デザイン 2020.06.17 マーケティングとデザインで未来を変える〜25周年特別企画・第3章 尾﨑元高知県知事との対談〜

自らが挑戦を続ける、社会の基盤と個人の意思

前回の記事では、元高知県知事の尾﨑正直さんとの対談で、「選ばれる地方」になることについてお話をしてきました。

その中で、新型コロナウイルス感染症をきっかけに、東京の価値・地方の価値が見直され、東京を頂点とするヒエラルキーや一極集中の構造が変わっていくのではないか、という私の考えを述べました。今すぐ劇的に変わるものではないでしょうが、構造から見直され、時間をかけて変化を遂げていくことになると思います。

この社会の変化に合わせて、これまでの仕組みや、やり方が、必ずしも正解ではなくなる時代がやってくるのだと感じています。そこに求められるのは、私たち自身も変化をし続けることです。

今回は「私たち1人ひとりの生き方」のテーマから、私の考えや、尾﨑さんにお話しいただいた内容をお伝えしたいと思います。

*本記事には、対談の模様を収めた動画を埋め込んでおります。
対談動画の全編はこちら


 

デジタルが広げる個人のフィールド

昨年9月に行われた民間調査によると、スマートフォンの普及率は約8割に届くところだと、日経新聞の記事で報道されていました。

スマホ所有率8割に、格安スマホも最高水準 民間調査
※出典:日本経済新聞 電子版

インターネットが私たちの生活に身近なものになってから、人々の暮らし方もずいぶん変わったと思います。それまではメディアから一方的に発信される情報が私たちの見えている世界の大部分でしたが、今は自分から情報を探して、必要な情報を取捨選択しています。

また、インターネットを通じて個人が発言する場面も格段に増えました。料理のレシピをシェアしたり、不要品をネット上のフリーマーケットに出品したり、YouTuberが登場したり…。そして、SNSで世界中の人とつながって、交流ができるようになりました。
私自身もFacebookに投稿をして、古くからの友人や仕事でお付き合いのある方々とのコミュニケーションを楽しんでいます。

最近では、当社のFacebookアカウントからFacebook Liveを活用して、ヨガのレッスンを配信したりしました。企業としての発信や、就職活動などにもSNSは大いに利用されていますね。このように、デジタル上でのコミュニケーションが当たり前になってからは、個人の意思や発言が大きな力を持つようになりました。


Facebookを活用して、社内外問わず多くの方とヨガを楽しめました

また、新型コロナウイルスの感染拡大によって、一時的に経済が停滞するという事象が起こっています。経営者は従業員とその家族を守るために、今を必死に乗り越えようとしています。

業種によっては、今まで人の力で行っていた業務をデジタル化する動きが出てくるでしょう。安定した組織だからといって、自身が関わる業務がこれまで通りの内容ではなくなるかもしれないのです。

リモートワークを導入し、より実践的に運用する企業も増えました。リモートワークは今後、スタンダードな働き方の1つになると思っています。個人の働く場所や空間の制限がなくなるのです。通勤時間の減少によって日々の時間の使い方も変わり、家族と過ごす時間が増えたり、副業を始める人も増えるかもしれません。

私は、私たち1人ひとりがどんな未来を得たいか、そのためにどんな働き方・生き方を選択するか、というのが重要になると考えています。個人として、いかに新しいチャレンジをしていくかが、求められることでしょう。

 

社会人が学びなおせる環境づくり

このような個人のチャレンジを加速させる考えについて、尾﨑さんからも「 “今までのやり方が正しい” という考え方は捨てて、自由な挑戦をする流動性が社会に必要となるだろう」と賛同の意見をいただきました。



尾﨑さんは、「幕末の志士、坂本龍馬らが活躍した激動の時代を経て、日本では明治維新が起こりました。このとき、それまでの身分制度が廃止されるという、大きな社会の転換がありました。今の状況もそれに近しいような大きな社会の変化があると思います。

これからやってくる新しい時代には、自分自身で課題を発見し、客観的に分析をして解決策を考え、自ら実行できる行動力のある人材が求められると考えています。重要なのは “自分” が主体となって行うという点です。

当然、今までに培ってきたものとは違うスキルや視点が求められるはず。このスキルや視点をいかに養っていくかが、これからの社会に求められることだと思います。」と語りました。

また、尾﨑さんはそのうえで、「“社会人が学びなおせる環境づくり” に重点を置くべきだ」と説きます。

「幼少期からの学校教育を見直して、課題発見力と課題解決力を養うことも必要になると思います。ただ、まずは社会の変化に合わせてどんどん社会人が学びなおして、新たな分野に挑戦していける基礎をつくることが大切ではないかと考えています。
新たな視点を持って、生まれ変わろうとしている大人たちを応援する施策が求められるのです。彼らが次の挑戦をするために必要な力を養うのが、社会人向けの教育機関とそのカリキュラムです。」(尾﨑さん)


(写真提供:土佐まるごとビジネスアカデミー)

尾﨑さんによれば、高知県では「土佐まるごとビジネスアカデミー」というプログラムを通して、県として社会人の学びなおしを支援しています。事業戦略づくりやマーケティング、組織マネジメントなどのカリキュラムがあり、年間で3,000~4,000名、延べ24,000名に受講されてきました。

オンラインで受けられる授業もあり、自由な時間に限りのある社会人でも無理なく受講できる仕組みも整えられています。こうした教育機関の拡充が、社会人の次の一歩を生み出すためのきっかけになるのです。

尾﨑さんは「新たなチャレンジをする個人の想いと、それを応援する一連の仕組みがあり、1人ひとりが自分をアップデートしていけることが社会全体の新陳代謝につながっていくのだ」と熱く語りました。

この尾﨑さんの考えを聞いて、私は同じ高知県の出身で、Bigbeat LIVEでもおなじみの小島英揮さんの “精神的脱藩” という言葉を思い出しました。

個人が学びなおすことによって、今までとは違う選択肢や視野を手に入れることができるでしょう。 かつて、脱藩した坂本龍馬が新しい時代の礎を築いたように、彼のようにたくましく、志を持った大人たちが新しい時代をリードしていくのだと強く感じました。



 

自分がやりたいこと・好きなことを選ぶ

ここまで個人の行動や選択が重要な意味を持つとの考えを述べてきましたが、私は「自分自身がどんな選択肢を選びたいか」が大切だと考えています。

この連載の最初の記事で、会社の経営においても常にたくさんの人がワクワクする未来を選んできたとお話ししました。これはビッグビートという会社の視点で、これからどうなりたいかを考えて、多少の失敗をしてもより大きな成長ができる選択肢を考えてきたということです。

これは個人の生き方においても同じで、数ある選択肢の中でも、自分がやりたいこと・好きなこと・得意なことを徹底的に突き詰めてやっていくのがいいと考えています。

例えば、私は中学生の時に出会ったエレキギターともう45年以上、人生を共に歩んできております。かっこよくエレキギターが弾ければ、たくさんの女の子からモテるんじゃないか…!と淡い期待を抱いたのがきっかけです。
必死に練習して弾けるようになって、58歳になった今でも趣味の1つとして楽しんでいます。仲間たちと組んでいるバンドで年に数回LIVEにも出演させていただいて、それほど上手くはないなりにも毎度楽しい時間を過ごしています。

今思い返しても、ギターを始めた当時の「とにかくかっこいい自分になりたい!」という気持ちは大きなエネルギーになっていたなと感じます。次は、あの曲が弾けるようになりたい。そんな些細な目標でも、大きなモチベーションが出てくるのには変わりないのです。


42年前の筆者、今も同じギターで同じ曲を弾いている

これは、どんな人にも共通することでしょう。自分のなりたい姿に向かうとき、好きなことや得意なことをするとき、そこには必ず想いやエネルギーがあふれてきます。このエネルギーがある状態でしか、未来を切り拓くことはできないでしょう。

昭和から平成にかけての日本では、「東京に行きたい」「いい企業で出世したい」といった想いを持った人が少しずつその願いを叶え、経済の発展を遂げてきました。まずは原動力となる気持ちが大切なのです。

自分は何が好きで、何が得意なのか。どんな性格・キャラクターなのか。
自分自身を見つめ、きちんと認識・理解をすることが、次にどんな未来をつくっていけるかのヒントになると考えています。

繰り返しになりますが、個人の発言や意志が力を持つこれからの時代では、個人の選択や行動が、その人の価値や生き方に影響します。働き方が変わることで、組織としての企業の在り方も変化するでしょう。

前回の記事で、東京を頂点とする社会のヒエラルキー構造について意見を述べましたが、今ある日本企業の大半も同じようにヒエラルキー型の構造です。課長職の人間が小さなチームを抱え、その複数のチームを部長職が管理する。自分の上長にあたる人が誰で、職務上の連絡や報告などを誰にすればよいかが明確な構造です。

企業としては、こうした管理職のおかげで末端に至るまで1人ひとりに目を向けることができ、統制の取りやすい体制だといえます。しかし、リモートワークも加速するであろうこれからの時代では、1人ひとりが今どんな状態でいるのかを理解するのが難しくなります。

これまではオフィスで個人の働く姿を見ることができたので、仕事をする過程も1つの評価とすることができましたが、リモートワークになるとその人の姿が見えないので、成果物でしか評価ができないことにもなるでしょう。果たして、そうした評価がいいかどうかも含めて、企業のヒエラルキーが崩れていくきっかけになり得るのではないかと感じます。

組織に所属さえすれば個人が守られ、組織力で上げた成果が正義だとされていた時代から、これからは力を持った個が集まって組織を形成する時代へ変化すると、私は考えています。
名のある有名な組織だから優秀な個人が集まって、成果を上げる企業になるのではなく、強い想いと力のある個人が集まったから、組織が強くなって成果が上がる、という構造になるということです。これは今までとは逆転の発想です。自分が「ここにいたい」と思う場所は自分で見つけられるし、自分でつくることができます。

だから、大切なのは「ここにいたい」という想いなのです。

 

小さな一歩から変化は始まる

これからどんな時代へと変化するのか、今は誰にもわかりません。
まさかオリンピックが延期になって、外に出られない期間がこれほど長く続くなんて、2020年が始まったばかりの頃は誰にも予想できませんでした。昨年までと全く同じような日常に戻るということは、今はなかなか考えにくいです。そんな状況でも、明日は必ずやってくるし、日々は続いていくのです。

時代の変化とともに、私たち自身にも変化が迫られることでしょう。変化の糸口になるのは、今の生活に身近なデジタルの世界で、誰か・何かとつながることができるということや、新しいことにチャレンジする気持ちを持ち続けるということです。

尾﨑さんの話すように、新しい学びの機会が提供されるかもしれません。自分の想いに共感してくれる仲間やコミュニティに出会うことができるかもしれません。今の自分、今までの自分にこだわらず、視座を高く持って、未来を見続けることが大切です。少しでも自分の心に引っかかる何かに出会ったら、恐れず一歩を踏み出してみること。それが小さな一歩でも、振り返れば大きな転機になるかもしれません。

これからのビッグビートや私自身がどんな変化を遂げていくべきか、今一度落ち着いて思いを巡らせている今日この頃です。根底にあるテーマは変わらず、マーケティングとデザインです。そしてここから、具体的な変化の一歩を踏み出していきます。
 
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