マーケティング 2018.06.18 マーケティング型組織へ—アルテリア・ネットワークスの挑戦とは | 川上潤 氏


アルテリア・ネットワークス株式会社 代表取締役社長 CEO 川上 潤氏

法人向け通信事業を営むアルテリア・ネットワークス株式会社(以下アルテリア)。2017年7月17日に同社代表取締役社長 CEOに就任した川上潤氏は、これまで外資系企業でコンサルタント、経営者としてキャリアを積んできた方です。そんな川上氏が目指すのは、従来の通信業界にはない、顧客を起点に物事を考え、価値を提案するマーケティング型組織の構築。その取り組みと、川上氏が考える「マーケティングと経営」について、ビッグビート 代表 濱口 豊が伺いました。
 

通信業界のなかでもユニークなアルテリア

濱口:昨年(2017年)に引き続き、今年も8月1日に「Bigbeat LIVE」を開催します。このイベントで、川上さんには「『マーケティングで経営を変える』ことにチャレンジしている経営者」、つまりチャレンジャーとしての取り組みをお話しいただきたいと考えているんです(笑)。
 
川上氏:それは光栄です。昨年7月の就任以来いろいろな試みをしてきて、「改革スピードをもっと速めていかないといけない」と思っていますが、大丈夫でしょうか(笑)。
 
濱口:ぜひそうした実践のお話をお願いします! 川上さんのご経歴からすると、「チャレンジャー」と表現するのは大変失礼かと思いますが、これまでのご経験を基に、アルテリアという企業をマーケティング型経営に変えていく過程をお話しいただけると、マーケターや経営者の励みになると思います。

川上氏:アルテリアは非常にユニークな特徴を持っている電気通信事業者なんです。全国規模の自社通信網を持って通信事業を営んでいるのは、NTT、KDDI、ソフトバンク、そして当社の4社しかありません。メガ3社は、個人向け・法人向け事業はもちろん、固定電話も携帯電話も展開している巨大企業ですが、当社はBtoBの通信事業に特化しています。電気通信事業は、そもそも全国誰にでも同じサービスを提供するユニバーサルサービスという側面が強いのですが、アルテリアの場合、最も価値を提供できるセグメントにしぼってサービスを展開しているわけです。
事業の柱としてはもう1つ、マンション向けのインターネット接続事業があります。こちらは国内シェアナンバーワンで、当社の強みともなっています。こういうユニークな立ち位置にいるのがアルテリアで、この良さをより強くしていくためにマーケティング型組織への改革を進めています。

※株式会社MM総研「全戸一括型マンションISPシェア調査(2017年3月末)」


 

営業・技術・マーケティングの3軸で市場と向き合う体制づくり

濱口:Webサイトにある御社の組織図を拝見すると、CMO(Chief Marketing Officer)がいらっしゃいますね。
 
川上氏:今年の4月からスタートしました。通信業界では非常に珍しいと思います。
 
濱口:具体的に、どういう改革を進めているのでしょう?
 
川上氏:以前は、営業がお客様と会社の接点でした。お客様にテクノロジーや製品を語り、社内では開発や技術者に対してお客様のニーズを語る。私が就任以降進めてきたのは、社内の組織をマトリックスにし、それぞれの専門で市場に対峙する仕組みを作ることでした。
営業はお客様という軸、技術はテクノロジー、そして製品という軸で市場に向かう役目として、製品マーケティングを設置しました。そうでないと、これだけ動きの早い世の中のスピードに対応できませんし、多様なニーズが生まれるなか、この3軸を深掘りしないと市場の動きを理解できないんです。だからそれぞれの専門性をはっきりさせて、より良い価値提供ができるように、意見を戦わせる。いま目指しているのは、こういう組織のスタイルです。
 
濱口:もともとターゲットをしっかり定めており、さらにその層をきちんと理解し、より価値の高い提案をしていくために、製品・テクノロジー・営業という3軸で議論し合うというわけですね。


ビッグビート 濱口
 
川上氏:アルテリアはもともとテクノロジー系の企業なので、「いいテクノロジーがあり、いいネットワーク資産があれば売れる」という考えがあったんですよ。だから、次に“来る”テクノロジーは何か、という議論が好きなんです。
でも差別化ポイントはそこではなく、あくまで「お客様に提供する価値は何か」ということです。だからマーケティングなんです。

濱口:なるほど。少し話が脱線しますが、川上さんが考えるマーケティングの定義とは何でしょう?
 
川上氏:一般的には「マーケティング=広告宣伝」という認識があるでしょうが、私はもっと広い概念だと思っています。いうなれば、「市場に出ていることすべて」がマーケティングではないでしょうか。
社員はお客様のゴールや目的を踏まえて、どういう価値が提供できるか考えなくてはいけません。その社員の努力をお客様のゴールに結びつけることがマーケティングです。いまアルテリアが取り組んでいるマーケティングとは、こうした活動です。
 

「先生」ではなく「リーダー」としてキャリアを積んで

濱口:ご経歴によると、川上さんはコンサルティングファームから日本ゼネラル・エレクトリック(GE)に入社され、これまでずっと外資系を中心にキャリアを積まれてきたんですよね。
 
川上氏:30年以上前に新卒でブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PwCコンサルティング)に入社しました。いまでこそコンサルタントは人気職種かもしれませんが、私が入社した当時は同期でコンサルティング会社に入る学生は少なかったと思います。大学のボート部で、パフォーマンスを上げるためにデータを取って練習や戦略を工夫していたので、そういう経験が生かせる仕事に興味があり、人と違ったことをやりたいと思って入社しました。
その後米国のビジネススクールに行ってMBAを取り、米国でもコンサルタントとして仕事をしました。そんななか、日米との違いを感じることが増えたんです。それがGEに転職した要因です。
 
濱口:というと?



川上氏:日本ではコンサルタントは先生になってしまうでしょう。明日からお客様である当事者の席について何かやるわけでもありませんし、先生だから入れ替えもききません。
ところが米国では、クライアントと同志であり、そのなかでリーダーになっていくんです。クライアントと同じ種類、グループに属するわけですね。だから入れ替えできるし、ノウハウや考え方を継承していくことができる。日本で、自分もそんなリーダーになりたいと思ってGEに入社したんです。

濱口:GEでは長いこと過ごされたと思いますが、そこからアルテリアという日本企業に移ったきっかけは何でしょう?
 
川上氏:GEはすばらしい会社で、リーダーとしてのロールモデルが多数存在しており、それらの人たちからたくさんのことを学びました。また、CEOをしていた医療機器メーカーのGEヘルスケアは、単なる外資のセールスオフィスではなく、日本に開発から製造、販売、サービスまで全部の機能があったので、経営全般に関して貴重な経験することができました。
ただ、経験を積んでいくと、次に「自分でやってみたい」という思いが芽生えたのです。GEは巨大企業なので、戦略に関してはやはり「米国からきたものを日本流にして出す」というスタンスでした。そうではなく、自分で経営を一からやってみたかったですし、ずっと外資系だったので、日本企業でこれまでの経験を生かしたいと考えたのです。
正直にいうと、オファーは日系、外資系といろいろありました。けれどそのなかでも、抜群にユニークな立ち位置にあり、面白い試みができるポテンシャルがあるということで、アルテリアに入社したわけです。
 
濱口:これまでのメーカー業から、サービス業へ転身したことで変わったことは?
 
川上氏:ビジネスモデル的には、GEもアルテリアも似ているんですよ。要は「アセットを使ってもらうことに対する課金」というビジネスです。GEの場合、エンジンや医療機械であり、そのメンテナンスに対してお支払いいただく形ですね。テクノロジーこそ違え、アルテリアも通信資産を使ってもらうことに対する課金ビジネスなので、根幹は似ています。
ただ、GEもやはりテクノロジーが強い会社なので、「良いものをつくれば売れる」という意識が強い。その点については、私自身がGEに在籍していた時に必死で変えてきました。そんなGEでの経験を、アルテリアで生かしたいと思います。


「顧客に示す価値」という軸を見失うな

濱口:先ほど、大学時代はボート部に在籍していたという話がありましたが、学生時代のスポーツのご経験は、現在の仕事や経営にどのように生かされていますか?
 
川上氏:高校の時は野球部で、当時教えられたことはいくつか根幹にありますね。この野球部では「ドンマイ」と言ってはいけなかったのです。「ミスするにはミスするだけの理由がある。ドンマイと言って仲間同士で傷をなめ合っていたら、もう一度同じことをやってチームは負けるから」というのがその理由です。いまならパワハラっぽい位に言ってやれと。これが正しいかはさておき、当時はそういう文化でした。ただ、やはり当事者同士がお互いに緊張感を持って切磋琢磨していくことは必要だと思うんです。たとえば、企業内では営業部門とマーケティング部門は仲が悪いといわれます。一方が顧客、一方が製品と軸が違うから当たり前の話で、その視点の違いを曖昧に中途半端にすることが一番いけない。最終的には「お客様に示す価値」という軸を中心に、自分たちの考えがどれだけ価値につながるか、データで示すことが必要なんですよ。



濱口:それはまさにマーケティングですね。
 
川上氏:そうですね。で、企業は顧客に価値を提供し続けることが至上命題ですから、サステナブルでなければいけないんですよ。それは経営につながります。
 
濱口:ちなみに、大学時代に野球部ではなくボート部に入った理由とは?
 
川上氏:当時東大のボート部は強かったので、頑張れば「オリンピック(1984年のロサンゼルスオリンピック)に出場できる」という宣伝文句だったわけです(笑)。オリンピックは、やはり遠い舞台でしたけど……(笑)。
ボートって面白いもので、後ろに向かって互いに顔を見ないで皆で一生懸命漕ぐ中で艇に乗っている人全員を信用できないといけないんですよ。でも凄くキツイし、ましてや負けそうになったりすると、自分はこんなに頑張っているのに、誰かが手を抜いているんじゃないかとか疑心暗鬼になる。凄く僅差で勝負がつくので一人がちょっとでも手を抜いたら致命的なので。でも最後に勝つ強いクルーというのはこの疑心暗鬼の無いクルーなんです。なんだか会社にも似ています。



濱口:ありがとうございます。最後に、Bigbeat LIVEでお話しされる内容をちょっとだけお聞かせください。

川上氏:「マーケティングをDNAに組み込む」というキーワードを考えています。ちょっとおこがましいかもしれませんが、前述したように、通信業界、特に電話の世界はユニバーサルサービスなので、サプライサイド(事業者側)が強かったという歴史があるんです。言い換えれば、それが通信業界のDNAなんですね。DNAはそもそも変わらないといわれることもありますが(笑)、新しい考えや息吹を入れることは差別化のチャンスです。
私がいまアルテリアの社員にいっているのは「オンリーワンの会社になろう」ということです。それは、単にマーケティング組織をつくることではなく、社員一人一人の考えや行動がお客さんからスタートするという姿勢です。

濱口:ありがとうございます! 講演が楽しみです。本日はありがとうございました。

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アルテリア・ネットワークス株式会社について】
アルテリア・ネットワークス株式会社は、1997年の創業以来、自社保有の光ファイバーによる大容量のバックボーンとアクセスラインを活用し、法人向けに、お客様のニーズに合わせてオーダーメイドのネットワーク環境を構築する「ネットワーク事業」と、専有型による安定的な高速通信を提供する「インターネット事業」、マンション向けに国内シェアNo.1(*1)の「マンションインターネット事業(*2)」を展開。
日々変化する時代の中において、常に挑戦者・革新者としてお客様のニーズに柔軟且つ迅速に応えることを通じ、「靭(しな)やか情報通信プラットフォーマー」として社会に貢献することを目指している。
*1 株式会社MM総研「全戸一括型マンションISPシェア調査(2017年3月末)」
*2 本事業はグループ会社であるつなぐネットコミュニケーションズに事業統合(2017年11月)


■会社概要
商号:アルテリア・ネットワークス株式会社
代表者:川上 潤(カワカミジュン)
所在地:〒108-0023 東京都港区新橋六丁目9番8号 住友不動産新橋ビル
TEL:03-6821-1881
業種:通信・インターネット
上場先:未上場
従業員数:5000名未満
会社HP:http://www.arteria-net.com
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2018年8月1日、BtoB企業のマーケターを対象としたライブイベント「Bigbeat LIVE」を開催します!
今年のLIVEはマーケティングの最前線で戦っているマーケターの方々に向けて「具体的な事例や実践者の生の声」をご紹介!

『マーケティングこそが経営を変えて未来をより良くするキーワードであると信じている』
そんなマーケター、クリエイター、ビジネスパーソンが多く出会い、何かを学び、視線をあげて未来を語る。
そんな場所をご提供いたします。ぜひ皆さまご参加ください。

※Bigbeat LIVEは大盛況のうちに終了いたしました。誠にありがとうございました。開催レポートはこちらから

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