地域 2019.12.04 高知の魅力を伝えるものづくりとマーケティング|醸造家・瀬戸口信弥氏(後編)


 高知でクラフトビールの醸造を始め、地域とのつながりを生み出してきた瀬戸口さん。後半では、その活動から何を得て、今後マーケットをどう広げていくのか展望などの話をお聞きします。

 
●瀬戸口 信弥さんプロフィール
1987年大阪府生まれ。大学卒業後、電機メーカーに入社する。就業中、高知県への移住と、ビール会社の起業を決意し、
2016年から、株式会社石見麦酒にてインターンシップを受講。修了後、合同会社高知カンパーニュブルワリーを設立。
2018年1月、発泡酒醸造免許を取得し、3月に高知に本格移住。県内唯一となるビール醸造所を開設し、同年4月にクラフトビール「TOSACO」を販売。
 

ビジョンに即した、ものづくり

瀬戸口さん_01
合同会社高知カンパーニュブルワリー 代表社員兼ブルワー 瀬戸口 信弥さん

——今年10月の「インターナショナルビアカップ2019」で銀賞受賞し、味への評価が高まっています。瀬戸口さんの味へのこだわりをお聞かせください。

瀬戸口さん:
ありがとうございます。「インターナショナルビアカップ」は国内外から1000種類のビールが出店するコンテストで、「こめホワイトエール」が銀賞を受賞することができました。ドリンカビリティ(飲みやすさ)を重視して醸した当社の主力3商品のひとつです。

「飲みやすさ」にも人によって色々定義が異なると思います。水のようにガブガブ飲める飲みやすさもあります。ただ、TOSACOはあくまで「ビール嫌いの妻と乾杯できるビールの味」を目指しました。苦味などの味を残しつつ、ビールが苦手な人でも飲みやすいビールにすることで、飲めなかった人の新たな食の体験をTOSACOで作ることができます。こうした新たな食の体験が、食の喜びにつながり食卓を豊かにすると考えています。
なので、当社は「こめホワイトエール」「ゆずペールエール」「TOSA IPA」という順で、ビール嫌いの人でも抵抗のない飲みやすさから、しっかりとしたコクと苦みも楽しめる飲みやすさのラインナップとなっています。

もちろん、高知県越知町の山椒を使った、高知県工業技術センターが培養する日本酒酵母を使用した「和醸ケルシュ」など、高知県産のものを使用することは忘れてません。

TOSACO画像

——ラベルにも大きなこだわりがあると、お聞きしました。

瀬戸口さん: 
TOSACOのラベルは「わかりやすさ」を重視しました。例えば、TOSACOのラベルは他のクラフトビールのラベルに比べると非常にシンプルな色合いにしています。あまり派手なデザインにすると食卓の風景の邪魔になってしまう、それでは「食卓を豊かにする」というコンセプトに反してしまいます。そうした想いから、極力シンプルなデザインにこだわりました。

プランを可視化することで、将来像が浮かび上がる


——現在、高知のスタートアップの支援を行っているとお聞きしました。

瀬戸口さん:
 高知での起業や新規事業創造のサポートなど行っている「高知スタートアップベース」の講師もさせていただいてます。ここでは「こうちマイプロジェクト道場」という学びの場があり、参加者との対話もさせていただきました。
 このような場に立つときには、壇上でパワーポイントの資料を使って当社の事業やビジネスプランの説明をする必要があります。プレゼンテーションの資料を作ることで、それまで漠然としていたことを明確な言葉になっていきます。

 これまで醸造作業で資料作りなどの考える作業は後回しでしたが、登壇準備を重ねる度に内容が固まっていき、人前でしゃべることでプレゼンテーションの内容をブラッシュアップできる効果があると気付きました。また当社の目標である「クラフトビールを通じて食卓を豊かにすること」を改めて再確認することができたのも、「地産外商」を明確に意識したのも講師という活動のおかげだと考えています。

 

TOSACOを媒介に、高知の魅力を伝える

瀬戸口さん_02

——「地産外商の仕組みづくりのために、どのような試みを行っているのでしょうか?」

瀬戸口さん:
高知の資源をビールの副原料として活用したクラフトビールを、県外や都市部に届けることで、高知の魅力も伝える。そのような「地産外商」の仕組みを作ることで地方をもっと豊かにできると考えています。そうした想いから、高知県外のスーパーや飲食店にも販売をしてもらっています。

東京での取り扱いの中心は、高知県のアンテナショップ「まるごと高知」で販売も好調なようです。ほかにも高知県出身者が経営する飲食店などを中心に取り扱ってもらっています。関西圏では、高価格帯の商品も扱うスーパーで取り扱っています。こちらも「バリュー」社長・石川さんのご紹介で取引することができました。

現在は従業員も雇い、本格的に営業活動ができるようになったので、地産外商の営業活動の一環として、スーパーの売り場に立ち、直接お客様にTOSACOのコンセプトや魅力を伝えることに取り組んでいます。まずは「高知の素材を使ったビール」ということを第一に伝え、コンセプトである「ビールが苦手な妻が飲める味わい」のことや、大阪出身者が高知に移住してビール造りをしているいきさつなど、陳列された商品からだけではうかがい知れない物語を話します。

 さらに「食卓を豊かにする」という本来のビジョンから、焼き肉等には「TOSA IPA」、鰹のタタキには「ゆずペールエール」など、具体的に料理とのペアリングを提案をするよう心がけています。食卓はビールだけで構成されているわけではないのではありません。ビールと料理の新たなペアリングを発見していただく事で、驚きが喜びとなり、食卓の豊かさに繋がると考えているからです。

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——県外に出るにあたって、課題はございますか?

瀬戸口さん:
嗜好品であるビールは、世の中になくても困ることはありません。なかでもクラフトビールは安い商品ではありません。しかも、流通経路が本州よりも未発達な四国から発送する経費も問題になってきます。県外へ販路を広げるには流通の問題を解決するのことが課題といえます。

 金額面では大手のビールより安くすることは難しいので、金額よりも味にこだわり「この味が好き」と思われるビールに育てていきたいです。味や品質にこだわった量販店や酒販店、飲食店で展開したいと考えています。例えば、高知の自然の中に自生する天然酵母などを使用した自然派ビールなども醸造して、よりプレミア感を増すことも視野に入れ、もっと都市部にPRしていきたいですね。

——これから目標に向かって取り組んでいく具体的なプランはありますか?

瀬戸口さん:
 根本的なことですが、「美味しいビールを造っていける体制を蓄積していく」というのが大前提としてあります。現在は年間生産量16KLですが、ビール免許の下限醸造量を意識して、4倍の60KLをまずは目標にしたいです。

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 クラフトビールもやはり樽から注いだ生ビールが美味しいです。しかし当社のビールは基本的に瓶売りが中心です。それはあくまで「家庭の食卓を豊かにする」というイメージがあるからです。しかしまだまだ高知ではクラフトビールの存在は一般的ではありません。その裾野を広げるために、料理とTOSACOのペアリングを楽しむ「TOSACOの会」を、飲食店とコラボして開催して、好評を得ました。それほど回数は行っていませんが、これからもそのような活動は続けていきたいです。

 高知県内では新たにクラフトビール醸造所一軒が操業し、もう一軒が開設される予定です。その立ち上げの際にはアドバイスも行いました。

 さらに自治体や企業などのオリジナルビールを造る委託醸造の依頼も入ってきています。とはいえ、単にビールを造るだけが仕事ではありません。販売ルートの確立し「売れる環境づくり」をしてこそオリジナルのクラフトビールだと考えています。ちょうど現在、当社初の委託醸造のオリジナルビールを、来年4月の販売開始を目標に販売ルートの確立を目指し活動をしているところです。

 これから先の話ではありますが、豊かな食卓を可視化できる場所づくりとして、例えば醸造所にパブを併設し樽詰めの生ビールが楽しめる「ブルーパブ」の運営も夢の一つでもあります。クラフトビールの美味しさを共感できる場所づくりは今後の課題ともいえますね。


編集後記:
 瀬戸口さんの話から「好きなことに挑戦して、それを積極的にアピールすることの大切さ」を知ることが出来ました。労苦を惜しまず足繁く現地に通い、地元の人と腹を割って話し合い、夢を語った瀬戸口さん。その真摯な姿勢が地域を動かす原動力に繋がりました。交流を重ねることで、地域のキーパーソンとの出会いを生み、それがビジネスチャンスの拡大にも繋がっています。

 また地方で新たなビジネスを生み出すためには、自治体の移住支援などを積極的に活用することの必要性もあるようです。地方によって温度差はあるようですが、現在多くの地方自治体では移住政策に注力しています。地方での起業を考えている方は、都市部にある相談窓口に足を運んでみてはいかがでしょうか。
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