マーケティング 2024.01.30 タイで「いま」を生きる!フルーツと人に魅せられた渡邊さんの挑戦
2023年12月、ASEANの温度を体感する旅「ビッグビート イン バンコク アロハロハツアー」が催行されました。
旅のテーマは『Think Local & Go Global!』ー自分の居場所を大切に外とつながってよりよい未来のために挑戦しよう!という意味が込められています。
(タイ・バンコクにビッグビートのメンバーが集結した様子はこちらから)
このテーマに合わせて、今回ニシタイ編集部ではASEAN・タイで挑戦されている3名にインタビューを実施。今回は、タイで起業してフルーツ販売と新しいツアー企画に挑戦する渡邊さんに、ビッグビートの瀬川がお話を伺いました。
■プロフィール
渡邊 健一(わたなべ けんいち)さん
K&G project Co.,Ltd 代表
大学卒業後、日本政府観光局(JNTO)に就職。管理部門勤務を経て2019年6月タイ・バンコク事務所に配属。3年間駐在する中でタイフルーツの魅力と課題に気づく。2022年8月に退職、独立。現在は、タイフルーツの特産品化を目指す農園事業とフルーツ狩りなど農園や生産者とのふれあい体験を提供する旅行事業を行う。
瀬川昌樹
株式会社ビッグビート
アカウントディビジョン シニアアカウントマネージャー
大学卒業後、2005年4月よりビッグビートにて企画営業職に従事。国内外のICT系クライアントのマーケティングコミュニケーション戦略から実行までサポート。
勤続約20年、次のステージは経営視点から「祭」と「政」によって「街=会社」を盛り上げていくべく奮闘中。
私の大好きな「のび太」と「タイランド」の2方面から着想を得て、新しく「のびタイランド」と発案しタイの観光魅力を発信しています。僕は元々インスタは苦手でやっていなかったんですが、絶対やったほうがいいと勧められて、アカウントを開設させられた、というのがはじまりです(笑)
渡邊さんのInstagramアカウント「nobithailand」
仲間と旅行をしたときに、僕が笑いながら寝て、起きてすぐに笑うので「3秒で寝る!のび太かよ!」と言われて、メガネも掛けていたのでその場でアカウント名が決まりました。メガネの瀬川さんも、タイではのび太ですね。
ー 確かに言われそうです(笑)渡邊さんはインスタでもフルーツや旅情報などを発信していらっしゃいますが、それらの事業について改めて教えていただけますか?
K&G project Co.,Ltd という会社を立ち上げて経営しています。タイで外国人が会社を設立するにはタイ人の出資が51%以上必要なので、この会社はパートナーであるマンゴー農園のグランドさんと一緒につくりました。ケンとグランドが立ち上げた会社だからK&Gです。タイらしくサクッと楽観的な感じで決まりました(笑)。
事業の柱は2本、1つは農業事業です。日本人が知らない、何ならタイ人も知らないタイフルーツを特産品化しようと悪戦苦闘しながら取り組んでいます。もう一つが旅行事業。農園にお客さんをお連れしてフルーツ狩りができるようにと法人として旅行業資格(ライセンス)を取得しました。フルーツ狩りから始めましたが「村人と触れ合えるのが楽しい」という声があって、いまではいろいろなタイの田舎体験ができる旅を企画しています。やりながら自然と見えてきた強みですね。
農園事業では農園について調査をしたいという依頼も増えてきています。農家さんの多くは、初めての人にはなかなか奥まで見せてくれません。これまでに築いた96の農園とのコネクションを活かして、日本から来た農業関係企業のお手伝いをしています。
ー 日本を紹介する仕事をしようと思ったきっかけは?
僕は京都の同志社大学出身で、古都研究会に入っていました。そこで、外国人観光客に八坂神社や知恩院などで案内をするボランティアをやっていたんです。外国人に日本の魅力を伝えるのは、むっちゃおもしろくてとても好きでしたね。
就職先を検討する中で、JNTOは政府の機関として日本を代表して紹介していく影響力、スピード感を持ってやれる魅力を感じて志望したところ、入社することになりました。
ー それでタイに来ることになったのですね
タイに配属されたのは入社して4年目。実は僕、もともとドイツ駐在が希望だったんです。採用されたのも僕のドイツ語力に期待されたんだと思ったんですが、最初は管理部門に配属されました。そこで経営管理や人事を担当しながら、毎年フランクフルト事務所への異動希望を出していたのですが希望は叶わず。ある時「君の性格は、タイだね」とバンコク事務所への異動を打診されました。
出世ルートからはずれたかなとも思いましたが、親の「やったほうがええで」っていうアドバイスもあって、一晩でタイ行きを決めました。
ー 一晩で!
はい(笑)。それからタイのスワンナプーム空港に着いて、タクシーの運転手に「シャチョー!」って声をかけられたり、車中で様々な話をする中でその明るさにあっという間に魅了されました。元気、パッション、心の距離の近さ、でしょうか。一瞬でタイの魅力を感じたんです。
初来タイ時の渡邊さん
タクシーに乗って移動する間もずっと英語で楽しく話しかけてくれたおかげで、とても安心できましたね。今振り返れば、実はその時タクシー代をぼったくられたのですが(笑)、全然良いです、本当に感謝しています。
そしてみんなと早くコミュニケーションをとりたいと、到着したその日のうちにタイ語の勉強を始めました。
タイに来て半年くらい経って、タイ語にも自信がついてきたので地方にも行ってみようとチェンマイへ。空飛ぶランタンが有名なコムローイ祭りに参加したんです。その時に純粋に感動して、地方文化の面白さに魅せられました。これからいろいろ旅をしよう!と思った矢先に、コロナ禍になってしまいしばらくは行けませんでしたが、落ち着いてからは旅行しまくりました。1ヶ月に4箇所くらい行きましたね。
旅の中で、特に感動したのがフルーツでした。僕は子供の頃からフルーツ狩りが好きだったので、旅をしながらいろいろな地方のフルーツを見て回りました。
例えばパイナップル。海の近くの南の土地で採れるものと、北の山で育ったもの、東の野原のものでは、それぞれサイズも味も水分濃度も全然違っていたんです。
いまのパートナー、グランドさんのマンゴーも衝撃的でしたね。果肉の柔らかさがもう違います。堅い繊維がなくて、スプーンですくうとプリンのようにぷるんぷるん!木にぶら下がる「天然マンゴープリン」です。初めて食べたときには、50個くらい買って帰って配りました。
それから、僕が感動したフルーツをみんなにも食べてほしいと、インスタで共同購入を募り始めたのが始まりです。
ー フルーツの紹介を本格的に仕事としてやろうと決めたのは?正直、安定した職を捨てて、しかも異国の地でやるって勇気がいるんじゃないかと思います……
一つは2022年3月に始まったウクライナでの戦争がきっかけです。ニュースで、ロケット弾が落ちて店が燃えている前で「俺の店が!」と嘆く店主の姿が映されていました。それをみて自分は恵まれてるなと思ったんですね。
例えば自分の人生において、明日から戦争が始まるとしたら、自分は何をやりたかったのかと考えました。僕が感動したようなタイの魅力を日本人に知ってほしいし、タイ人にも日本を知ってほしいと思ったんです。
「のびタイランド」の存在も大きかったですね。発信を続ける中で、いいねって応援してくれる人が多かったので、なんとかやっていけるだろうと思えたんです。もちろん中にはネガティブに言ってくる人もいましたが、味方のほうが圧倒的に多かったです。
そして家族に話した次の日に、辞表を出しました。
ー また決断が早い!
ビビりな自分を知ってしまっているから、すぐ行動しないと行動しないだろうなと。タイに来るのも、決めるまでに猶予をもらっていたら来なかったかもしれません(笑)。
辞める決心がついた理由のもう一つに、タイ語がある程度できるようになっていたということもありました。ダメだったら大阪に帰ってタイ語で観光ガイドをやればいい、語学と明るさを活かせば何とかやっていけそうだ、と思えたんです。
ー タイにいる間に自信をつけられたんですね
そうですね、タイは本当に僕を変えてくれました。
僕を含め日本人は『こうしなければならない』という観念や、『正解ルート』がインプットされていることもあると思いますが、タイの人たちは『自分の人生は自分の心や気持ちを大切に生きたい!』と言っている(笑)。
前にルンピニ公園に行ったときに、サンドアートをやっているお兄さんがいました。企業務めもせずにストリートパフォーマンスをしている青年というと、社会的には成功していないと見られることもあるかもしれません。でもそのお兄さんは、すごい笑顔で楽しそうに描いていて、とても幸せそうだったんです。心のままに生きているように見えて、すばらしいなと思いました。
農園で働く人も、「いま」に焦点を当てています。いいフルーツが採れたら、みんなで踊って喜んだりするんです。自分軸で素直に強く歩んでいける人たちに、たくさん出会いました。
それが僕の性格を良くしてくれたし、人生を明るくしてくれたように思います。タイにいる間にいろいろな方のチャレンジ精神にも触れて、自分もやってみたいと思うことにチャレンジできて、いま本当に楽しいなと感じています。この国で、そんな人たちと一緒に生きていきたい、と思うようになりましたね。
バンコクと地方の人とでは違ってきているかもしれませんが、地方ではそうですね。心地よく楽しくいるために仕事している。今日は楽しくないから仕事のペース遅いです、みたいなこともありますね(笑)。
ー そんなタイと日本とのビジネス、文化の違いで困ることはありますか?
めちゃくちゃあります。例えばツアーのとき、タイ人スタッフが家族からの電話に出るために、お客様をしばらく待たせてしまったときは焦りました。日本では時間を守るのがとても重要で、例えばフルーツを注文されたらお届け日を守りますよね。タイでは「神様がフルーツをおろしてくれなかった、あと1週間もすればできるかな」という電話が当日に来たりします(笑)。
自分軸が強すぎて、難しい場面が多いのも正直なところ。このビジネスを始めてから1年2ヶ月経って、いままさに向き合っているところです。
ー タイの方と仕事をするうえで気をつけていることは?
友達でいるってことですかね。お金だけの付き合いのビジネスパートナーではなくて、友達ポジションです。タイでは、ビジネスのシーンでも優先順位は、家族、友達、ビジネスパートナーの順です。本当に家族の絆が深いという人は多いですね。もちろん家族にはなれないので、親友、友達に近づきたいと思ってやっています。
ー どうやったら友達になれるんでしょうか?
以前、ナーン県のあるカカオ農園と取引したいと思ったときには、とりあえず訪問しました。基本的に問い合わせをしても会ってもらえないからです。
とにかく行ってみて、遠くから姿が見えたら「チョコレート食べたい!話したい!友達なりたい!」って明るく大きく声をかけるんです。それから日本のチョコレート菓子をあげたりして、少しずつ仲良くなっていく。収穫させてくれた御礼にお金を置いたりして、信頼関係を築くのです。
そしてここで体験したことは素晴らしいから他にも友達を連れてきたいんだ、という思いを伝えて最終的にモニタツアーを実現していきます。
マンゴーも、収穫の時期には手伝いにいきますよ。そんな感じなので、僕のビジネスはめちゃくちゃ効率が悪いです(笑)。先行投資として時間もお金もかかります。下手な経営だなと思うけど、3〜4年かけて仕組みをつくっていくつもりです。会社として次は「もっとこうしたら効率いいんじゃない」と実行してくれる人を待っています(笑)。
確かに、いまは雑草を抜いている感じかも(笑)
でも、大変だけど、それがまた楽しいですね。起業してランチ代は1/3になりましたが!退職してもったいないことしたんじゃない、と言われることもありますが!
自分の人生の主人公として挑戦していて、人生を謳歌している実感があります。家族にも「あんたの人生にあってる生き方見つかってよかったね」と言われます。
ちなみに、何とか焦らずにやってこれているのは、ある程度の収入があるからこそ。いま自分の事業とは別に企業にも所属して前職の経験を活かした仕事もしています。自由度高く働かせていただいているので、事業と両立できています。ありがたいですね。
めちゃくちゃ忙しいですが、いまは駆け抜けるのみ!
ー スゴイ……!渡邊さんのモチベーションの源は?
自分でもなんでこんなに頑張れるんだろうと思うことがあります。でもやっぱり、お客さんの声と村の人の元気な様子が僕を支えていますね。先日中学生が山岳ツアーに参加してくれたのですが、自分だけじゃ体験できない旅だった、また行きたい、ありがとうって言われました。うれしいですね。
旅に映えを求める時代ですが、人とのつながり出会う旅を大事にしたいと改めて思いました。こういうツアーは効率悪くてもなくしちゃいけないし、自分ももっと出会っていくために旅を続けたいですね。
ー 関わってくれる人たちの笑顔はチカラになりますよね。これからビジネスを続けていくうえで大切にすることはありますか?
僕が目指すのは、タイの地方の文化や人、フルーツの魅力を多くの方に知ってもらうこと。それを提供する村の人たち自身も楽しいと思って笑顔でやっている、という状態を大切にしたいですね。お金のために割り切ってやる、という風にはなってほしくありません。
だからそのためにもちゃんと友達でいられるように気をつけます。タイ人の友達たちから「お金が〜」という話しが出てくるのには理由があるはずだと思うので、しっかり話しを聴いて一緒に解決策を考えたいです。
ー これから、どんなことを成し遂げたいですか?
タイに来てから、日本人だからって良くしてもらったことがたくさんあります。諸先輩方が築いた信頼の恩恵に与りました。これからも日本とタイが仲良くいてほしいので、そのいい流れをずっと続けていけるよう、僕もちっちゃな歯車になれたらいいなと思っています。
日本の人にバンコクだけでなくタイの地方のいいところも知って楽しんでもらい、それを通じて村の人たちにも日本人ってええやつやな、日本に行ってみたいなと言われたい。
経営は難しいですが、小さくても続けていけたらいいですね。是非、タイにお越しの際は、タイの村へ行く現地ツアー(村ツアー)にご参加いただき、タイの皆さんの笑顔と触れ合っていただけると嬉しいです。
ニシタイ編集部員と共にバンコクにて
旅のテーマは『Think Local & Go Global!』ー自分の居場所を大切に外とつながってよりよい未来のために挑戦しよう!という意味が込められています。
(タイ・バンコクにビッグビートのメンバーが集結した様子はこちらから)
このテーマに合わせて、今回ニシタイ編集部ではASEAN・タイで挑戦されている3名にインタビューを実施。今回は、タイで起業してフルーツ販売と新しいツアー企画に挑戦する渡邊さんに、ビッグビートの瀬川がお話を伺いました。
■プロフィール
渡邊 健一(わたなべ けんいち)さん
K&G project Co.,Ltd 代表
大学卒業後、日本政府観光局(JNTO)に就職。管理部門勤務を経て2019年6月タイ・バンコク事務所に配属。3年間駐在する中でタイフルーツの魅力と課題に気づく。2022年8月に退職、独立。現在は、タイフルーツの特産品化を目指す農園事業とフルーツ狩りなど農園や生産者とのふれあい体験を提供する旅行事業を行う。
瀬川昌樹
株式会社ビッグビート
アカウントディビジョン シニアアカウントマネージャー
大学卒業後、2005年4月よりビッグビートにて企画営業職に従事。国内外のICT系クライアントのマーケティングコミュニケーション戦略から実行までサポート。
勤続約20年、次のステージは経営視点から「祭」と「政」によって「街=会社」を盛り上げていくべく奮闘中。
一瞬で魅了された、タイ
ー Instagram「nobithailand」拝見しました!もしかしてあの人気キャラクター「のび太」が由来に・・・?私の大好きな「のび太」と「タイランド」の2方面から着想を得て、新しく「のびタイランド」と発案しタイの観光魅力を発信しています。僕は元々インスタは苦手でやっていなかったんですが、絶対やったほうがいいと勧められて、アカウントを開設させられた、というのがはじまりです(笑)
渡邊さんのInstagramアカウント「nobithailand」
仲間と旅行をしたときに、僕が笑いながら寝て、起きてすぐに笑うので「3秒で寝る!のび太かよ!」と言われて、メガネも掛けていたのでその場でアカウント名が決まりました。メガネの瀬川さんも、タイではのび太ですね。
ー 確かに言われそうです(笑)渡邊さんはインスタでもフルーツや旅情報などを発信していらっしゃいますが、それらの事業について改めて教えていただけますか?
K&G project Co.,Ltd という会社を立ち上げて経営しています。タイで外国人が会社を設立するにはタイ人の出資が51%以上必要なので、この会社はパートナーであるマンゴー農園のグランドさんと一緒につくりました。ケンとグランドが立ち上げた会社だからK&Gです。タイらしくサクッと楽観的な感じで決まりました(笑)。
事業の柱は2本、1つは農業事業です。日本人が知らない、何ならタイ人も知らないタイフルーツを特産品化しようと悪戦苦闘しながら取り組んでいます。もう一つが旅行事業。農園にお客さんをお連れしてフルーツ狩りができるようにと法人として旅行業資格(ライセンス)を取得しました。フルーツ狩りから始めましたが「村人と触れ合えるのが楽しい」という声があって、いまではいろいろなタイの田舎体験ができる旅を企画しています。やりながら自然と見えてきた強みですね。
農園事業では農園について調査をしたいという依頼も増えてきています。農家さんの多くは、初めての人にはなかなか奥まで見せてくれません。これまでに築いた96の農園とのコネクションを活かして、日本から来た農業関係企業のお手伝いをしています。
ー 日本を紹介する仕事をしようと思ったきっかけは?
僕は京都の同志社大学出身で、古都研究会に入っていました。そこで、外国人観光客に八坂神社や知恩院などで案内をするボランティアをやっていたんです。外国人に日本の魅力を伝えるのは、むっちゃおもしろくてとても好きでしたね。
就職先を検討する中で、JNTOは政府の機関として日本を代表して紹介していく影響力、スピード感を持ってやれる魅力を感じて志望したところ、入社することになりました。
ー それでタイに来ることになったのですね
タイに配属されたのは入社して4年目。実は僕、もともとドイツ駐在が希望だったんです。採用されたのも僕のドイツ語力に期待されたんだと思ったんですが、最初は管理部門に配属されました。そこで経営管理や人事を担当しながら、毎年フランクフルト事務所への異動希望を出していたのですが希望は叶わず。ある時「君の性格は、タイだね」とバンコク事務所への異動を打診されました。
出世ルートからはずれたかなとも思いましたが、親の「やったほうがええで」っていうアドバイスもあって、一晩でタイ行きを決めました。
ー 一晩で!
はい(笑)。それからタイのスワンナプーム空港に着いて、タクシーの運転手に「シャチョー!」って声をかけられたり、車中で様々な話をする中でその明るさにあっという間に魅了されました。元気、パッション、心の距離の近さ、でしょうか。一瞬でタイの魅力を感じたんです。
初来タイ時の渡邊さん
タクシーに乗って移動する間もずっと英語で楽しく話しかけてくれたおかげで、とても安心できましたね。今振り返れば、実はその時タクシー代をぼったくられたのですが(笑)、全然良いです、本当に感謝しています。
そしてみんなと早くコミュニケーションをとりたいと、到着したその日のうちにタイ語の勉強を始めました。
地方で出会った、衝撃のフルーツ
ー フルーツに注目したきっかけは?タイに来て半年くらい経って、タイ語にも自信がついてきたので地方にも行ってみようとチェンマイへ。空飛ぶランタンが有名なコムローイ祭りに参加したんです。その時に純粋に感動して、地方文化の面白さに魅せられました。これからいろいろ旅をしよう!と思った矢先に、コロナ禍になってしまいしばらくは行けませんでしたが、落ち着いてからは旅行しまくりました。1ヶ月に4箇所くらい行きましたね。
旅の中で、特に感動したのがフルーツでした。僕は子供の頃からフルーツ狩りが好きだったので、旅をしながらいろいろな地方のフルーツを見て回りました。
例えばパイナップル。海の近くの南の土地で採れるものと、北の山で育ったもの、東の野原のものでは、それぞれサイズも味も水分濃度も全然違っていたんです。
いまのパートナー、グランドさんのマンゴーも衝撃的でしたね。果肉の柔らかさがもう違います。堅い繊維がなくて、スプーンですくうとプリンのようにぷるんぷるん!木にぶら下がる「天然マンゴープリン」です。初めて食べたときには、50個くらい買って帰って配りました。
それから、僕が感動したフルーツをみんなにも食べてほしいと、インスタで共同購入を募り始めたのが始まりです。
ー フルーツの紹介を本格的に仕事としてやろうと決めたのは?正直、安定した職を捨てて、しかも異国の地でやるって勇気がいるんじゃないかと思います……
一つは2022年3月に始まったウクライナでの戦争がきっかけです。ニュースで、ロケット弾が落ちて店が燃えている前で「俺の店が!」と嘆く店主の姿が映されていました。それをみて自分は恵まれてるなと思ったんですね。
例えば自分の人生において、明日から戦争が始まるとしたら、自分は何をやりたかったのかと考えました。僕が感動したようなタイの魅力を日本人に知ってほしいし、タイ人にも日本を知ってほしいと思ったんです。
「のびタイランド」の存在も大きかったですね。発信を続ける中で、いいねって応援してくれる人が多かったので、なんとかやっていけるだろうと思えたんです。もちろん中にはネガティブに言ってくる人もいましたが、味方のほうが圧倒的に多かったです。
そして家族に話した次の日に、辞表を出しました。
ー また決断が早い!
ビビりな自分を知ってしまっているから、すぐ行動しないと行動しないだろうなと。タイに来るのも、決めるまでに猶予をもらっていたら来なかったかもしれません(笑)。
辞める決心がついた理由のもう一つに、タイ語がある程度できるようになっていたということもありました。ダメだったら大阪に帰ってタイ語で観光ガイドをやればいい、語学と明るさを活かせば何とかやっていけそうだ、と思えたんです。
ー タイにいる間に自信をつけられたんですね
そうですね、タイは本当に僕を変えてくれました。
僕を含め日本人は『こうしなければならない』という観念や、『正解ルート』がインプットされていることもあると思いますが、タイの人たちは『自分の人生は自分の心や気持ちを大切に生きたい!』と言っている(笑)。
前にルンピニ公園に行ったときに、サンドアートをやっているお兄さんがいました。企業務めもせずにストリートパフォーマンスをしている青年というと、社会的には成功していないと見られることもあるかもしれません。でもそのお兄さんは、すごい笑顔で楽しそうに描いていて、とても幸せそうだったんです。心のままに生きているように見えて、すばらしいなと思いました。
農園で働く人も、「いま」に焦点を当てています。いいフルーツが採れたら、みんなで踊って喜んだりするんです。自分軸で素直に強く歩んでいける人たちに、たくさん出会いました。
それが僕の性格を良くしてくれたし、人生を明るくしてくれたように思います。タイにいる間にいろいろな方のチャレンジ精神にも触れて、自分もやってみたいと思うことにチャレンジできて、いま本当に楽しいなと感じています。この国で、そんな人たちと一緒に生きていきたい、と思うようになりましたね。
楽しく生きるために働く
ー タイでは、ワークもライフも「楽しい」ことが大切にされているんですねバンコクと地方の人とでは違ってきているかもしれませんが、地方ではそうですね。心地よく楽しくいるために仕事している。今日は楽しくないから仕事のペース遅いです、みたいなこともありますね(笑)。
ー そんなタイと日本とのビジネス、文化の違いで困ることはありますか?
めちゃくちゃあります。例えばツアーのとき、タイ人スタッフが家族からの電話に出るために、お客様をしばらく待たせてしまったときは焦りました。日本では時間を守るのがとても重要で、例えばフルーツを注文されたらお届け日を守りますよね。タイでは「神様がフルーツをおろしてくれなかった、あと1週間もすればできるかな」という電話が当日に来たりします(笑)。
自分軸が強すぎて、難しい場面が多いのも正直なところ。このビジネスを始めてから1年2ヶ月経って、いままさに向き合っているところです。
ー タイの方と仕事をするうえで気をつけていることは?
友達でいるってことですかね。お金だけの付き合いのビジネスパートナーではなくて、友達ポジションです。タイでは、ビジネスのシーンでも優先順位は、家族、友達、ビジネスパートナーの順です。本当に家族の絆が深いという人は多いですね。もちろん家族にはなれないので、親友、友達に近づきたいと思ってやっています。
ー どうやったら友達になれるんでしょうか?
以前、ナーン県のあるカカオ農園と取引したいと思ったときには、とりあえず訪問しました。基本的に問い合わせをしても会ってもらえないからです。
とにかく行ってみて、遠くから姿が見えたら「チョコレート食べたい!話したい!友達なりたい!」って明るく大きく声をかけるんです。それから日本のチョコレート菓子をあげたりして、少しずつ仲良くなっていく。収穫させてくれた御礼にお金を置いたりして、信頼関係を築くのです。
そしてここで体験したことは素晴らしいから他にも友達を連れてきたいんだ、という思いを伝えて最終的にモニタツアーを実現していきます。
マンゴーも、収穫の時期には手伝いにいきますよ。そんな感じなので、僕のビジネスはめちゃくちゃ効率が悪いです(笑)。先行投資として時間もお金もかかります。下手な経営だなと思うけど、3〜4年かけて仕組みをつくっていくつもりです。会社として次は「もっとこうしたら効率いいんじゃない」と実行してくれる人を待っています(笑)。
未来への道づくり
ー デコボコの地面に砂利をひいて、道をつくっていくようです確かに、いまは雑草を抜いている感じかも(笑)
でも、大変だけど、それがまた楽しいですね。起業してランチ代は1/3になりましたが!退職してもったいないことしたんじゃない、と言われることもありますが!
自分の人生の主人公として挑戦していて、人生を謳歌している実感があります。家族にも「あんたの人生にあってる生き方見つかってよかったね」と言われます。
ちなみに、何とか焦らずにやってこれているのは、ある程度の収入があるからこそ。いま自分の事業とは別に企業にも所属して前職の経験を活かした仕事もしています。自由度高く働かせていただいているので、事業と両立できています。ありがたいですね。
めちゃくちゃ忙しいですが、いまは駆け抜けるのみ!
ー スゴイ……!渡邊さんのモチベーションの源は?
自分でもなんでこんなに頑張れるんだろうと思うことがあります。でもやっぱり、お客さんの声と村の人の元気な様子が僕を支えていますね。先日中学生が山岳ツアーに参加してくれたのですが、自分だけじゃ体験できない旅だった、また行きたい、ありがとうって言われました。うれしいですね。
旅に映えを求める時代ですが、人とのつながり出会う旅を大事にしたいと改めて思いました。こういうツアーは効率悪くてもなくしちゃいけないし、自分ももっと出会っていくために旅を続けたいですね。
ー 関わってくれる人たちの笑顔はチカラになりますよね。これからビジネスを続けていくうえで大切にすることはありますか?
僕が目指すのは、タイの地方の文化や人、フルーツの魅力を多くの方に知ってもらうこと。それを提供する村の人たち自身も楽しいと思って笑顔でやっている、という状態を大切にしたいですね。お金のために割り切ってやる、という風にはなってほしくありません。
だからそのためにもちゃんと友達でいられるように気をつけます。タイ人の友達たちから「お金が〜」という話しが出てくるのには理由があるはずだと思うので、しっかり話しを聴いて一緒に解決策を考えたいです。
ー これから、どんなことを成し遂げたいですか?
タイに来てから、日本人だからって良くしてもらったことがたくさんあります。諸先輩方が築いた信頼の恩恵に与りました。これからも日本とタイが仲良くいてほしいので、そのいい流れをずっと続けていけるよう、僕もちっちゃな歯車になれたらいいなと思っています。
日本の人にバンコクだけでなくタイの地方のいいところも知って楽しんでもらい、それを通じて村の人たちにも日本人ってええやつやな、日本に行ってみたいなと言われたい。
経営は難しいですが、小さくても続けていけたらいいですね。是非、タイにお越しの際は、タイの村へ行く現地ツアー(村ツアー)にご参加いただき、タイの皆さんの笑顔と触れ合っていただけると嬉しいです。
ニシタイ編集部員と共にバンコクにて