マーケティング 2021.03.29 オフラインの置き換えではない、オンライン展示会の可能性【Play Now!レポート③】

国際標準化機構(ISO)では、「商品・サービス・情報などを展示、宣伝するためのイベント」と定義付けられている展示会。さまざまな新製品・既存製品を展示し、デモンストレーションや紹介を行うことで、来場者とコミュニケーションを取り、見込み顧客を発掘していきます。講義型のセミナーに比べてコンテンツが多彩、かつ展示の仕方もさまざまなので、デジタル化が非常に難しい分野です。そんなオンライン展示会に挑戦した株式会社イノベーション 代表取締役社長の富田直人さん、株式会社東陽テクニカ 経営企画部 マーケティング課の本多玲子さんを迎え、株式会社MOVED 代表取締役でサイボウズ株式会社のエバンジェリストでもある渋谷雄大さんがモデレーターを務め、3人でディスカッションを行いました。

 

「リアル展示会の置き換え」をするには難しさがあった

製品のデモンストレーションや新サービスの紹介動画、パートナー各社のソリューション紹介など、多様なコンテンツで最新情報を得られる展示会ですが、2020年はCOVID-19の影響を受け、中止・延期となるイベントが多くみられました。こうしたなか、初めてのオンライン展示会に挑戦したのが、計測機器計測ソリューションを国内外に提供している東陽テクニカ、法人向けIT製品の比較・検討を支援するWebサイト「ITトレンド」を運営するイノベーションです。

試行錯誤しながら行ったオンライン展示会での気づきを本音で語っていただいたのは、東陽テクニカの本多さん。東陽テクニカでは、2020年12月9〜11日の3日間、初のオンラインとなる同社の展示会「東陽ソリューションフェア 2020 Online」を実施しました。それぞれ40を超えるセミナーと展示のコンテンツを用意し、実施されたイベントでしたが、そもそもこのイベントへ期待していたこととその結果について、本多さんはこう語りました。


株式会社東陽テクニカ 経営企画部 マーケティング課 本多玲子さん

最初に期待したのは、リアル展示会の置き換えです。つまり、ブースがあって、お客様が来て、一緒にお話をしていくなかで当社のソリューションを知っていただく、そういう双方向コミュニケーションを求めていたんです」(本多さん)。

そこで展示ブースのなかにチャットを設け、お客様と会話する環境を整えたものの、待機しているスタッフも、そして来場者も、お互いに話しかけを躊躇してしまう状況になり、「なかなかアクションを起こせませんでした」(本多さん)と、正直なところを打ち明けます。結果として、来場者から投稿されるコメントがシステムの使い方についての質問に偏ってしまうなど、もともと意図していたような使い方がされず、オンラインイベントでの双方向なコミュニケーションをつくる難しさが見えたと話しました。

 

オンライン展示会の来場者数、回遊率を上げる工夫

続けて、話題はオンライン展示会の目標設定の話に。
MOVEDの渋谷さんから、オンライン展示会を開催するに当たり、「どのようなKPIを設定したのですか」と質問がなされました。


株式会社MOVED 代表取締役/サイボウズ株式会社 エバンジェリスト 渋谷雄大さん

東陽テクニカの本多さんは「過去にソリューションフェアというリアル展示会を開催したことがあり、その時の成果と比べて、『これくらいの人数は集められるのではないか』と考えました。ただ、リアルでの実績はあっても、オンラインでそれを達成できるかどうか、具体的な根拠がないので、KPI設定は非常に難しかったです」と振り返ります。


一方、法人向けIT製品比較サイトの運営を行う事業から、現場・ユーザーからの声を受けて2020年11月11〜12日の2日間にわたり、オンライン展示会「ITトレンドEXPO 2020」を企画したイノベーションの富田さんは、現場が積極的に「どうせやるなら一番を目指そう!」という目標を掲げたそう。ただ、「一番」の基準がないので、まずは「登録者・来場者1万人を目指す」として、数値を決めました。


株式会社イノベーション 代表取締役社長 富田直人さん

ただ、数値を上げても、それを達成するにはやはり「楽しさ」が必要なのではないか、と考え、構成を企画したそうです。「もともとBtoBのITイベントなので、ワクワクさや楽しさはそれほど多くありません。そこで、11月のイベントでは登壇者にこだわり、多くの人が興味を持って参加してくれるような企画を考えました」(富田さん)

多くの人が「見たい、聞きたい」という登壇者を呼んで、オンライン展示会の興味を促す——とはいえ、オンラインの難しさは、リアルと異なり目的のセッションさえ聴けば、あとは離脱してしまうというリスクがあることです。本多さんも、「特にセミナーから展示へ、というところで、来ていただいた方の回遊を促すことが難しかった」と話し、この難題をITトレンド EXPO2020でどう解決したかを尋ねました。

富田さんは、「私たちも同じ懸念があったので、いくつか仕掛けを工夫しました。1つは、MCの人に『HRに興味がある方はこちらをご覧ください』といったように、誘導をお願いしたことです。もう1つは、エキスポの人気ランキングをリアルタイムに画面下に表示して、『ここが人気ですよ』と強調して興味を促しました。私たちの展示会は、出展社の方から出展費をいただいているので、お客様を集めるためには私たちができることを工夫する必要がありましたし、一方で来場していただいたユーザーさんの満足度を高めないといけないので、双方の満足度向上に向けて現場が工夫したようです」と説明しました。

 

注力するポイントの取捨選択

では、実際にオンライン展示会を開催し、どのような気付きや反省があったのでしょうか。

富田さんは、「ユーザーの満足度、クライアントの満足度両方を上げるためにやりたいことがどんどん出て来たのですが、予算も納期もマンパワーも限られるなか、取捨選択に悩みました」と振り返ります。

そんな富田さんが得た結論は、「やらないことを決める」こと。どれもこれも実現するのは難しいので、次回に回した企画もあれば、利益が見込めずにあきらめた企画もあったそうです。
富田さんのこの意見に大きくうなずいたのが本多さんです。7月にオンライン展示会を開催すると決めた時から、やはり「あれもやりたい、これもやりたい」というアイディアがたくさん出て、その結果、展示ブースやセッションも40以上という大規模なものとなりました。豊富なコンテンツを出し、やりきったという満足感もある反面、「やはり多すぎたのではないかと、いまでも反省しています」と本多さんは話します。

 

もう1つ、本多さんが「いまでも正解がわからない」という疑問があります。それは、基調講演の実施です。昨年は、タイミングがギリギリだったことと、前述したように、基調講演だけでユーザーが画面を閉じてしまうリスクを考慮し、基調講演は見送ったそうです。

この点について、富田さんも懸念は理解しつつ、回遊率や滞在時間を上げる工夫を施すことを勧め、さらに基調講演のゲストスピーカーの選び方について次のように意見しました。

「私たちの場合は、エンターテインメント性がありながらも、ITのイベントにフィットする方、そして幅広い年齢層の方に認知されている方をお招きすることを重視しました。エグゼクティブ向けならば、その年代に合った方、若手から中堅であればその年代に支持されている方というようにして人選しました」(富田さん)とし、ゲストを単なる呼び水としないで、しっかりリードを取るために行なった工夫を紹介しました。

富田さんがリードを取るために行なった工夫の1つは、集客方法です。日経新聞などビジネスマンが集まるメディアに積極的に告知を出し、集客を行いました。もう1つは、「賛否両論あると思いますが」と前置きし、「登録に当たっては、所属会社のアドレスに限定しました」と打ち明けます。フリーメールはもちろん、個人事業主のように、所属会社がなければ登録は不可。「会社のアドレスで登録できないという方はすべてお断りさせていただきました」(富田さん)。その代わり、協賛企業側からは、「質の高いリードが取れた」と評価が高かったそうです。

 

展示会におけるオンライン/オフラインの役割分担

オンライン展示会を経験し、改めて今後、オフライン/オンラインはそれぞれどのような役割を担っていくのでしょうか。

本多さんは、「今年はオフラインの展示会に出展する予定ですが、オンラインと並行してやっていくことになると思います」との展望を示します。そのうえで、オンライン展示会のメリットについて、「全国どこでも、極論をいえば世界までつながることがオンラインの強みであり、いままでリーチできなかった方につながることが強みだと思います」との見解を述べました。一方で、直接のコミュニケーションや働きかけは、やはりオフラインが強いので、「そこは使い分けていきたいと思います」とのことです。

富田さんは、「本多さんがおっしゃるとおり、オンラインにはオンラインの良さがあります。もし1度やってみて、思うような成果が得られなかったとしても、『だからオンラインは駄目』ではなく、原因を探って企画をしっかり作り直し、デジタルトランスフォーメーションの機会を逃すようなことはしてほしくないと思います。オンラインはやはり移動の手間がなくなりますし、それは非常に大きなメリットです。一方で、地方の方も、リアルな場で情報を収集したいというニーズがあるので、オンラインとオフラインを使い分けながらやっていくのがいいと思います」との見解を述べます。渋谷さんも、「選択肢が増えるのはいいことだと思います」と話しました。

 

こうしたことを踏まえ、オンラインならではのメリットを改めて3人でディスカッションし、「行動履歴や閲覧履歴のデータが追える」という点が挙がりました。モデレーターの渋谷さんが「マーケティングオートメーションのように、適切なレコメンドもできますね」と話すと、「協賛企業への付加価値につながるかもしれません」と富田さん。本多さんも、「そういうことができたら、またオンライン展示会の意義が変わりますね」と賛同しました。

 

次のオンライン展示会でやりたいこと

最後に渋谷さんから「今後、どのような展示会を企画したいか」という質問がありました。

本多さんは「富田さんのお話を伺って、どうしたらオンラインイベントを効果的にやっていけるかを考え、今後社内にも提案していきたいと思います」と話します。富田さんは、「オンラインになることで、移動するという非効率性が削減され、生産性や経済の活性化につながると考えます」としたうえで、「オンラインイベントを開催していくことで、そのメリットをより具体性を持って、数字で表現できますし、そういう啓蒙活動を展開してオンラインイベントに参加する企業、ユーザーを増やしていきたいと思います」と、今後の活動について語りました。

オンライン展示会を主催する実情や、行動履歴などのデータをリアルタイムで活用できるような仕掛けなど、今後への期待も見えたこちらのセッション。ビッグビートも引き続き、オンラインイベントや展示会に挑戦したい企業の皆様とともに、どのような設計・仕掛けが実現できるのか、一緒になって悩み、つくりあげていく存在でありたいと思います。
 
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