デザイン 2019.11.05 ビジネスと未来-自分の生き方をデザインする|山崎満広氏(後編)
新しい未来を創るには、どういう未来を目指してどう進むべきか、自分自身で決める必要があります。つまり、自分自身の個人的なリーダーシップを持ち、自分の未来や生き方を「デザイン」するということ。
そんな「デザイン思考を取り入れたライフスタイル」を実践しているのが、米ポートランド市の開発局で都市開発を進めてきた山崎満広さんです。山崎さんに、「デザイン」の本質と、デザイン視点で見た地方創生について聞きました。
〈インタビュアー〉野北瑞貴(ビッグビート マーケティングチーム ディレクター)
●山崎満広さんプロフィール
高校卒業後、1995年に渡米。2012年にポートランド市開発局に入局し、ポートランド市のまちづくりに携わる。現在は、これまでのノウハウを用い、日本各地で新規事業や都市開発プロジェクトなどに参画。持続可能な社会の実現を目指し、民学産官を繋ぎ、国や文化の枠を超え、創造的かつ総合的な戦略支援を継続して行なっている。
〈著書〉
『ポートランド-世界で一番住みたい街をつくる』*(学芸出版)、『ポートランド・メイカーズ クリエイティブコミュニティのつくり方 』(学芸出版社)。*第7回不動産協会賞を受賞
https://www.mitsuyamazaki.com/
ビジネスのデザインとは、自分の生き方をデザインすること
——前編の最後の方で、デザインという話が出ました。実は私たちビッグビートも、これから経営とマーケティングとデザインとの関係が非常に重要になってくると考えています。ただ、デザインという言葉は日本語にすると難しく、どうしても絵やクリエイティブ関連の用語と捉えられてしまうのも事実です。
先ほど山崎さんが話した「デザイン」は、クリエイティブの話ではなく、人生や働き方、やりたい仕事を自分自身で考え、動かしていくという意味で捉えていらっしゃったかと思いますが、山崎さんはデザインをどのように捉えていますか?
山崎さん:
前編でも説明しましたが、前にレジデントという形で在籍していたZiba Designは、その会社自身も、そして働いている人も自分で自分の仕事やライフスタイルをデザインしていたんです。
たとえば、ぼくの前にはシリコンバレーのスタートアップ雑誌の編集者として11年間働いていた人がいて、彼は「未来哲学者(Futurist)」を名乗って、さまざまなテクノロジー事情をデザイン視点で紹介し、世に送り出すという仕事をしていました。そういうなかにいると、自分で自分自身の仕事や生き方をデザインしないといけない=考えないといけない、と気付くんです。そこではたと、デザインの領域と深さにびっくりするんですよ。ぼくみたいにデザイン畑じゃない人間からすると、「これもデザインか、あれもデザインか」と愕然とする。
自分でデザインするということは、自由にできるということでもあります。だから、面白そうなプロジェクトがあれば「自分にできることはありますか?」とどんどん聞いて、参加していきました。いまもそうですが、そうやって土台固めをしている段階です。そういう意味で、デザインについては広く捉えていると思います。
いまの地方創生政策に欠けている視点とは
——「日本の都市計画にアメリカの知見を取り入れて、地域経済をデザインする」というお話がありました。
政府はインバウンド政策として、日本全体のブランド活性や訪日外国人のための環境整備を推進していますが、一方で、いま日本の都市、特に地方都市は、人口減少や少子高齢化などの課題を抱え疲弊しています。山崎さんの知見を生かすことで、こうした状況をどのようにリデザインできますか?
山崎さん:
ぼくはインバウンド政策は良いと思います。なぜなら、投資が地域経済に波及していくものだからです。ですがやはり、流行は一過性のものという側面もあるし、災害などが発生すると、壊滅的な打撃を受けます。「国の政策で、助成金が下りるから」など、目先だけの取り組みだと、もし台風や地震、津波のような災害が起こったら、それこそ次はマイナスから積み上げることになりますよね。だから、目先の取り組みではなく、やはり地場産業やインフラをしっかり固めることが必要だと考えているんです。
観光業とは、もともと外の産業であり、地場ではありません。だから災害があると、すぐに撤退してしまうんです。一般に、災害から一番最初に復興できるのは地場産業であり、本来ならば地場産業のなかに観光や集客に結びつくコンテンツがあることが理想です。土台のスポンジがあるから、上のクリームが引き立ち、おいしいケーキになるわけで、クリームだけだと土台がないから崩れてしまいますし、味も単調になってしまいます。
だからぼくは、産業政策が最重要で、そのためには雇用を生み出すシステムをデザインしないといけないと考えています。そのためには事業者が必要で、リスクを取ってもらってお金を使ってもらわないといけないから、そのために地域がマーケティングする。「うちの街で、一緒に経済を作っていきましょう。この地域はこういう特性があり、こういう面でサポートできるので、貴社はこれだけ成長できます」と、しっかり伝える。これが落ち着いてから、伸びている部分をうまくメッセージングして、観光に使っていく方が、やり方としては健全なのではないでしょうか。そこに話が至らないのが、いまの地方創生の課題です。
地方都市には大きなビジョンを描ける人材が必要
——どうすればその状態から脱却できるのでしょうか。
山崎さん:
多くの行政マンは、会計や人事を回すのは得意でも、自分の地域のイメージを作ってマーケティングするスキルを育ててきていないんです。だから、外部から専門家を呼んできても、マネジメントすらできない。そもそも、ビジョンも描けません。
もし本気で改革をしたいのなら、やはり人材から育てる必要があると思います。興味がある人に、専門的な勉強と実績を積んでもらって、その知識や経験を生かし、実際に戦略とプランを組み立てて、内側から実行していくスキルが必要です。
土木担当なのか景観なのか、長期経済戦略なのか、守備範囲がとても広いのに、ざっくりと一言「まちづくり」で片付けているのも問題です。専門分野を磨き、その一段上のレイヤーから戦略計画を作り、そして「うちの地域の得意産業は何か」と考え、そこを伸ばしていく。そういう意味では、人材育成と共に、得意分野を見つけて磨いていくところから始める必要がありますね。
——簡単にはできないことですね。特に、地場産業を強くするとはいっても、「うちの地場産業はこれです」と明確に答えることができる地域は少ないと思います。
山崎さん:
ぼくが関わっている首都圏近郊だと、本社が東京で、地域にあるのは出張所ばかりというケースが多いんです。これ、経済産業の面から見ると、“魂が抜けた状態”なんですね。資産は本社に全部持っていかれるので、地域には給与と雇用しか残りません。ベッドタウン化するので、たとえ大きな商業エリアがあっても、伸びずに疲弊していくパターンです。ですが、本社があればその資産が固定資産や個人資産につながり、その波及効果が期待できます。ですから、その地域にある本社の数はとても重要なんです。規模は問わず、本社をたくさん抱える施策が必要ですね。
——そのデザインは難しいですよね。
山崎さん:
一筋縄ではいかないですね。でも、できないわけじゃないから、できるところから始めていきます。あとは、ビジョンの問題ですね。先ほども話しましたが、ビジョンを描けていないケースはとても多いんです。
なぜかといえば、これも言葉の問題ですが、「ビジョン」と一口にいっても、誰かがひらめいたものから、2万人の社員の声を聞いて作り上げたものまで、作り方に大きなギャップがあるからです。だからビジョンを作る際は、どう作って行くのかということもポイントになります。
また、これが最大の問題ですが、ビジョンと銘打って、ちょっと手を伸ばせば届きそうな目標を並べるケースもあるんですよ。でもぼくは、ビジョンとは現実とちょっと離れた大きな思想が必要だと考えているんです。いうなれば、これからのアクションやモチベーションの種となるもので、迷った時にはそこに戻ってまた見つめ直すことができるものがビジョンです。
——最後の質問です。
この課題先進国・日本で、山崎さんはどのように課題に貢献し、どういう未来をデザインしていくのか教えてください。
山崎さん:
ぼくが独立した理由の1つは、「働く場所にこだわらず、インディペンデントな立場で仕事がしたい」ということなんです。実はポートランドにいた時も、「ポートランドでないと仕事ができない」というスタイルはあまり取らなかったんですね。
ただ1ついえるのは、アメリカ西海岸にいると、ヨーロッパもアジアもとても遠いんですよ。たとえばヨーロッパに行く時は、5~6時間かけてニューヨークに飛び、そこからヨーロッパを目指さないといけません。アジアにも、7~8時間かけて太平洋を超える必要があります。それが東京だと、台湾も上海もご近所になります。外国が近くなるから、いろんな文化に触れることができる。
そんななか、ぼくがアメリカで培ってきた知見は、日本やアジアでは珍しいものなので、そこでお役に立てることができることがあると思います。国レベルだと難しいかもしれませんが、地域や企業といった単位では貢献できると思うので、そこからボトムアップして、いつかは国に影響を与えるようなことができたらいいなと思います。
——ありがとうございました。
国や文化の枠を超えてビジネスをデザインする山崎さん。
今後、山崎さんが携わるプロジェクトによって都市や日本がどう変化していくのか、また、自然と文化が共存する「持続可能なまちづくり」の取り組みにもぜひ注目したい。
[撮影]篠部雅貴
[執筆]岩崎史絵