マーケティング 2021.03.24 ストーリーを散りばめた、五感で感じるオンラインイベントの仕掛け 【Play Now!レポート①】

2021年、新型コロナウイルスの脅威が未だ収まらない中、「今年はイベントをどう企画・運営したらいいのか」と悩むマーケターは少なくありません。特にBtoB企業の場合、新規顧客の開拓や既存ユーザーとの関係強化に向け、イベントは重要な施策ですが、「密になるオフラインイベントはできず、オンラインイベントだと盛り上がれない」と、多くの企業が頭を抱えています。
こうしたBtoBマーケターに向け、「オンラインイベントは、もっとおもしろくなる!」を標ぼうして2021年3月10日に開催したオンラインイベント「Play Now!」では、ウイングアーク1st株式会社 マーケティング本部TOFD部 部長の松久育紀さんを迎え、視聴者数約1万7000名、セッション動画視聴回数約7万回(いずれもアーカイブ含む)を記録したオンラインイベント「updataNOW 20」の企画・運営の舞台裏について伺いました。

 

オンラインイベントだからこそ、五感に着目した「updataNOW 20」


写真左から:ビッグビート 瀬川 昌樹、ウイングアーク1st 松久 育紀さん


ウイングアーク1stが自社イベント「updataNOW 20」を開催したのは、2020年10月12日〜同16日までの1週間のこと。同社ではそれまで毎年秋に、オフラインのフラッグシップイベントを開催していましたが、2020年はウイルスの影響を受け、初めてオンラインにシフトしました。

これと同時に、それまでは東京を含む国内数カ所で1日だけ開催していたイベントですが、初めて「1週間通しで開催する」というスタイルにシフトし、開催日ごとにテーマを分け、130本を超える動画コンテンツをはじめとする、さまざまな仕掛けが用意されました。その結果、動画アーカイブ(2021年3月7日まで公開)を含め、約1万7000名が視聴し、視聴再生回数は約7万回と、多くの人の心をつかんだ非常に盛況なイベントとなりました。
また、通常はオンラインイベントのコンテンツをアーカイブにしても、なかなか思うように視聴回数が伸びず苦労する企業が多いなかで、ライブ視聴とアーカイブ視聴が6対4の割合となるなど、アーカイブ期間も継続して盛り上がりをつくることができたそうです。

そんな大きな反響があったオンラインイベントには、どのようなこだわりがあったのでしょうか。

ウイングアーク1st 松久さんは、「コンテンツはセッションの録画とライブ配信、そしてそれ以外にいくつかのショート動画と、本数は全部で約130本作りました。専門の美術スタッフの方に依頼して、社内にバーカウンターや落語の高座のセットを作りイベントならではの非日常的な空間を用意しました。また、オンラインイベントの場合、仕事の合間に見に来る視聴者も多いと思い、セッションの合間の休憩時間でも何かしかのコンテンツが見れるように、セッション登壇者によるアフタートークや当社のユーザーである伊藤久右衛門さんや東急スポーツオアシスさんにお願いしてお茶の淹れ方やフィットネスの動画、企業協賛企業の方にはCM動画を提供してもらいました。また、展示ブースにも協賛社の動画を掲載し、動画がないという協賛社にはこちらで撮影環境を提供し作りました。コンテンツについてはできることは全部やったという感じですね」と振り返ります。


写真:美術スタッフが入った、こだわりのステージ装飾

こうした制作にかける工数や、ライブ配信からアーカイブ配信までの実質開催期間を考えると、「オンラインイベントの方が、オフラインのリアルイベントに比べると日数も工数かかると思います」と松久さん。実際の運営を知らないビジネスマンから「オンラインイベントの方が楽なのでは」という意見もあるなか、「オンラインには、オンラインだからこその大変さがある」という見解を示します。

そんなオンラインイベントにおいて、最も難しく大変なことは、参加者の方の「オン/オフスイッチの切り替え」をいかに実現するかということ。これまでのオフラインであれば、「会場に入ったら、空気が変わった」ということもありますし、会場の空気を全員で共有することで、より集中してセッションを聴けるというメリットがあります。いわば、五感でその場の雰囲気を感じ取り、イベントそのものを訴求・提供できるのがオフラインの強みです。

しかしオンラインでは、視覚と聴覚でしか訴求できません。視聴する場所も、オフィスの自席や自宅などバラバラで、いわば日常業務/生活と地続きの環境で参加することになります。

そうしたなか、松久さんがupdataNOWのPJメンバーと考えた企画はとてもユニークなもの。申込者には、オフラインイベントと同じように来場時に渡すパンフレットやノベルティを含めた「申込者向けキット」を郵送したのですが、そのグッズに入れたのが「飴」と「コーヒー」だったそう。


写真:申込者のうち、希望者に送付された「申込者向けキット」。約10,000個が送付されました。


その狙いは、「イベントを視聴する時、updataのデザインが入ったコーヒーを淹れたり、飴をなめながら視聴したりして、味覚や嗅覚でイベントに入り込んでもらう仕掛けを考えました」(松久さん)といいます。これを受け、今回のセッションのモデレーターを務めたビッグビートの瀬川も「視覚・聴覚だけでなく、まずは五感で顧客体験を広げたわけですね」と感心しました。

 

オンラインを機に、フラッグシップイベントからソートリーダーへシフト

イベントそのものの企画とストーリー作りはどのように進めていったのでしょうか。

updataNOW 20は、前述したとおり、ウイングアーク1stのフラッグシップイベントです。しかし昨年まで、フラッグシップイベントの名称は「ウイングアークフォーラム(WingArc Forum)」で、略してWAF(ワフ)と呼ばれていました。このイベントの名称が「updataNOW 20」に変わるに至った背景にあったエピソードを、松久さんは次のように語りました。



写真:2017年~2020年のイベントタイトル・ビジュアルの変遷

「『updata』という言葉は2019年に広告代理店さんが作成したキャッチコピーなんです。『アップデート』と『データ』を掛け合わせた言葉で、『データでビジネスをアップデートしよう』という意味を込めたのですが、どちらの言葉も馴染みがありますし、私たちのビジネスを的確に表現しています。実際、2019年のイベントに参加した方からは、『WAF』ではなくて、『UPDATA 、良かったよ』といわれることが多く、2020年のオンラインイベントを企画するに当たり、従来の名称やイベントの位置付けからの飛躍を目指し、これをイベント名に据えることにしました」(松久さん)

名称を変えるのはリスクがあると思いますが、「これまでのように、既存顧客やパートナーとのリレーション強化に加え、まだ顧客ではないけれど、『データでビジネスを変えたい、強くしたい』と考えている新規のビジネス層にリーチしたいと考えたのです」と松久さんは説明します。つまり、リレーション強化だけではなく、「ソートリーダーシップを打ち出すイベント」という意味合いをより強めるため、あえて「WingArc」という冠をはずして、幅広い層の参加を目指したのでした。この、フラッグシップイベントからソートリーダーシップへという流れは、松久さんが入社した2017年から考えていたそうです。2018年からイベント責任者になり、方向性やメッセージを試行錯誤しながら調整し、2020年のオンライン化に伴って全面的に「updata」と打ち出すことができました。

ただ、ソートリーダーシップとは、ブランディングやマーケティング視点でいえば重要な位置付けですが、売上や営業という観点でいえば、効果が見えにくいという一面もあります。これに対し松久さんは、「取締役会長の内野弘幸さんが創業当時からマーケティングの重要性を認識しており、営業もプライドを持って自分たちの仕事を発信することに積極的なんです。そのためパートナーや、商談中のお客様にも熱心にイベントの説明や集客をしてくれますし、本当に会社全員が一丸となって取り組みました」といいます。これに対し瀬川も、「営業と経営とマーケティングが三位一体となって動くマーケティング文化が根付いている点が素晴らしい」と称賛しました。

 

各日のテーマを設定し、初心者にもわかりやすいセッションの流れを設計

コンテンツの見せ方も工夫しました。5日間にわたるイベントなので、社内で「各日でコンセプトを明確にした方がいい」と意見が一致。新たにターゲットとした潜在層は、ニーズもさまざまです。そういう新規の参加者が、タイムテーブルでセッションの詳細まで見なくても、「この日はどういう情報が得られるのか」がわかれば、参加のハードルは大きく下がります。

具体的には、10月12日のイベント開始日には「前夜祭」と名付け、updataNOW 20の楽しみ方やお勧めのセッションを紹介。翌13日は、主に同社の既存顧客やパートナーに向けた「360° WingArc1st」、14日は製造・金融・小売・物流のDX実現をテーマにした「Industry X.0:アフターデジタルの世界をサバイブせよ」、15日はニューノーマルな組織・社会のあり方を議論する「Hello New World:ネクストノーマル最前線」、最終日の16日はそのニューノーマルを最新技術から俯瞰する「DATA for the people:ネクストノーマル時代の価値創造」と、あらゆる角度から「データとテクノロジー活用」を考えるセッションを打ち出しました。その設計に沿って、日ごとに配信画面の色やデザインも少しずつ変えるという徹底ぶりだったそうです。


写真:日ごとに分けられたテーマ


そして、ライブ配信後のアーカイブ配信についても、事前にさまざまな施策を考えました。もともとオンラインイベントには、「ながら見になりやすい」という傾向があります。これを踏まえ、ライブで気になるセッションをながら見してもらい、本当に気になったセッションは後日アーカイブで見てもらうということを意識したそうです。
「5日間で、セッション本数も非常に多かったため、どんなに熱心に参加しても、全部のセッションを見るのは難しかったはずです。それもある意味狙ったところで、テレビのチャンネルのように、『気になる曜日に、気になるセッションをザッピングしてながら見できるようにする』ということを意識したんです。そのため、セッションとセッションの間に空白時間を開けないよう、4~5トラックを同時並行で走らせてコンテンツを提供したり、先ほどもご紹介したショート動画を流したりました。とにかく、何か興味があることを見つけていただけるように、セッションのプログラム担当者と一緒に日ごとのテーマ設計から、コンテンツの見せ方、量・質の担保などに気を配り、『これくらいやれば、何か1つくらい引っかかるコンテンツと出会い、参加に集中したり、後々のアーカイブ視聴につながるかも』と考えました」(松久さん)

「気になる曜日があれば、5分でも10分でもいいから接してもらって、興味を持ったらじっくりアーカイブで見る」、あえてこのスタイルでコンテンツを設計することで、オンラインイベントでは珍しく「公開後のアーカイブ視聴が多い」という結果につながったそうです。

 

今後はオンライン/オフラインのハイブリッド型イベントに挑戦したい

今後のイベントについて、松久さんは「オンライン/オフラインのハイブリッドで、どう企画していくかが、大きなチャレンジになると思います」との見解を述べます。ウイルスの脅威が落ち着き、オフラインイベントも少しずつ復活する可能性はありますが、「だからといって、以前のように、密を前提としたイベントにはならないでしょう」(松久さん)とし、「2つのハイブリッドで、どのような価値向上を実現するかがポイントです」との見方を示します。



「たとえば、オンラインをメインにして、オフラインでプレミアムコンテンツを実施したり、オンラインで興味を持っていただき、オフラインで実際に体感できるオムニチャネル的なイベントを企画するのも、チャレンジだけど面白いかもしれません」(松久さん)

イベントやマーケティングのあり方が、今後どうなっていくのか、まだわからない部分はたくさんあります。ですが、企画の工夫と共に、「やってみよう!」という前向きなチャレンジ精神は、参加者にも伝わるはず。ビッグビートは、松久さんの挑戦、そしてBtoBマーケターの挑戦を応援しています。
 
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