BigbeatLIVE 2025.09.04 LIVE レポート | "らしさ"を貫く経営者たちから見える「経営の本質」 ー Session4 ー
8月1日に開催されたBigbeat LIVE 2025。
ご参加いただいたライターの皆さんに、いち参加者としての視点から
LIVEの振り返りとレポートを執筆いただきました。
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こんにちは、ライターの中島佑馬です。
大盛況に終わったBigbeat LIVE 2025。今回は私も参加させていただき、今回はその内容をレポートしてみたいと思います。
今回紹介したいのが、「It’s my life!! -らしさで未来はグググっとよくなる-」をテーマに、イベントの最後を飾った経営セッション。
自らコトを興し、道を切り開く経営者の方々は、どなたも「熱い思いや信念」に裏打ちされた「自分らしさ」というものがあり、そして、それは企業経営のスタイルにも強くにじみ出ているのだと感銘を受けたセッションでした。
前半と後半の2部形式で開催されたこのセッションでは、計4名の経営者とビッグビート 次期代表取締役(2025年8月1日 当時) の大滝さんが登壇。
ファシリテーターには、株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役CEOの八子 知礼さんが努め、経営者それぞれがもつ「らしさ」に迫りました。
異なる立場から、さまざまな思いが語られたこのセッションの様子を、私の感想も交えながら紹介していきたいと思います。

株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役CEO 八子 知礼さん
「1つひとつを着実に積み重ねていく」重要性
まず前半の第1部で登壇したのは、自身もアマチュアゴルファーであり、ゴルフイベントを手掛ける株式会社ツーリッチ 代表取締役の豊島 豊さんと、音楽家出身で、アドビを経て現在外資IT企業のペガジャパン株式会社(以下 ペガジャパン)の日本法人代表を務める小沢 匠さん。
ペガジャパン株式会社 日本法人代表 小沢 匠さん
このユニークな経歴をもつ小沢さんですが、代表就任のきっかけの1つにあったのは、コロナ禍で奥さんが在宅で働く様子を初めて見たことだったと振り返ります。
「こんな分厚いマニュアルがあるんですよ。紙のマニュアルを開いて仕事をしている。もしこれが日本の企業の9割の業務で起きていたら、高い生産性は生まれません。もしペガジャパンが日本でその生産性を変えることができたら、まず隣にいる妻が救われるはず」。こう考えて小沢さんは代表就任を決意したと振り返ります。
小沢さんの思考の根底にあるのは、幼少期からのバイオリン経験から導き出した「分解の哲学」です。
「どんなに難しい協奏曲でも、複雑な楽譜でも分解するとただのドレミファソラシドにすぎない。」と語り、この考え方をビジネスにも適用し、「問題を解決可能なレベルまで分解して、決めた計画を1つひとつ順番に実行しきることにしか集中していません」と断言しています。
次に、日本ミッドアマチュア選手権5勝という前人未到の最多記録を誇るゴルファーとして活躍しつつ、自身で立ち上げた会社の代表取締役を務める豊島さんは「ミスを最小限に仕事を積み重ねていくっていうのが私の進め方。
ゴルフでも一発いいショットを打ちたいと思ってやってしまう方がほとんどですが、逆です。ミスを最小限にしたい」と、ゴルフとビジネスに共通する考え方を紹介しました。


写真右:株式会社ツーリッチ 代表取締役 豊島 豊さん
このお二人の話を聞き、私自身も趣味でゴルフを嗜む人間として、豊島さんの「ミスを最小限にする」という考え方には深く共感を覚えました。
ゴルフでは「やりたいことではなく、今の自分にできることをやる」ことが結果的に良いスコアにつながることを実感していますし、これは私自身の仕事の哲学でもあります。
小沢さんの「分解の哲学」についても、難しいタスクを分解していくと1つひとつの簡単な仕事になり、それをきちんとこなしていくことが大事だという考えは、まさにミスを最小限にできる手法だと感じます。
大胆さよりも、堅実さと再現性
会社経営というと、私はときに「大胆で思い切った決断」をするといったシーンも想像してしまうのですが、お二人に共通して見れらたのは、堅実なそのスタイルでした。小沢さんは「どの会社でも似たようなプロセスがあります。当社の製品をお客様に導入して生産性が高まるような仕組みをうまくつくり、それを他の会社でも再現性を高く構築できる。そうした人材が当社では大事」と語ります。
一方で、豊島さんもゴルフでも仕事でも大事にする考え方として「そのとき成功確率の高い選択肢を確実に選んでいく」と語ります。
これもまさに、小沢さんの語る成功の再現性というキーワードにつながっていくのではないかと私は感じています。
もちろん、お二人は、会社を率いる立場としてそう簡単には失敗が許されません。仕事のストレスはどうでしょうか。
小沢さんは「変革スピードや成長の角度を求められるプレッシャーはあるが、ストレスはゼロ」だと言い切ります。
「ストレスとは、自分が期待するものと現実のギャップ。誰かが設定した目標に対して達成しているかしていないかは、それほどストレスを感じない」と説明しました。

同じように豊島さんも、「同期には若くしてプロゴルファーとして活躍していく方も多い中で、自分は若い頃から上手だと思ったことがなかった」と振り返るように、早熟しなかったことで、逆に過去の自分を少しずつ超えていきたいという謙虚な姿勢や堅実さが今の結果につながっているのだと見受けました。
また、社長業をこなす方にとって避けられないテーマが「後継者選び」。
最後にこの話題を振られた豊島さんは「自分を引きずり下ろすぐらいの気概があり、野望を持った人を望んでいます。新しいクライアントを開拓し、自分らしい提案をするという"変化"がなければ続いていかない」と語ります。自らの任期を2年と決めている小沢さんは、目の前のお客様やパートナー、そして日本の社員や本社の役員に「自分はこうしたい、なぜならこうだから」という意思や想いを同じ言葉・同じ意味で伝えられる人が適していると述べました。
「唯一絶対の使命」を継承した先にある変革の姿
第2部は、少しテーマを変え、事業を継承した後継者として会社を経営する立場になった経営者が登壇。養豚業である家業を引き継いだ株式会社みやじ豚にて代表取締役社長を務める宮治 勇輔さんと、発電設備事業を手掛ける家業の株式会社ハタノシステムにて代表取締役専務を務める波多野 麻美さん、そしてビッグビートの大滝さんの3名が登壇しました。
まず宮治さんは「実は私自身全く事業を継いだという意識が無いんです」という言葉からスタート。
「どのように流通して、誰が食べているのかわからない豚」を、自分の代で「みやじ豚」としてブランド化して直販体制を構築したといいます。

株式会社みやじ豚 代表取締役社長 宮治 勇輔さん
波多野さんは、創業者である祖父が1946年に復員した際のエピソードを紹介しました。焼け野原となった東京を見た祖父は「どんな非常事態でも安定した電力供給ができれば街はこんなに崩壊しないのではないか」という思いから創業したといいます。波多野さんは家業の本質を「創業の心や志、理念といったものを預かり、次の世代にバトンタッチしていく役割」だととらえています。

株式会社ハタノシステム 代表取締役専務 波多野 麻美さん
事業継承で会社の経営層となった2人に共通するのは「家業は次の世代にたすきをつなぐことが唯一絶対の目的」という使命です。
「会社を継いでから変えないものと、自分の代で変えたいものは何だったか」という質問に対し、宮治さんは「いかに美味しい豚を育てていくか」という姿勢は変えず、営業部門を立ち上げてブランド化するという点を自分の代で大きく変えたと語ります。
波多野さんは、変えないものとして「社会や地域、業界や従業員にとっての存在意義」を挙げます。時代の流れや価値観の変化に伴って、創業時の思いやあり方をそのまま令和の世に再現することは難しくなりましたが、「祖父がもしこの時代に生きていたらどうしていたか?といったイメージを膨らませて意思決定することはある」と述べました。
次世代につなぐための変革について、宮治さんは自身が代表理事を務めるNPO法人 農家のこせがれネットワークでの経験から、「基本的にはあんまり変わりたくないって考える人が多い。いかに変わりたくない人たちをその気にさせて、誘導していくのか」が大事だと振り返ります。波多野さんは「イメージを持ってもらえるか」が変革のカギだとし、経営者が思い描くものを丁寧に説明することの重要性を強調しました。
大滝さんは宮治さんと波多野さんの話を聞いて、「何が何でもやるという力強い執念の重要性に気づきました。結局は、自分自身が変わらないと変革できない。変えたいと決めたものに対して、自分自身がどれだけコミットできるかということと、コミットしたことをしつこく仲間に伝えていくことの重要性を理解した」と述べました。

講演を聞きながら、私が新聞記者として働いていたころにお会いした「事業承継した経営者」の方々の顔が浮かびました。継承に成功した企業では、どこも新社長本人が会社の現状に危機感を覚えており、時には自社の技術を活かして全く「畑違い」のところで商品を展開して収益の柱としているところもありました。承継は変革であり、企業を存続させるためのチャンスでもあると感じています。
「家業は次の世代にたすきをつなぐことが唯一絶対の目的」という波多野さんの言葉は、3代にわたって事業承継した人だからこそ出る本質的な言葉に他なりません。時代に合わせて変化しながらも、創業の思いという不変の軸を持ち続けることが重要だと感じました。
「らしさ」は「心のよりどころ」
セッションのテーマである「らしさ」について、波多野さんは「自分らしさという言葉が、自分にとっては全然近い言葉ではなかった」と笑います。そして「らしさというのは心のよりどころ」だという定義を紹介し、「自分が安心したり、頑張ったりモチベーションをもてたりといったもの」だと説明しました。この定義から考えると、波多野さんの自分らしさとは「いろんな人にとっていい決断ができる」ことなのです。宮治さんは「起業したいと思ったときに、自分にしかできないことをしたいと思ったが、実際考えるとそんな仕事はない」と語り、「自分らしさや働くことを考えていると何もできなくなりそうな気がする。一生懸命働いた結果を振り返ると、自分らしさが見えてくるだろう」という所感を述べました。
本セッションの最後は、サプライズとしてビッグビート現代表取締役(2025年8月31日にて退任)・濱口さんにマイクが渡されました。
不意打ちを食らった形の濱口さんでしたが、「ビッグビートは日本に何千社もある広告会社の中で戦っている。ビジネスを継いで長く続けていくのがなかなか難しい業界でありながらも、賛同して継いでくれるだけでうれしい」とコメント。
さらに、「会社を30年やってきて、できれば40年、50年、そして100年を目指して続けていきたいという話を大滝を含めた若いメンバーと何度もした。そこに賛同してくれたのが今のメンバー」だと、たすきを渡す側の感慨を語りました。

このたすきを受け取る立場として、最後に大滝さんは「売上高100億円の会社にはなれないかもしれないが、100年続く会社にしたい。今後もビッグビートという会社が必要とされ続けるために、自分自身の『らしさ』をどう生かせるのか、経営に携わる立場として見極めていきたい」と語りました。
今回のセッションを通じて、異なる立場の経営者たちが語る「らしさ」の本質を垣間見ることができました。それぞれが自分なりの哲学と手法を持ちながらも、「再現性を仕組み化し勝ち筋を積み上げる」「複雑なものを分解して取り組む」「次世代につなぐ」という共通の価値観を持っていることが印象的でした。

執筆:中島 佑馬(ノーバジェット・マーケティング株式会社)
撮影:野村 昌弘