マーケティング 2021.08.31 リハは1セッション最低3回「自社ならではのコンテンツ作り」に注力するマクニカネットワークスの哲学

「自社の独自価値先進性を世に広く認知していただくため、イベント企画と発信するコンテンツには徹底的にこだわる」というマクニカネットワークス株式会社(現株式会社マクニカ)。同社は株式会社マクニカと共同で、今回で16回目となるイベント「Macnica Networks DAY 2021 + macnica.ai」を2021年7月に開催した。年明け早々からイベントのテーマ設定やセッション企画を経営層・現場社員と共に考え、講師を選定。リハーサルは1つのセッションに付き最低3回繰り返し、講演内容や資料を徹底的に検討、「本当にお客様に満足いただけるコンテンツになっているか、マクニカならではの価値が伝わるかどうか」を評価し、作り込んでいくという。そんなマクニカネットワークスの考えるイベント作りの哲学や、ブレない評価軸で“成功する”イベントの企画・運営手法について話を聞いた。

 

全社でイベントに取り組む姿勢が生まれた背景

マクニカネットワークスのマーケティング部は、大きく2つのミッションがある。1つがコーポレートブランディングで、自社のブランドの確立・認知度を上げていく活動。もう1つは、同社が取り扱うさまざまなセキュリティ対策やネットワーク、AI、DXなどのソリューションについて、それぞれの製品ごとに販売プロモーションの企画立案・推進を行うことだ。



「Macnica Networks DAY 2021 + macnica.ai」(以下MND)は全社のコーポレートブランディング活動の1つとなる。MND全体を統括したマクニカネットワークス株式会社 マーケティング部 引野氏は、その活動について次のように説明する。「当社は常に世界最先端のテクノロジーに目を向け、時代のニーズに合った製品を提供しています。その先進性と、社内で培ってきた独自価値を広く世に認知してもらうため、年1回MNDを開催しています。私たちならではのコンテンツを提供することで、来場者の方の満足度を上げ、次にまた選んでいただくことを目指しており、テーマの設定からコンテンツ作りは会社全体で取り組んでいます」

イベントテーマの設定や開催方法の決定、セッション決めは年明け早々から着手。マーケティング部門だけにとどまらず、経営層を巻き込んで企画、コンテンツ作りを行う。そのため定例ミーティングの設定・実施はスピーディーに行い、企画がある程度固まったら、社内でも頻繁に説明会を開催し、イベントの目的、テーマを伝えて、コンテンツ作りに参加してもらう。


マクニカネットワークス株式会社 マーケティング部 引野氏

「社内説明会は4回開催しました。最初の説明会では今年の企画趣旨やテーマを伝え、コンテンツの企画案を募集します。集まった企画案をもとにマーケティング部と経営層で適切なメッセージやプログラムを検討し、2回目の説明会で決定したプログラムと共にコンテンツ作りにおいて気をつけるポイントとその理由を説明しました。3回目の説明会では、開催後のフォロー方法、ナーチャリングコンテンツの作成方法についても伝え、会期直前に講師に向けた当日の動きを説明しました。定期的に詳細な情報を伝えることで、全社一丸となってイベントに取り組む体制を作っています」(引野氏)

説明会だけでなく、メールやチャットでもきめ細かくフォローしながら、社員全員にこのイベントを“自分ごと化”としてもらう。たとえばセッションの具体的な内容は講師とその仲間がチームを組んで取り組むそうだ。同 マーケティング部の伊藤氏は、「講師の方もチームを組んで、そのチーム内でMNDの理念や今年のテーマをふまえ、『どのようなコンテンツを発信すればお客様に満足いただけるか』を考え、ディスカッションしています。こちらが伝えたことを、みんなで噛み砕いて考えるのですが、この『みんな』というのがポイントだと思います」と説明する。説明会は、もちろんイベントの詳細を伝えるために開かれるが、単に決まった項目を説明するだけでなく、しっかり熱意を伝えることもポイントだという。
同社はもともと部門間で協力し合う企業風土があり、社内エンジニアや取引先へのセッション講師の依頼も出しやすい。社内ではMNDの講師に選ばれることは一種の名誉となっているそうだ。

 

ブレない企画クオリティを実現するOST

具体的に、企画立案はどのように進めていくのだろうか。
この問いに対し、同 マーケティング部 齋藤氏は「企画に当たっては、2つ特徴があります。1つは、『前年よりいいものを作る、良いイベントにする』という思いを毎年積み上げていくこと。もう1つは、全社的にOSTを意識して業務に当たっており、これによって戦略的に企画を作ることができていると考えています」という。


マクニカネットワークス株式会社 マーケティング部

OSTとは、Objective(目的)、Strategy(戦略)、Tactics(戦術)の頭文字で、目指すゴールに向かって実現のための戦略を立て、具体的な戦術に落とし込むことをいう。MNDは、そもそものゴールとして「コーポレートブランディング」があり、その先進性と独自価値を伝えるために、どんな内容で何をどのように伝えるかという戦略を立て、具体的な戦術としてセッションに落とし込んでいく。この作業を、毎年1月〜3月くらいに行っているという。

ポイントは、必ず前年の反省を踏まえて、OSTに基づき戦略や戦術を詰めていくこと。マクニカネットワークスではイベント終了後に参加者や社内のアンケートを取っており、良かった点と反省点を共有し、次回の企画立案に生かしている。

目的や戦略が明確だからこそ、戦術としてのコンテンツ作りの評価基準も明確になる。同社ではコンテンツ作りでは、「いかに会社が持つ一次情報を発信できるか」という点を重視している。引野氏によると、それこそがブランドの象徴になるという。他社が話している内容や、どこかで聞いた情報や単なる製品紹介ではなく、自社独自で調べ上げた情報やナレッジ、顧客に提案する中で蓄積してきた経験をもとに、「ここでしか聞けない内容」にこだわることで、参加者の満足度も上がる。


MNDではユニークなセッションも数多く実施された

「製品の説明だけに終わる講演もありません。製品を販売したいという思いはありますが、ブランディング観点で考えると、製品の情報ではなく、いかにお客様の課題を解決できるか、有益な情報を提供することが大切です。たとえばセキュリティ分野では、深刻な被害をもたらす脆弱性が続々と発見され、それを悪用した攻撃はランサムウェア侵害や標的型攻撃、ばらまき型攻撃まで幅広く用いられ、企業の被害も拡大し続けています。この課題に対して、製品やツールの話をするのではなく、『いかに脆弱性に対応するのがベストなのか』という観点で内容を組み立てていく。お客様目線の情報を発信することにかなりこだわっています」(引野氏)

「売る目線」ではなく、「お客様目線」に立つことで、マクニカへの信頼度も醸成されていく。セッションを担当する講師とは、まずこの認識を共有したうえで、「この目的に対し、どのような立て付けでコンテンツを作って欲しいか」をしっかりすり合わせし、説得力のあるコンテンツ作りに注力してもらう。その意味では、まさにマーケティング部門と講師が一体となって、コンテンツ作りに当たるという。

 

オンラインイベントならではの課題にどう対応するか

コンテンツ作りにおいて、今回もう1つ徹底的にこだわったことがある。それは参加率の向上と離脱率の低下だ。

オンラインイベントは、リアルイベントに比べると概して参加率が低くなる傾向がある。気軽に登録できる反面、当日になって別のオンライン会議が入ったり、あとで見逃し配信を見ればいいと考える人も一定数いる。

もう1つの問題が、セッション中の離脱だ。途中で「つまらない」「役に立たない」と思ったら、すぐに視聴を止めてしまう。この2つに関しては「オンラインならではの課題ということで、しっかり工夫しないとお客様に情報を届けられず、本来の目的を達成できないことになってしまうので、『登録だけで満足せず、いかに参加してもらうか』『いかに最後まで聞いてもらうか』の2つにはこだわりました」と引野氏は言う。

企画を担当した齋藤氏も、「いかに離脱させないかという点で、セッションの作り込みは本当に全社一丸となりました」と振り返る。社内講師の場合、最低でもリハーサルを3回行って、本当に伝わる内容になっているか、離脱しないで聞いてもらえるかをチェックした。「骨子をまず作ってもらった後で1回マーケ担当者を含めてリハーサルをして、次に各関係者や上長も集めて、『想定しているターゲットに独自の価値を提供できているか』『この内容なら離脱しないか』を徹底的にチェックしました。これがかなり大変なところでしたね」(齋藤氏)

そして今年は、これだけ力を入れて作ったコンテンツを有効活用するため、イベント終了後のナーチャリングにも活用。昨年までは、配信して終了だったが、今年はセッション記事を掲載し、参加者のナーチャリングに活用したほか、MND開催後の単発イベントのテーマとも連続性を持たせ、よりきめ細かなコミュニケーションを設計したという。

 

品質を担保するには、内製と外注のバランスをとること

なお、マクニカネットワークスでは、イベントの中核である企画作りに注力するために、集客や運営、セッションの動画撮影、制作、当日の事務局対応に至るバックヤードのイベント業務全般を請け負ってくれる協力会社を求めた。齋藤氏は、「金額や人的リソース、時間などのコストとクオリティを天秤にかけ、クオリティを担保するために協力会社は必須でした」と話す。ただし業務を全部丸投げするのではなく、クオリティを第一に「自社がやるべき範囲」と「委託する範囲」を明確化し、共にイベントを作り上げる意識を共有することが何より大切だという。


マクニカネットワークス株式会社 マーケティング部 伊藤氏

伊藤氏、引野氏も「外の視点が入ることで、新たな視点でアイディアを得ることができ、私たちも企画の根本を問い直しながら、企画を考えることができました」と話す。たとえば「なぜセキュリティ、DX、AIをイベントの3つの軸として掲げているのか」「イベントテーマは、英語より日本語のほうが響くのではないか」などのちょっとした疑問や提案がそれに当たる。いままで慣習としてやってきたことを、外の視点が入ったことで、「なぜ?」と振り返ることができ、よりクオリティ高いイベントとなったという。

アンケートでは、「オンラインイベントが急増している中で、お世辞抜きに一番満足度が高いイベントでした」という声があり、満足度も昨年より上昇した。この成果と反省点をもって、来年はさらに満足度の高いMNDが開催されるはずだ。
 
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