やってみた 2019.12.18 加速する「スマート農業」の実現化とビジネスチャンス

人間が生きていくのに食物は必要不可欠です。そして食べるのならば、より安全でおいしく、より安価であってほしいと思うものです。

そういった作物を栽培するには、農地や農業用設備などの環境整備と、技術や経験をもつ人材の確保が必要ですが、過疎化や高齢化が進む日本では、残念ながら農業そのものが縮小傾向にあるのが現状です。

そんな日本の農業の救世主ともいえるのが「スマート農業」。
いま、世界的に推進されているスマート農業の現状と、ビジネスの可能性にせまります。

 

日本の農業に革命をもたらすIT技術

我々が生活をするうえで必要不可欠なものになったIT技術。そのIT技術を駆使し、日本の農業の新たな形となりつつあるのが「スマート農業」です

AI、ロボット技術、ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット)といった先端技術を駆使し、労働力の削減、生産物の収量・品質向上を可能にする農業で、その国内市場規模は年々拡大しています。

ちなみに農林水産省によると、

スマート農業とは、ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、省力化・精密化や高品質生産を実現する等を推進している新たな農業のこと

といわれています。 

スマート農業を導入することにより、ハウスや農地などの環境を制御、農家の技術をデータ化し、通年で高品質な作物を栽培することを可能にしました。
また、日本の農業の問題とされていた、農業就業者の高齢化・減少、それに伴う労働力・後継者不足、食料自給率の低下、耕作放棄地の増加といった問題を解決できるのではないかといわれています。

そんななか、農林水産省は2020年度の農林水産関係予算に「スマート農業の実現」を柱に据えて新規要求し、スマート農業導入支援として15億円を確保しました。

2030年にはスマート農業関連の国内市場が1,000億円を超えると予測されていますが、このような農業にIT技術を使用するという取り組みは海外ではすでにされており、日本よりさらに進歩しています。 

 

 

世界でのスマート農業のあり方

世界一の農業大国で農作物輸出国第一位であるアメリカでは、スマート農業は「AgriTech(アグリテック)」または「AgTech(アグテック)」という、Agriculture(農業)とTechnology(科学技術)とを掛け合わせた造語で呼ばれていたりします。 

テクノロジーとして主にドローンがよく使われており、適切な量の肥料や農薬散布、生育状況や施肥状況の確認に使います。
そこで取得したデータをもとに、圃場における作物の成長や土壌のばらつきをマップ化、センサーで計測した光、温度などのセンシングデータを収集し、効率的な農業を実現させています。

またアメリカは広大な土地で農業している農家が多いことから、自動走行トラクターといった無人耕運機など、労力を軽減させる機械が多く使われています。

ほかにも、最新のICT技術を開発するベンチャー企業などと連携し、新たな農業の形を次々と試みているのが現在のアメリカです。


 
次に、アメリカに次ぐ農業大国で農作物輸出第二位のオランダです。

農業大国といえばオランダと答える人は多いのではないでしょうか。オランダは国土面積が九州ほどで、農地面積も日本が約454万haに対し約184万haと小さいにも関わらず、ICT技術を用いたスマート農業を活用し、産物輸出量世界二位まで上り詰めています。

近年ではオランダ・北ホラント州にある農業地帯「アグリポートA7」が日本でも大きな話題になっており、ここでは光、温度、湿度、肥料、給水、二酸化炭素濃度などをすべて管理することができる業務用ハウスが存在します。

これによりハウス内で作業にかかりきりになることもなく、また季節や天候、病害、害虫に悩まされることなく通年で、しかも無農薬で作物を育てることができ、まさに近未来的な農業を体現しているといっても過言ではない気がします。

 

農業に使用されるIT技術たち

スマート農業の概要や、海外での普及具合をざっと書きましたが 、具体的にどういったIT技術が取り入れられているか、日本のスマート農業でよく見られる2つの実用例を交えて紹介していきたいと思います。

【例①】環境測定システム
環境測定システムはワイヤレスセンサーネットワークシステムともいい、ハウス内に配置した無線センサー(子機)からリアルタイムでPC(親機)に情報収集するシステムです。 

これによりハウス内で測定した温度、湿度、照度などのデータを親機のPC上で記録し、可視化することにより、リアルタイムでハウス内の環境の傾向を確認・管理することができます。

また格納ファイルに日時とデータがセットで記録されているので、Excel などの汎用表計算ソフトを活用し、自由にデータを編集することもできます。

これを実際に取り入れた例のひとつに、鹿児島のトマトのハウス生産があります。

トマトの水耕栽培において環境測定システムを導入し、温度、湿度、日射量等をリアルタイムで測定・蓄積。それらの測定値をグラフにすることで視覚的に確認し、ハウス内の環境を制御しました。これにより、当初は知識不足で低収量であったものの、三年目には一年目の約三倍まで収量を増やしています。

また環境制御により温度、湿度による病気の発生を減少させ、収量増加に効果的な影響を与えました。
課題としては、比較検討するデータや標準モデルが少ないため、自己流で判断せざるを得ないことです。環境測定システムがもっと一般化し、各農作物の生産者ごとのデータを集約することができれば、さらに高品質な農作物の生産と高収量が可能になるでしょう。

【例②】 リモートセンシング
続いては環境測定システムと同じくらい使われているリモートセンシングです。

リモートセンシングとは物を触らずに調べる技術であり、農業では衛星リモートセンシングやドローンを使用して、圃場の土壌の状態や作物の生育状態を調べるのに主に使われます。

これらを調べることは農作物栽培において必須であり、圃場状態を定期的に調べることで作物の生育変化を観測予測することができ、土壌分析や生育診断、障害予測といった圃場の精密診断をすることができます。

また作物の生育状態を調べることは施肥のばらつきや病害、害虫被害の有無を知ることができます。北海道のコムギ収量支援システムでは、コムギの成熟予測マップ作成に衛星リモートセンシングが使用されていたりします。



上記の通り、農業においてITの技術は多様な場面で活用されています。そしてこのようなIT技術は農業だけに使われるのではなく酪農でも使われています。 

たとえば、搾乳ロボットの導入により、搾乳作業の自動化や、体重、乳量、乳質量といった個体別データの管理、個体毎に対応した自動給餌など可能になったほか、牛が死亡してしまう危険性のある乳房炎感染チェックや予防に有効といわれています。

また、牛にICタグ(歩数計)をつけることにより、個体の識別、搾乳状況、行動を把握することができ、さらに、牛の歩数データから発情しているかを検知できる発情検知システムを連動させることにより、酪農家の労力を大幅に軽減させました。


 
このように、第一次産業においてIT技術の活用が当たり前になる時代がやってきました。

それにともない、ここ数年で農業分野におけるデータや、AIの利用に関する契約ガイドラインが策定されました。

2019年には「農業データ連携基盤」WAGRI(農業関連データプラットフォーム)の運用が開始されるなど、農林水産省のみならず、民間企業・団体との連携による「日本のスマート農業化」が着実に進められています。
また、これらの動きは企業のビジネスチャンス拡大につながるとして、金融機関やITベンチャーなどの注目を集めています。

日本におけるスマート農業はまだスタート地点といえますが、日本全国へ普及するのも時間の問題であり、AIやICTを活用することで、これからますます日本の農業の形は変わっていくでしょう。

どのような技術が、どの産業に使われるかわからないものです。
その素早く移り変わっていく様を、引き続き注視していきたいと思います。

【参照】
首相官邸ホームページ「農林水産業全体にわたる改革とスマート農林水産業の実現」

農林水産省ホームページ

【農林水産省】「国際標準化につながる可能性がある事案の収集等」より(PDF)

【農林水産省】農業データ連携基盤について(PDF)

 
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