マーケティング 2017.06.14 FFシリーズを世界的ヒットに導いたあの人に聞く。「コンテンツとは?」|実業家・武市智行氏



銀行員からゲームソフト会社社長へと転身を遂げ、その後もさまざまな企業で経営に携わってきた実業家、武市智行さん。現在は、「故郷・高知県の活性化と若者の夢を応援することがライフワーク」と熱く語る武市さんに、お話をうかがいました。前編でご紹介するのは、異色とも言うべき経歴や、そのキャリアの中で培われたマーケティング論などなど。どれも貴重なお話ばかりです。

 

銀行員からゲームソフト会社の社長に!?

濱口 
まずは、武市さんの略歴について、大まかにご紹介ください。
 
武市 
大学入学がきっかけで、高知県から上京。東京で就職するつもりでしたが、家庭の事情で卒業と同時に帰郷し、四国銀行に入りました。
 
入行3年目で、次第に「わが行の存在価値ってなんだろう」と考えるように。結果、「地元の経済発展なくして四国銀行の成長はない」と思い至ったんです。そのためには「ベンチャー支援」と「企業再生」を徹底してやらなければと、その2つに注力するようになりました。

1990年、徳島の企業からスタートし関東へ進出したスクウェアというゲームソフトの会社(現 株式会社スクウェア・エニックス)から、メインバンクである四国銀行にも大きな金額の融資の話が持ち上がりました。しかし当時はゲーム産業のビジネスフローが銀行内部でも詳細まで理解されていたわけではなく、「ベンチャー、ベンチャー」と言い続けていた僕がスクウェアに出向することになったんです。

出向当初は資金需要に対して融資で対応していたのですが、ファイナルファンタジーⅢ以降業績も急成長し上場を目指すようになりました。上場を果たして4年半の出向を終え、銀行に戻って審査部門にてベンチャー支援や企業再生を担当させてもらいました。


1995年 四国銀行審査部時代 同僚のみなさんと

そうこうするうち、「プラットホームを任天堂からソニーに切り替えるので、新たな成長戦略をまた一緒に描いてほしい」とスクウェアから要請がありました。そこで、銀行を退職して代表取締役に就任。転籍の決め手となったのは、ファイナルファンタジーの生みの親であるクリエイター 坂口博信さんの才能と夢に賭け、応援したい!という気持ちでした。
 
ソニーへの移行は成功。クリエイティブ面で表現が広がったので、CGを駆使して映画のようなゲームを作ることができたんです。これによって、それまでドメスティックだったRPG(ロールプレイングゲーム)の世界での地位を確立。またワールドワイドな“ソニー”ブランドから売り出すことで、多くの人に商品を知ってもらえました。


2000年 同社取締役会長時代 JASDAQから東証一部に上場

この2方向からの戦略で、かつてアメリカで20~30万本しか売れなかったFFシリーズに対し、ソニーに販売してもらった『ファイナルファンタジーⅦ』は欧米で500万本のヒット! その後も坂口さんと共に「ディズニーを超えるデジタルエンターテイメントを!」という夢を抱き、フルCGの映画やオンラインゲームの制作など、さまざまなチャレンジを続けました。
 
スクウェア退社後、今度は敏腕音楽プロデューサーである新田和長さんの夢に賭けることに。レコード会社設立に向けてアドバイスをするうち、ミイラ取りがミイラになって、代表取締役に就任。自分も出資したりしましたね。
 
その後はIT系やコンテンツ系などの会社経営を経て、「これから先は、才能ある人の夢を支援しよう」というスタンスに。現在は「若者の夢」と「地元高知の活性化」を応援することを、ライフワークとしています。


マーケティングとは、経営そのもの

濱口
いろんな業種での経営を経験されていますが、“企業理念”についてはどう捉えていらっしゃいますか。
 
武市
企業理念とは企業の存在価値であり、その理念から生まれるものが製品やサービスの価値だと思います。それを明確にすることが大事。僕の理念は「チャレンジすること、チャレンジを応援すること」という、時代に左右されない不変のもの。時代変化には方針や戦略で対応しつつ、変わらないのが理念なんじゃないでしょうか。
 
濱口
確かにそうですね。武市さんは、“コンテンツ”って日本語にすると何だとお考えですか。
 
武市
「価値をわかりやすく伝えるもの」かな。たとえばブランド力がなく一般的には知られていない会社の場合、「何をする会社なのか」「何に優れた会社なのか」を、わかりやすく見せるのが “コンテンツ”。人や企業の才能をもっとも手っ取り早く表現するもの、という感じでしょうか。
 
濱口
“マーケティング”、“ブランド”、“コンテンツ”は、日本語で定義するのが難しい三大用語なんですよね。
 
武市
情報がなくてもひと目、ひと耳で誰にでもわかる力が“ブランド”。
 
濱口
それを作るために発信される情報のすべてが“コンテンツ”、ですよね。
 
武市
そうそう。昔はソフトと言ってました。「ハードとソフト」って。それがいつの間にか「プラットホーム、またはメディアとコンテンツ」、といわれるように。要はソフトウェアということですね。
 
濱口
僕は日本のマーケティングって、ガラパゴスだと思うんです。これは経営者がマーケティングのセクションを、営業の下部組織とか販売促進のお手伝いといった位置づけに設定しているからかなと。
 
武市
そうですね。実はマーケティングって、経営そのものなんだけどなぁ。
 
濱口
マーケッターから社長になる人がもっといてもいいと思うんですが。
 
武市
優秀な経営者って、マーケティングに長けている人だったりしますよね。
 
濱口
特に創業者はそうですよね。さっき武市さんも「コンテンツとは自分たちが何者なのかを伝えること」とおっしゃいましたが、それを発信し続けていける能力が必要です。。ただ、会社が成長して大きくなると、その力が失われていくことも多い。
 
武市
なぜ創業したか、という理念がちゃんと引き継がれていないからですよね。創業者からすれば自分たちの存在価値ややるべきことは常に明確だったはずだし、自分たちがしていることが世の中を変えたり人の役に立ったりすると信じて会社を興したはずなのに、それらが伝わっていない。
 
さっきも言ったけど、マーケティングとは経営そのものだと僕は思う。ビジネスにおいて大事なのは2つ。1つは面白さ、驚き、感動といった“価値”。もう1つは、「我々、またはこの製品・サービスは、こんな強みを持っているよ。ほかとはこんな風に違うよ」という、自分たちに対する“必然性”。これを相手にいかに感じてもらえるか、それによってどれだけ差別化を図れるかが重要なんです。それがマーケティングだと思います。
 
濱口
自分たちの存在価値を伝えるための“コンテンツ”を発信することが、“マーケティング”のうちの“プロモーション”で、マーケティングの結果出来上がるものが“ブランド”ですよね。
 
本来そうあるべきなんでしょうが、日本のBtoB企業はあまり得意ではないように思います。万人に自社を知ってもらう必要があるわけではなく、取り引きしている数十社、数百社の人たちだけに「あの会社いいよね」と言ってもらえれば、ブランディングは成功なんですけどね。日本には100人規模のBtoBの会社がゴマンとある。その会社みんながマーケティングで元気になることは、日本の未来につながるんじゃないかと思っています。
 
 
武市
BtoB企業は、自分たちと取り引きすることによるメリットを、もっと謳ったらいい。そのためには相手を知ってニーズを把握することが大事。そうすれば、ニーズに見合ったものを提供できます。マーケティングを活かしてメリットをきちんと伝えながら、相手の選択肢が徐々に自分たちだけに絞られるよう誘導する。一方で自分たちの選択肢は広げていく、というのがビジネスの醍醐味ですから。
 
あとは、特にBtoBの場合、ビジネスを短期的に捉えないということが大切。一度くらい損をしたり失敗しても、ビジネスとは長期のものだと理解し、長い目で見た戦略の必要性をもっと認識するべきです。上場している場合、足元の利益を落としたとしても、成長性が高ければ企業評価は落ちないんですよ。逆に利益を上げていても、成長性が低いと評価は上がりません。BtoBの場合、10年経ったときお互いに「取り引きしてよかった」と言えるような、長期的視野が大事ですね。

【後編】経営者を訪ねる―武市智行さん「地元を、若者を応援したい」




武市 智行(たけち ともゆき)さん
1955年生まれ。高知県出身の実業家。慶應義塾大学卒業後、四国銀行に入行。退社後はスクウェア(現 スクウェア・エニックス)、ドリーミュージック、AQインタラクティブ(現マーベラス)で社長を歴任。現在は武市コミュニケーションズ代表取締役のほか、Aiming、GameBank、SHIFT PLUS、GameWith、ジモフル、アルファコードの取締役や監査役などを務める。また高知県のコンテンツ産業振興アドバイザーにも就任し、2010年以降は地元の活性化をライフワークとしている。
 

 

 

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