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BigbeatLIVE 2025.05.30 “らしさ”を追求するということ ー ノリと勢いできたすべての事業が結集したネットコマース斎藤さんの“現在地”とは

2025年8月1日に開催される「Bigbeat LIVE 2025」。

“らしさ”というキーワードを軸に「経営」「グローバル・ASEAN」「コミュニティ」「働き方と選ばれ方」というテーマでセッションを展開します。「働き方と選ばれ方」セッションでは、ネットコマース 代表取締役の斎藤昌義さんにホストとして登壇いただきます。

今、「自分らしく働きたい」「仕事のために自分らしさを見失いたくない」と考える若い世代が増えているといいます。
しかし、その「らしさ」はどのように造られるのでしょうか? 「自分らしく働く」とはどういう働き方なのでしょう?
IT業界歴42年、独立してからは30年間自分にしかできない事業を展開し、2023年に八ヶ岳南麓にワーキングプレイスを開設した斎藤さんにお話を聞きました。
 

会社勤めが嫌だった学生時代

「先を見越して戦略的に生きてきたわけではなく、『面白そう』と思ったら瞬間的にそっちに動いちゃうんですよね」と話すのはネットコマース 代表取締役の斎藤昌義さん。最新ITトレンドに関する講演や研修を通して次世代を担うIT人材を育成する事業を手掛けています。

斎藤さんは、大学卒業後に日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)に入社しました。しかし斎藤さん自身は、学生時代には「働く」ということにぼんやりしたイメージしか持っておらず、ずっと「人に雇われるサラリーマン的な働き方は性に合わないな」と感じていたそうです。早くから自分で独立してできる仕事をしたいと考え、カウンセリングに興味がありました。

そんな斎藤さんが就職するきっかけは学生結婚でした。パソコンショップでアルバイトをし、研究室のパソコンも自由に触っていた斎藤さんに、IBMに勤めている知り合いが、採用担当者に推薦してくれたそうです。
 

ビジネスをプロデュースする営業という仕事

「サラリーマンは嫌だ」と考えていた斎藤さんですが、IBMには13年間在籍しました。その理由について斎藤さんは「配属された営業の仕事が面白かったからです」と明快に答えます。
 

当時の企業向けシステムは、億を超える高額な商品でした。そのため訪問先企業の事業部門はもちろん、経営者をも説得しなければならず、提案資料やシナリオを練ったり、IBMの社長に同行してもらったりすることもありました。もちろん数字を上げないと評価にはなりません。斎藤さんは社内のリソースを組み合わせてベストな布陣を作り、営業にまわりました。

「どういうストーリーでこの案件を受注しようか、物語を描きながらアプローチ先を決めて、周囲の協力を得ながら提案していくのです。いわばビジネスをプロデュースする感じです。また当時のIBMはコミッション制だったので、営業は個人事業主のような働き方で、案件を取れば取るほど手取りも多かったのです」

時代の風潮もあり、斎藤さんはまさに“24時間戦う”働き方でした。オフィスのソファで仮眠したり、カプセルホテルに泊まったりすることもありましたが、「当時は“やらされている”という感じはまったくありませんでした」と話します。

「IBMの営業目標は非常に具体的で、上司から追い込まれたり、根性論で仕事を取ってくるようなものではありませんでした。当時のIBMの営業担当はコミッション(約束した目標に対する達成の度合いで給与の額が決まる制度)だったので、目標を達成するために何が必要なのかを自分で考え、クリアしたら懐も豊かになるわけです。誰かに使われるわけではありません。自分でターゲットを定めて、獲得するためのストーリーを作ってそれを実行して商談をまとめるという、個人事業主のような働き方をしていました」(斎藤さん)

そんな働き方のなかで、斎藤さんは、仕事に対する責任感と共に「仕事は自分ひとりだけで完結するものではない」と実感したそうです。

「自分が進めている案件に、エンジニアやその他のスタッフ、時には社長も関わりながら商談を進めていきますから。ただし、すべての責任は営業である自分が取ります。それだけの報酬をいただいていたし、協力してくれる周囲の人の頑張りを知っているので、真剣に向き合いました」(同)
 

そして退職、ネットコマースを創業

しかしそんな斎藤さんも13年経つなかで、だんだんと「退職しよう」と考えるようになりました。きっかけは自らが過労で倒れてしまったことでした。

明日、何をして稼いでいこうか悩んでいた斎藤さんに、声をかけたのは外資系の半導体製造装置企業でした。知人が在籍しており、営業のキャリアのある人材を探していて「営業支援をお願いできないか」と相談されたそうです。

「当時は気付いていなかったのですが、IBMのやり方は、営業のパフォーマンスを管理して予測を立て、それを実行する戦略を策定してしっかり予実管理をしながら進める営業スタイルだったんです。私にとっては身に付いたやり方でしたから、それをカスタマイズしてその企業に合うような仕組みづくりを支援することになりました」

こうしてその会社の支援を行う傍ら、手掛けたのがホームページを使ったオンラインショップです。まだWebが世の中に登場して数年で、決済の仕組みもない電子ポスターのようなショップでした。当時、インターネットユーザーは人口の1%にも満たないほどでしたが、「仕事でインターネットをどう使っていけばいいか、自分なりに整理して体系化していきました」と斎藤さんは説明します。すると、その資料に興味を持った人から「インターネットについて講演してくれないか」と頼まれ、インターネットの最新トレンドや活用戦略について研修を行うようになりました。

「半導体企業の仕事の隙間を縫って、講演や資料作りなどいろいろなことをやりました。思い返せば、IBM時代のキャリアを皮切りに、ITを知りたい人、活用したい人、新しい情報を待っている人、そんなさまざまな方々のご依頼に応えていくことで、これまでの知見やスキルが合わさり、何とかやってきたというのが正直なところです。個々の出来事は現在につながるきっかけでしたが、現在あるのはこれまでやってきたことのいわばマリアージュです。すべてがごっちゃになり、そこから何か生まれるみたいなところがありますから」

そんな実績を活かして、オリジナルのプログラムを作って研修事業を行ったり、事業改革や新規事業開発のコンサルティングを提供したりするようになった斎藤さん。この状況に大きな転機が訪れたのは、2008年のリーマンショックです。直接売上につながらない研修やコンサルは、真っ先に切られたそうです。暇な毎日が続き、収入もなくサラリーマンに戻ろうかとも思ったそうですが、いまさらという気持ちが強く、それは思いとどまったのだそうです。
ただ、どうせ暇だし、お金にもならない教材やコンサル資料を後生大事に抱えていても意味がないと思い、IT営業のための無償の勉強会を立ち上げてそれらを全て提供することにしたそうです。すると、あっという間に60名くらいが集まったとのこと。お金にはなりませんが、いまにつながる人脈を作ることができたそうです。 
そんな勉強会をきっかけに、また、そこに来てくれた人たちの助言もあり、最新のITトレンドとビジネス戦略を学ぶ「ITソリューション塾」を2008年に開講。それから17年、2025年現在は延べ4000名ほどの卒業生を輩出しているそうです。
 

ITの重鎮が開いた杜の仕事場、「紆余曲折が生んだ不思議な夢のカタチ」

そんな斎藤さんは、2023年に八ヶ岳南麓の森に日本古来の伝統的な建築工法を駆使したワーキングスペース「神社の杜のワーキング・ブレイス 8MATO(やまと)」をオープンしました。



八ヶ岳南麓との斎藤さんの出会いは2016年のことでした。その5年前に起こった東日本大震災でボランティア活動をしていた斎藤さんですが、震災をきっかけに、首都圏で災害が起きたら避難できる場所が欲しいと考えるようになったそうです。そして、選んだのが八ヶ岳南麓でした。

自然豊かな過ごしやすい環境は心身ともに洗われるようでした。ここで過ごすうちに、「ここで仕事ができる環境を作ったら、多くの人が喜ぶのではとひらめきました。都会の人も来やすくなるのではと思いました。」と斎藤さんは話します。
そこで2700坪ほどの山林を購入して森を切り拓き、2023年に完成したのが8MATOです。

実は斎藤さんは、かねてから「アウトドアの仕事をしたい」と考えていました。

「実はIBMを退職した直後、半年間アウトドアショップを開いたことがあります。当時は小売のノウハウやアウトドア業界の人脈もなく、店はあっという間に閉じることになりました。それがこんな形で叶うとは思っていませんでした」と斎藤さんは感慨深く語ります。

八ヶ岳南麓は首都圏から近い人気の観光地ですが、手つかずの自然がたくさん残っています。一方、高齢化が進み限界集落も増えて、建物の6割が空き家という現状です。最初は、そんな空き家をリノベしてコワーキング施設を建てようとしたそうですが、「仏壇の置いてある家に他人が入って欲しくはない」という所有者の方からの声もあり、なかなか物件が見つかりません。また、リノベに相応のお金がかかることも見えてきました。ならば、放置されている山林を安く手に入れて自分好みの施設を建てようと思い至ったそうです。
「まさにノリと勢いで建てたのが正直なところです」と斎藤さんは説明します。
 


8MATOでは法人会員と個人会員という2つのプランを設け、施設の貸し切りや宿泊、キャンプ備品の提供など自然を楽しみながら仕事ができる環境を提供しています。年間会員になると、ITソリューション塾の参加費は無料になるという特典付きです。また、山梨県北杜市の「ふるさと納税」の返礼品として、8MATOを6ヶ月/12ヶ月使い放題の「8MATOプレミアムパスポート」の提供も始めました。 

ですが斎藤さんは「8MATOで儲けようとは思っていません」と言います。

「私はこれまで本当にたくさんの人に助けられてきました。こういう場が1つあることで、人同士がつながれるハブになれるかもしれませんし、私という存在もハブとして人同士をつないでいくことができるかもしれません。これからどうなるかわかりませんが、ワクワク感や面白さがありますよね。この年になったら、面白いと思うことをやらないと。あまり難しいことは考えないで、楽しいからやっているだけです。そう考えると、かつてのアウトドアショップの失敗も、失敗ではないのかもしれませんね」(同)
 

 

30代のみなさんに向けてのメッセージ

20代、あるいは10代後半から始まる社会人生活は、生涯の大部分を占めるもので、言い方を変えれば「その人の生き方そのもの」と言えるでしょう。だからこそ、何もかも初めてという状態の20代を駆け抜け、30歳を迎えてキャリアや働き方で悩む人が増えるのです。

斎藤さんに30歳当時のことを伺ったところ、「当時はIBMの第一線でひたすら働いていた時期で、サラリーマンこそ普通の仕事と思っていました」とのことでした。

大きな変化があったのは36歳の時でした。IBMを辞め、念願のアウトドアに関わる仕事を始めた時期で、アウトドア業界のさまざまな人を訪ねていったそうです。有名アウトドアブランドの社長にいきなり「今から会いに伺ってもいいですか」と電話したこともあったそう。面白い人、魅力的な人、つまらない人、さまざまな人と出会ったと言います。

 

こうした経験を経て、斎藤さんは次のようにアドバイスします。

「そこでわかったのが、サラリーマンがすべてではないということでした。サラリーマンを辞めて出会ったアウトドア雑誌のある編集者は、半年働いて、残りの半年は夫婦で海外に渡り、カヌーやマウンテントレールをして過ごしていました。そんな”非常識”なライフスタイルもアリなんだ!と驚きました。
他にも、これまでのサラリーマン時代の常識と違うことが当たり前にあることに気付かされました。そんな経験から言えることは、与えられた枠組みにとらわれず、好奇心の赴くままにいろいろなことに手を出してはどうかということです。
私の人生は、好奇心の赴くままに、ノリと勢いで走り抜けてきたようなものです。それでもこうやってなんとか生き延びています。
失敗もたくさんしました。それもいま思えば人生の貴重な肥やしになりました。立派な志を持って何かを成し遂げることは素晴らしいことだと思います。ただ、それだけが生き方ではありません。自分の“らしさ”は、好奇心の赴くままに、ノリと勢いで走り抜ける生き方の中で、結果として、見つかることもあります。大切なことは、その時、その時で、全力で駆け抜けることです。そうすれば、自ずと自分の限界も見え、同時に自分のできること、やりたいことが見えてきます。そこにこそ、自分の"らしさ"が浮かび上がってくるのだと思います」


撮影:野村 昌弘
執筆:岩崎 史絵

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斎藤さんとともに「働き方と選ばれ方」のセッションを盛り上げてくださる

講演者の落合絵美さんの記事はこちらから

講演者の樋口太陽さんの記事はこちらから


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