デザイン 2019.10.23 新しい未来を創るために必要なこと|山崎満広氏(前編)


山崎満広さん(写真左)とビッグビート・野北

米オレゴン州ポートランド市の開発局にて、エコロジカルでありながら経済発展していく新しい形の都市作りを推進してきた山崎満広さん。ポートランドを「米国で一番住みたい街」にした実績をベースに、2019年からは拠点を日本に移し、柏市やつくば市などの都市開発に携わっています。そんな山崎さんに、新しい価値や未来を創り出すことができる働き方について聞きました。

〈インタビュアー〉野北瑞貴(ビッグビート マーケティングチーム ディレクター)
 
●山崎満広さんプロフィール
高校卒業後、1995年に渡米。2012年にポートランド市開発局に入局し、ポートランド市のまちづくりに携わる。現在は、これまでのノウハウを用い、日本各地で新規事業や都市開発プロジェクトなどに参画。持続可能な社会の実現を目指し、民学産官を繋ぎ、国や文化の枠を超え、創造的かつ総合的な戦略支援を継続して行なっている。
〈著書〉
『ポートランド-世界で一番住みたい街をつくる』*(学芸出版)、『ポートランド・メイカーズ クリエイティブコミュニティのつくり方 』(学芸出版社)。*第7回不動産協会賞を受賞
https://www.mitsuyamazaki.com/


 

日本のやり方に、アメリカの知恵を入れていく



——まずは改めて、山崎さんのこれまでのご経験を教えてください。


山崎さん:
都市計画やまちおこしの専門家といわれることがあるのですが、ぼくはもともと経済開発が専門なんです。高校を卒業後、途上国を支援する国連職員を目指し、そのための勉強をしたいと思って米国の大学に入りました。そこで国際関係学を学んだのですが、その後方向転換をして、「地球のどこかの貧しい人ではなく、地域に根ざして、困っている人や貧しい人たちを支援したい」という思いで、大学院では経済開発を専攻したんです。経済開発は、「どうしたらその地域に人が住み、働いて、幸せになるかを追求する」というもので、コミュニティや組織を作って雇用を生み、生活の質を上げていくことを考える研究なんですよ。

当時はミシシッピに住んでおり、インターンシップで地元の電力会社に行くことになっていたのですが、9.11のテロ事件が起こってビザが下りず、紹介してもらった地元のゼネコン企業に就職しました。そこで、日本の自動車会社工場を誘致するためのプレセールスを担当することになったんです。修士時代に、業界でどの企業がどういう地域でどのような工場戦略を立てているのかについて論文を書いていたので、「もし御社が工場を立てるなら、この地域にすると物流がスムーズで、十分な人材確保ができますよ」と提案し、日本の自動車会社の重鎮に印象付けることができました。そんなところからスタートし、地域の経済開発財団やコンサルティング会社に声をかけられて、工場誘致や地域経済開発に取り組んできたんです。

——もともとは企業誘致や工場誘致で実績を積まれてきたんですね。

山崎さん:
そうですね。そんな形で仕事していくうちに、経済開発の一連の流れや規模というものが、何となく見えるようになりました。「世の中って、こういう風に動いているんだ」と実感できるわけです。ある産業分野で地域を盛り立てる場合、実際にここで土地をどれくらい買って何を建てればいいのか、どのような雇用が必要になり、どんな助成金が下りるのか、全部把握できるようになる。行政側、そして民間のコンサルティング会社などいろんな立場で働いてきましたが、「自分のやりたい仕事って、こういうことなのかな?」と、ちょっと立ち止まるようになりました。リーマンショックが起こったころの話です。



いくら環境に配備しても、森や野原を削って工場を建てて開発するということは、やはり自然の荒廃につながります。そういう実績を積むことで給料が上がる仕事をしていたわけですが、子供が生まれたこともあり、「このままここに住んで、ずっとこの仕事を続けていていいのかな」と考えるようになったんです。
その頃、オレゴン州のポートランドに呼ばれ、仕事で通うようになりました。そのうちに、ポートランドの素晴らしさに魅了されて、仕事が終わっても好きでたびたび通うようになったんです。あまりに惚れ込んだので、転職の申し込みをすると、経済開発の仕事が見つかって、家族でポートランドに引っ越すことになりました。

当時のポートランドは、観光のマーケティングはとても上手なのですが、産業に対してのマーケティングはそれまでほとんどやっておらず、良さがなかなか伝わっていませんでした。ぼくはそこで、持続可能エネルギー産業のプロジェクトに入り、その産業を盛り上げつつ、環境建物やポートランドのポリシーなどを外に伝える仕事をすることになったんです。
メッセージを伝えるWebサイトやPVを作り、第1回のカンファレンスを東京で開催したのですが、予想外に大勢の人が集まり、ポートランドが環境に特化した素晴らしい街であることを多くの人々に知っていただきました。そのご縁で、柏市の方を始め、いろいろな日本の地域の方々と仕事をさせていただくことになったんです。

——そこで今回、日本に帰国して新しいことに着手する準備を進めているわけですね。いまどのようなことをなさっているのですか。

山崎さん:

帰国にはいろんな理由があるのですが、高校卒業してから25年はアメリカに住んで仕事をしてきたので、自分のなかでは「移住」なんですよ。日本で仕事をしたことがないから、いろんなことが初めてです。日本人なので、文化的には日本に馴染んでいるのですが、仕事をするのは初めてなので、戸惑いもあるのは事実です。

いまぼくが期待されているのは、「山崎=都市開発」という図式ですが、ご説明したとおり、もともとは産業経済畑の人間なんです。その良い点は、自分の人脈からトップレベルの専門家を連れてきて、チームを組んで仕事を進められることです。都市開発には日本のやり方があり、そこにアメリカのいい知恵を入れていって、それで地域のデザインをしていくというのが、ぼくが考えている「日本のまちづくり」です。
詳しいことはまだいえないのですが、おかげさまで多方面からお声がけいただき、社外顧問やコンサルタントとして改革を進めるお手伝いをしています。

 

未来を創る源は「個人のリーダーシップ」にある



——先ほど、日本に帰ってきて仕事をするうえで、戸惑いがあるというお話がありました。
日本でも、昔とはかなり環境が変わり、仕事以外の部分ではコミュニティやサードプレイスでお互い得意分野を持ち寄ってプロジェクトを回したり、コラボレーションしたりという取り組みが増えていますが、なぜか会社という軸で見ると、流動性がなくて凝り固まって、スピードが鈍いという事情があります。
いま山崎さんが感じている戸惑いや、その基となっている日本独自の固定概念を再インストールすることはできるのでしょうか。


山崎さん:
できないことはないですが、時間がかかりそうですよね。
縦割りの行政や大企業は、自分たちでたくさんのルールを作ってしまったがゆえに、それに縛られて新しいものが作れなくなってしまっている気がします。本来なら、変化に応じて「変わる」というルールにしないといけませんが、「●●をしてはいけない」という視点でルールを作ってきたので、その壁が厚くなりすぎて壊せない状態になっているのが現状だと思います。

その状態を打破するやり方はいろいろありますが、ぼくならとりあえず「壊す」策を取ります。まったく新しい組織を別に作り、そこにチャレンジ案件と予算を集中させるのもいいかもしれません。ところが多くの場合、この2つを取り入れたハイブリッド型を取るんです。古い組織を残しつつ、新しい組織を作って、いつのまにか壁を取り払うことを狙うパターンが圧倒的です。これが一番結果が見えづらい。

いまぼくが関わっているつくば市などは、市長が若くて進歩的な考え方をしていて、新しいことを率先して、古くて役に立たない慣習を打破するように動いています。もちろん、時間は無限ではないので、2年や3年で結果を出し、オペレーションを作っていかないといけません。そのためのアドバイザーとして、ぼく以外に広告担当やスタートアップ事業担当など新しい領域を作る専門家を呼んで、一所懸命取り組んでいます。



——山崎さんのお話を伺っていると、ご自身の専門知識はもちろん、各分野の専門家の知見や経験を融合させてプロジェクトを進めるスキルが素晴らしいと思います。
これから日本の働き方が、1つの会社や組織に縛られず、自分の得意とする知見を持って新たな価値観を生み出していく、そんな未来に向けてどう動くべきか、アドバイスをお願いします。


山崎さん:
ぼくはいまの日本オフィスに引っ越してくる前、Zibaというデザイン会社に2年くらい在籍していました。そこは世の中にないものを生み出していくためのデザイン会社で、ゼロベースで新しい価値づくりに取り組んでおり、働き方もユニークなんです。社員はちゃんといるのですが、ぼくはそこにレジデントという形で在籍していました。ワークスペースをもらい、自分の仕事をしていてもいいし、興味がある会社のプロジェクトがあれば、そこに参画して自分の経験や人脈を提供し、社員と一緒に働いてもいいんです。そういうところで働くということは、自分で何ができて、何をしたいのか、どういうことで貢献できるのか、自分自身で全部考え、デザインしていかないといけないんです。それには何が必要かといえば、スタイルなんですね。

どういうライフスタイルで仕事がしたいのか、それは自分の内側から来るものです。それには自分が動き出さなくてはならず、つまり自分自身の個人的なリーダーシップがポイントになります。リーダーシップというのは、何も大勢の人の上に立って指示することではなく、自分自身でリスクを取り、突き進んでいくことなんですね。誰かがその背中を見て影響され、後に続くフォロワーができれば、それはまさに個人のリーダーシップといえます。ぼくはそれを目指しているんです。
(後編に続く)
 

[撮影]篠部雅貴
[執筆]岩崎史絵

 

後編では「デザイン」をキーワードに、自分自身やビジネスのデザインについて深く掘り下げながら、山崎さんが考える地方創生、ビジョンの描き方などについてお話を伺います。
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