マーケティング 2019.09.10 共感を生むための「継続力」と「巻き込む力」 【Bigbeat LIVEレポート③】

8月2日に開催され、大盛況のうちに幕を閉じたBigbeat LIVE。広告会社が主催するプライベートイベントでは、国内マーケターが集結する国内最大級のマーケティングイベントです。3回目となる今年のテーマは「Go for it!」。
このレポートでは、アドビ システムズ 株式会社の小沢 匠さんがホストを務めた2nd Stage「組織は『共感』で変わる」を前後編でお届けします。前編は小沢さんのイントロダクション、エンワールド・ジャパン片山旭さんとfreee田中圭さんのプレゼンテーションです。
 

あなたも共感チェンジリーダー



2nd Stage幕開けとともにステージに登壇したのは、ホストを務めるアドビの小沢匠さん。

◆小沢さんプロフィール
3歳からバイオリンを始め、バークリー音楽院に留学。父親の病気をきっかけに帰国し、エムティーアイにサウンドデザイナーとして入社。その後、DeNAに転職、『怪盗ロワイヤル』の企画に参画。2010年にアドビ システムズ 株式会社入社。常務執行役員 アドビ カスタマーソリューションズ統括本部長(現職)。
小沢さんのインタビュー記事はこちら


アドビはクリエイティブ製品の販売モデルと顧客エンゲージメントスタイルを、売り切り型の「パッケージ販売」から「サブスクリプション型」へと変革させました。以前からサブスクリプション型ビジネスで展開していたマーケティング製品(現在はAdobe Experience Cloudと呼称)に携わる、
特にカスタマーサクセスマネジメント部門の意識や体制を変えるにあたり、変革を推進する側にいた小沢さんは非常に大きな抵抗にあったと言います。
当時の経験を通じて小沢さんが理解したことは、“共感でしか人は動かない”ということです。小沢さんはハーズバーグの動機づけ/衛生理論から、共感が生まれる仕組みについて、次のような仮説を立てたと言います。



「満足を引き出す要因の一番上は『達成感を得る』、二番目が『承認される』。これらがなくても不満足にはなりませんが、一方で『会社の方針とマネジメント』によって不満足が引き起こされることがわかります。人と人のコミュニケーションにおいて、敬意を持って相手の話に耳を傾け、相槌を打つことで、相手は自分の話が伝わったのだと達成感を得る。そして承認されたと理解する。この繰り返しが起こることで満足が引き出され、共感へとつながっていくのではないでしょうか」(小沢さん)

そして、「戦略やフレームワーク、ツールでは、ほとんどの人は動きません。マーケターは、共感によって、いかに人を巻き込みながら、物事をオーケストレーションして、前に進めていくのか。このStageの主役は登壇される3名だけではありません。参加されたみなさんは全員が聴衆ではなく、自らの意志で参加された“共感チェンジリーダー”です。“YOU ARE IN.”みなさん一緒に組織を共感で変えることについて考えていきましょう」と語りかけ、2nd Stageをスタートさせました。


 「隣の人と最近何か共感したことor人生で一番共感したことを分かち合ってみてください」と呼びかけた

 

片山さんが共感のために継続している3つのこと



最初の登壇者はエンワールド・ジャパン株式会社 入社後活躍支援チーム カスタマーサクセススペシャリスト 片山 旭さん。

◆片山さんプロフィール
携帯電話リセラーで販売を担当していたが、「マーケティングに携わりたい」という想いから2017年 エンワールド・ジャパンに転職。マーケティング部で試行錯誤の日々を送る中、ビッグビート主催のイベントで「カスタマーサクセス」に出会い、衝撃を受ける。その後、社長に直談判し、カスタマーサクセス専門部隊として「入社後活躍支援チーム」を立ち上げた。
片山さんのインタビュー記事はこちら


エンワールド・ジャパンに転職されてから継続している3つのことが、どのようにカスタマーサクセスチームの設立につながったのかについてお話いただきました。

<片山さんが継続している3つのこと>

1.    社内ネットワーク作り
2.    セルフブランディング
3.    外の物差しに触れる


それぞれについて、詳しくご紹介しましょう。

1.    社内ネットワーク作り
エンワールド・ジャパンは営業が中心の会社だったことから、営業との関係性が大事だと考えた片山さん。営業との関係構築のために、接点を見つけてはランチに誘い続けました。

社内表彰された方、マーケへ問い合わせをされた方、共通の趣味がある方、廊下ですれ違った方など、毎月15回の目標を自ら設定して、果敢に声をかけ続けたところ、2017年11月からの1年間で、なんと207回もランチをご一緒することに成功したそうです。

ポイントは、Peatixのイベント情報やNewspicksの記事など、相手にとって有益な情報を渡したり、相手に合いそうな人をさらに紹介したりするなど、一緒にランチをすることで、何かしらのメリットがあるように配慮したことのようです。

「その結果、社内で認知されるようになったり、キーパーソンを把握できるようになったり、営業さんから情報が入ってくるようになったり…、絶大な効果を得られました」と片山さんは話します。



2.    セルフブランディング
サーフィンが趣味で完全朝型人間の片山さんは、朝7時30分に出社し、始業前の1.5時間は勉強しようと決めて、毎朝同じ席で勉強することにしました。そうすることで、「毎朝、あそこで勉強しているのは、最近マーケに入ったあの人か」と認知されるようになり、気になった人が声をかけてくれるのだと言います。他の人の目に入ることを意識しながら自分のルーティンを続けることが大事なんですね。

加えて、スポーツ好きの片山さんは、スポーツのお誘いはすべて参加するようにしました。すると、スポーツ以外にも山登りなどのアクティブ系や、ハロウィーンやクリスマスといった社内イベントなどでも声がかかるように。自分が楽しめるアクティビティを見つけて積極的に参加するだけでなく、できれば運営を引き受けるようにすると、さらにそこから人脈が広がります。「1対 複数のコミュニケーションを意識することが大事」と片山さんは説きました。

3.    外の物差しに触れる
自分は本当にマーケターなのか確信が持てないまま、昨年のBigbeat LIVEに参加したところ、いろいろな人から多くの刺激を受けたと話す片山さん。その効果を最大化させるためには、イベントで膨大なインプットをした後に、しっかりとアウトプットすることが大切だと言います。

そしてもうひとつ、外の物差しに触れるために片山さんがとったユニークな方策が“勝手にメンター制度”です。去年のBigbeat LIVEで感銘を受けたものの、面識がないので、勝手にメンターにしようと決めてしまったのだとか。以下が片山さんのメンターリストの抜粋です。ただオンラインの動向をフォローするだけでなく、自分を見つけてもらうための方法や最終ゴールまで考えられているところが、マーケターらしくて素晴らしいと思いませんか?



次に、片山さんがカスタマーサクセスチームの立ち上げに至った経緯が語られました。

先に挙げた入社から継続している3つのことを行う中で、様々な気づきを得た片山さんは、人材紹介業のマーケティングやサポートの現状を分析してみることにしました。

そこで疑問に思ったのが、次の2つです。1つ目は、人材業界ではマス広告を用いた集客手法も主流になっているが、営業にとって必要な人材が集客出来ているのかどうか。2つ目は、本来、お客様にとってのゴールは“転職後の活躍”であるにも関わらず、転職の成約というキャッシュポイントを過ぎた後の取り組みが少ないのではないかということでした。

「入社後に活躍していただくためのサポートを継続的に行う“カスタマーサクセス”によって、人材紹介業をあるべき姿に変えられるかもしれない」と考えた片山さんは自ら社長にプレゼンを行い、カスタマーサクセスの立ち上げを果たします。

「共感を生むために何よりも大切なのは、自分ができることを一生懸命にやっている姿勢を見せることだと思っています」と語り、片山さんはプレゼンを終えました。
 
片山さんからのメッセージ
今、自分が出来ることを背伸びせずに継続することが大切。日々のルーティンも「目的」を持つことで何かに繋がると思います。小さなことから少しずつ取り組み、一緒に成長していきましょう!
 

田中さんが社内外を巻き込んで共感を得るまでの軌跡



2人目の登壇者はfreee株式会社 Community Marketing Manager 田中 圭さん。

◆田中さんプロフィール
人材会社に新卒入社し、営業を担当。その後、医療法人に転職し、地域の方たちを対象としたイベントの企画・運営を担当する。2018年にfreee 株式会社入社。入社後まもなく、freeeの新規プロジェクト「会計士・税理士さん対象のコミュニティづくり」に参画。現在、コミュニティ運営と拡大に奔走している。
田中さんのインタビュー記事はこちら


田中さんは税理士・会計士を中心とした、パートナーとの中期的なリレーション構築を目的とした、freeeファン会計人によるユーザー主導(自走)型コミュニティ「freee“マジカチ”meetup!」の立ち上げ・企画・運営を担当されています。

施策開始から約10ヶ月で、東京・大阪・福岡・名古屋・北海道の計5地域でコミュニティを立ち上げ、300名以上が参加するコミュニティへと成長している「freee“マジカチ”meetup!」。meetupが、これからfreeeを使っていきたいという方に対して、よりモチベーションが上がり、ファンになっていただくための場として機能していることなど、自走コミュニティによる会社への貢献度が高くなっていると言います。

しかし、「コミュニティは直接的に獲得する施策ではないため、会社には理解されづらい施策ではある」と田中さんが語る通り、最初から順風満帆だったわけではなく、投資打ち切り(チーム解散)の危機に迫られたこともあったと言います。そんな中、田中さんはどのように周りを巻き込みながら、共感を生み出していったのでしょうか。社内と社外に分けて、具体的な取り組みが紹介されました。

<社内>

1.    自己紹介
freeeに転職してすぐこの取り組みに着手した田中さん。コミュニティリーダー候補として、ロイヤリティの高いユーザーさんを紹介してもらうべく、セールスやカスタマーサクセスの人たちに協力をお願いしようにも、「田中って誰?コミュニティって何?」という状態からスタートせざるを得ませんでした。そこで田中さんは関係者一人ひとりのデスクに話をしに行き、リーダー候補の方を紹介してもらった方には、実際にお会いしたときの反応をフィードバックするようにしたと言います。

2.    日々、進捗共有
社内の共有ツールを使って、日頃の活動内容を自ら発信するだけでなく、コミュニティリーダーとの打ち合わせに参加した他の社員の方からも感想を発信してもらうようにしたそうです。実際に投稿された「マジカチmeet upハンパない!ただの飲み会かなって思ってたら違う!!!」「こんなに真剣に考えてくれるコミュニティは日本ではないなと思い、改めて感謝いたします」といった第三者からのポジティブなコメントは、きっと大きな後押しになるはずです。

3.    デスクで楽しそうに仕事する
現在、2名体制のチームでコミュニティ運営を行なっている田中さん。他のチームに「どうしてコミュニティをサポートしてくれるのか?」と聞いてみたところ、「デスクで打ち合わせしている様子が漫才みたいでおもしろい。文化祭の企画をしているようなワクワク感が伝わってきて、自分も参加したいと思った」という声が多く聞かれたのだそうです。

4.    ノベルティ(ロゴシール・タオルマフラー)
ノベルティを作る過程で他のチームを巻き込めたり、完成したノベルティを関係者に渡したりすることで、コミュニティの輪が広がっていったと言います。今では社長を始め、事業部のほとんどの社員はPCにロゴシールを貼ってくれていることから、コミュニティの意識促進と活性化につながるとして、ノベルティを作る意義を説きました。

5.    リーダーに社内向け登壇をしてもらう
「コミュニティがなかなか社内で評価されない」と、コミュニティのリーダーにこぼしたところ、「こんな熱い取り組みをしているのに、社内で浸透していないなんて、ダメだ!僕から話をします」という申し出があり、コミュニティについてユーザーさんが社内向けに説明するという異色の取り組みが行われたのだとか。これほど心強いことはありませんよね。


 
<社外>

1.    必ず直接会いに行く
コミュニティリーダー候補の方と初めてお会いするときは、地方であっても必ず直接会いに行き、熱量やビジョンをしっかり伝えているそうです。

2.    ビジョン・目標を共有
田中さんがコミュニティリーダーの方に必ず伝えていることは、「このコミュニティをきっかけに、会計業界を強くかっこよくするムーブメントを起こしたい」というビジョン。コミュニティを作る上では、“どんなコミュニティを作りたいのか”という設計がとても大事だと語りました。

3.    チーム内でのすり合わせ
コミュニティリーダー候補の方と打ち合わせをした後は、事前に定めたリーダーの定義に当てはまるかどうかを、チーム内で必ずすり合わせを行い、「この人だ!」という方にお声がけをしているのだそう。プロダクトの知識さえあればいいというものではないのですね。

4.    ノベルティを作成
刺繍入りで高級感のあるリーダー専用のノベルティTシャツを作って、リーダーの方のモチベーションを上げるのに役立てているそうです。

5.    全国リーダー同士の交流
全国のリーダー同士で交流を図ってもらいたいと思い、どうしたら東京のリーダーに福岡まで来てもらえるのか、チーム内でシミュレーションをしながらお願いした結果、快く来ていただけたのだとか。東京から福岡まで移動するほどの価値を提供できている証だとも言えるでしょう。

最後に田中さんは、社内と社外に共通していることとして、「自分ゴト化」と「ダイレクトコミュニケーション」が挙げられると話します。「今回、改めて振り返ってみてわかったことは、周りに共感してもらいながら新規施策を立ち上げる上で、裏技や近道は本当になかったということです。とにかく地道に、コツコツと。至って普通のことをやり続けることが大切だと思います」と語り、田中さんはプレゼンを締めくくりました。

 
田中さんからのメッセージ
コミュニティマーケティングは、いかに社内外を巻き込めるかが決め手です。チームだけでは何もできないので、特にリーダー達には本当に感謝しています。
 


続く後編では、ABEJAで5,000人規模の自社カンファレンスの責任者を2年連続で務めた永淵 恭子(通称:ぎょり)さんのプレゼンテーションと、ホストの小沢さんと登壇者の3名によるパネルディスカッションの模様をお届けします。お楽しみに!
 
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