マーケティング 2017.06.14 地元を、若者を応援したい|実業家・武市智行氏

銀行員から転身し、経営者としてゲームソフト会社、レコード会社、IT系企業など、多彩な業種に関わってきた武市智行さんをお迎えしての対談・第二弾。武市さんは濱口と同郷で、しかも同じ高校の先輩。今回は、自身がライフワークだと語る故郷・高知県の活性化についてお聞きしました。「若い人たちの夢を応援したい」と話す武市さんの言葉には、支援に懸ける熱い想いと郷土愛がぎゅっと詰まっています。




自然、気質、坂本竜馬…高知県民は郷土愛が強い

濱口
前編では、入行2年目で「地元経済の発展なくして、四国銀行の成長はなし」と気づき、ベンチャー支援と企業再生に注力した、というお話をうかがいました。
 
武市
「自分が今いる銀行の存在価値は?」という疑問を突き詰めた結果、そうなりました。メガバンクと違って地方に根付く銀行は、その存在価値が分かりやすいんですよね。高知を活性化しなければ、と思いました。その思いに至ったのは、濱口さんも同じだと思いますが、やはり郷土愛の大きさですね。
 
濱口
分かります(笑)。ありますよね、郷土愛。



武市
(出身者は)みんな高知が大好きなんですよ。とはいえ上京した人はみんな、それぞれのポジションで活躍しているので、自分の人生に必死。郷土のことにまでは手がまわらないんです。その点僕は少し早めに第一線を退いたので、今ならいろんなことができると思い、「地元の活性化をライフワークに」と考えるようになりました。
 
濱口
2010年に高知県産業振興スーパーバイザーに就任されていますが、きっかけは何だったんですか?
 
武市
その年、「高知県に“まんが・コンテンツ課”を作ることになったので協力してほしい」と尾崎知事と秘書官の方に依頼されたんです。望むところ、という話になって。
 
濱口
もともと高知県は、人口10万人あたりのプロ漫画家数が日本一なんですよね。『アンパンマン』のやなせたかしさんや『フクちゃん』の横山隆一さん、黒鉄ヒロシさん、はらたいらさん、弓月光さん、西原理恵子さん、青柳裕介さん…。何人かは僕らと高校も一緒ですね。
 
武市
1992年に「まんが甲子園」を開催するなど、高知県は漫画文化に力を入れてきたんですが、その「まんが甲子園」が20周年を迎えるので、そのタイミングでまんが・コンテンツ課を作るという話になったと聞いています。クリエイターが育って、その人が「高知出身だ」と言ってくれれば知名度は上がるけれど、漫画だけではビジネスは難しい。
 
濱口
著作権が高知県に発生するわけじゃないですもんね。
 
武市
そう。出版社を作らない限り、高知にビジネス的なメリットは生まれないわけです。だから“コンテンツ”の部分でビジネスをしようということに。「漫画は文化、コンテンツはビジネス」という考え方です。ネットが普及しているから、物流を伴わないコンテンツなら、地方でもビジネスとして成り立つ。なんとかコンテンツビジネスを高知に根付かせたい、コンテンツビジネスという産業クラスタを高知に作りたい、という意志のもと、僕もお手伝いすることになりました。
 
濱口
高知は人口72万弱程度。小さな県だし、全国ランキングでは何かとワーストが多い県です。なのになぜ、出身者はこんなに「高知、高知」と言うんでしょうね。もちろん他県の方も郷土愛はあるんでしょうけど、僕ら、異常に言っている気がします(笑)。
 
武市
何もないところですよね。でも海と山と川に恵まれた大自然や、日常の暮らしやすさが、すごくいいなと思います。自由だし、じめじめしていなくて明るい。イエスノーがはっきりしていて、わかりやすい気質。
 
高知県民の郷土愛の理由のひとつに、坂本龍馬もあると思います。薩長土肥は幕府に対する不満を募らせていったわけですが、彼らが選んだのは、「黙認」ではなく「改善」。脱藩したら殺されると分かっていながら、それでも藩を出て国を変えようとした心意気は、やっぱり高知県人にとって誇りです。近代日本を作り上げた明治維新の因子が、僕の中にも流れているんだ、という誇りは大きいですね。


高知で、若者の夢とチャレンジを応援したい

濱口
不思議な県だと思いますね。でも、好きなのにみんな出て行っちゃうんですよね。働くところがないから。
 
武市
だから高知を活性化するにはまず、優秀な若者たちが働ける環境づくりをしなければならないと思っています。マイクロソフトがシアトルで成功したように、物流を伴わないIT系の会社なら、田舎でもじゅうぶん成り立ちます。ただ、そういう文化が現存しているわけではないので、県外の若者たちを高知へ招致するにはまだハードルが高い。まずは高知出身者からだと思います。大学は県外に出てもかまわないけど、「卒業したら高知に戻ってあの企業に入りたい!」と思ってもらいたいですね。
 
優秀な若者が入りたいと思う会社を高知にもっと!ということで、ゲーム関連のSHIFT PLUS、AI系のデータリーマという2社を設立してもらいました。今年も3社ほど、東京から進出してきてくれる予定です。SHIFT PLUSは2年前に創業して、今では従業員が100人ほどになりました。


2015年5月 高知にて株式会社SHIFT PLUS設立
 
やはり高知から出て行った若者に「戻りたい」と思ってもらうには、最先端に取り組む企業でないと、と思いますね。若者たちが誇れることが大事。そういう企業を作っていかないと、帰ってきてはもらえないと思っています。
 
濱口
SHIFT PLUSの100人のうちの高知県人率はどれくらいですか?
 
武市
地元採用とUターンで9割。残りの1割は、東京の人とIターンです。ゴールデンウィーク前、お盆前、正月前に、高知新聞に広告を掲載するんですが、そうすると親御さんが県外にいるお子さんに、「こんな会社があるよ」と連絡してくれるんです。
 
もう少し産業集積ができたら、僕の出身高校の「若手会」に誰かを呼んで、高知の現状についてプレゼンしてもらおうとも考えています。さらに今年中に東京から2人、優秀な二十代を連れてくるという計画も。高知県民ではなくても、「地方を活性化したい」という優秀な人で、夢と才能があれば大歓迎だし、応援したい。


株式会社SHIFT PLUSのオフィス
 
濱口
他県からの人たちに活性化されるうち、県内ももっと盛り上がりますよね。やはり、よそからも集まらないとダメだと思います。
 
武市
もともと排他的なところが一切なく、「ないものはほかから調達」が高知の文化ですよね。
 
濱口
武市さんの名刺にもロゴが入ってますが、高知プロモーションの「高知家」というプロジェクトはまさに、「一回飲んだら友だち」という文化の象徴ですよね。あなたももう「高知家」の一員ですよ、っていう(笑)。
 
武市
「高知県は、ひとつの大家族やき」が「高知家」のコンセプトですからね。
 
高知にないものは、ほかから調達してくればいいんです。首都圏の企業から知財を提供して頂き、高知でどんどんカスタマイズして大きくする。ビジネスの種を高知で探すのは難しいので、種は東京から調達。発芽、収穫は高知でやりますよ、という考え方ですよね。今、“種”を持っている方々に東京から来てもらって、一緒に育てている最中です。
 
濱口
高知県でも、「1人採用につき○円の補助金交付」とか「家賃の半分を3年間負担」とか「PCなど設備投資の50%を負担」など、企業誘致を積極的に支援してますよね。
 
武市
自己実現したいという優秀な若者ほど、どんどん県外へ出て行ってしまう。一方で県内に残っている或いは大学を卒業して戻ってくる優秀な人というのは、既にある高知の良さや安定を求めている方が多いので、その中で地方を変えていくというのはすごく大変なことです。行政や地方企業の中で「変えていきたい」という人を味方につけながら、頑張るしかないですね。
 
そんな中で、現知事(尾崎正直氏)は若くて革新的な人。知事就任以来、現状分析をしっかりして戦略を立てている人なので、今後もサポートしていきたいですね。
 
濱口
現在務めてらっしゃる高知県コンテンツ産業振興アドバイザーとしても、そういう活動をされているんですね。
 
武市
はい。「高知はチャレンジを応援する県なんだ」ということを強烈にアピールしていきたいです。そのうえで、地方にあっても決して東京に負けないもの=コンテンツで、徹底的にチャレンジしていきたいと思っています。
 
濱口
実は私も広告屋として、高知でビジネスや文化のイベントができたら素晴らしい!と思っているんです。
例えば、アメリカのオースティンという街で開催されているサウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)みたいなイベント。音楽や映画などのコンテンツや、新しい事業アイデアや創造的な技術が一同に集まる大規模なイベントなのですが、世界の素晴らしい技術やコンテンツが集まるようなイベントを、高知でできたら最高ですね。



【前編】経営者を訪ねる―武市智行さん「コンテンツとは?」




武市 智行(たけち ともゆき)さん

1955年生まれ。高知県出身の実業家。慶應義塾大学卒業後、四国銀行に入行。退社後はスクウェア(現 スクウェア・エニックス)、ドリーミュージック、AQインタラクティブ(現マーベラス)で社長を歴任。現在は武市コミュニケーションズ代表取締役のほか、Aiming、GameBank、SHIFT PLUS、GameWith、ジモフル、アルファコードの取締役や監査役などを務める。また高知県のコンテンツ産業振興アドバイザーにも就任し、2010年以降は地元の活性化をライフワークとしている。

 
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