を続けているのですか?

タイに来るときは確かに自分にとってチャレンジでした。でもいまは、タイにいるほうが正直楽です。サッカー選手としていろいろな方が応援してくれているし、タイが好きになってしまったので。


ーどのような点がお好きなんですか?

マイペンライ精神はすごく好きになりましたね。練習や仕事に遅れてくるって日本ではあまりないけど、ここでは堂々と遅れてくる。「遅れるつもりなかったけど」「気にするな!」という感じ。苛立つことも多少ありますが、ひとりで怒っていても情けなくなるだけなので怒りません(笑)

バイクタクシーも、あるとないとでは大違い!日本にもほしいなと思います。屋台飯も好きですね。みんな優しくてサービスしてくれます。




ー人との距離が近いですね

そこがまただいぶ好きです。


ー40歳まで現役を目指しているそうですが、今後の目標について教えてください

タイの日本人選手の中で一番になりたいと思って、35歳のときに決めました。当時は40歳の現役選手がいなかったので。でもいま41歳でプレーしている選手がいるんです!だからその選手以上の年齢を掲げないといけないですね(笑)。とりあえずやれるまでやりたいです。

セカンドキャリアについても考えて準備したほうがいいよと言われることもありますが、とりあえずいまはサッカーに全力で集中したい。まずはやり切ることを考えて生活しています。その中で何か見つかるかもしれないと思っています。


ー長く続けられる原動力は何でしょうか?

やっぱりサッカーが好きなんでしょうね。観るのもプレーするのも好き。やっているといろいろなストレスがたまって文句を言いたくなることもあります。でもここまでやってきて、やっぱり好きなんだなと思えるんです。そして好きでやったことはやりきりたい。40過ぎても伸びるかもしれないですしね!来年やめてるかもしれないけど。


ーサッカー選手という仕事を通してタイで何を成し遂げられたいですか?

長くやって、みんなから褒められたいです。結局目立ちたいと思っているんですね(笑)その年齢でそのプレーできるってすごいよねって言われたい。コアなサッカーファンの方には知っていただいてますが、もっとタイの方に知っていただきたいですね。そして日本のサッカーのいいところも伝えていきたい!


ー成果を上げることに苦労しているビジネスパーソンもいますが、どのようなアプローチを取れば良いでしょうか?

できないことを頑張るよりも、できることをやったほうがいいと思います。
無理で不得意なことはスペシャリストに任せて、自分は自分ができることを全力でやるのがいいですね!


ービジネスもサッカーも変わらないですね。馬場さん、ありがとうございました!


 
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