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2019 2019.09.18 【LIVEレポート⑦】マーケティング思考で『くらし』を良くする

8月2日に開催され、大盛況のうちに幕を閉じたBigbeat LIVE。3回目となる今年はメインステージにくわえ、「Think Local & Go Global !」と題したスペシャルステージを展開しました。このレポートでは、スペシャルステージのうち、「Think Local」をフィーチャーしたLocal Stageの模様を前後編でお届けします。

後編はこちら

Local Stageのテーマは“マーケティング×行政”。ホストは、Project30(渋谷をつなげる30人) エバンジェリスト 日比谷 尚武さんです。プレゼンターは、高知県 高知県東京事務所 理事・東京事務所長 沖本 健二さん、千葉県流山市 流山市役所 総合政策部 マーケティング課 課長 河尻 和佳子さん、長野県営業本部 営業局企画幹(メディア・ブランド発信担当)内田 哲也さん。それぞれが現在力を入れている取り組みなどについて語ったプレゼンテーションの様子をご紹介します。

[撮影]野村昌弘

 

このセッションは「暮らしを良くする行動のきっかけの場」


3人のお話に先立ち、弊社代表の濱口は過去2回のBigbeat LIVEで訴えてきた「マーケティングで経営を変え、未来が良くなれば、皆がハッピーになる」は行政でも成り立つと述べ、「数年後に振り返った時、この場で聞いたことが暮らしている地域を良くする行動を起こすきっかけになったと思えるような場にしたい」と強い思いを訴えました。
ホスト役を務めるのは日比谷 尚武さん。

日比谷さん
◆日比谷さんプロフィール
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、NTTソフトウェアに入社。2009年よりSansan株式会社に参画し、マーケティング&広報機能の立ち上げに従事。現在は「コネクタ」「エバンジェリスト」として複数の企業やプロジェクトに携わりながら、積極的に情報発信を行っている。


最近、行政や地域社会が抱える課題解決にイノベーションが役に立つと考え、活動の軸を変化させているとのこと。自身の関心事と当セッションの方向性が合致すると考え、今回のホストを引き受けたそうです。
日比谷さんは「今までの活動の経験から、特定の領域にいる人だけがその領域の課題に取り組むよりも、領域を越えた様々な人たちが知恵を出し、お互いに刺激協力し合うことで解決の糸口を見つける活動に関わってきたことが大事だと考えています。今日はそれを体現している方々にお話を伺いたい」と述べ、今までの行政にない発想で、社会課題の解決に奮闘する3人のプレゼンターを紹介しました。
 

行政はマーケティングを求めている


最初に登壇したのは高知県 高知県東京事務所の沖本さん。



◆沖本さんプロフィール
土佐高校、明治大学を卒業後、1987年高知県庁へ入庁。1998年に株式会社スクウェア(現スクウェア・エニックス)に出向、株式上場へ関わる。その後、2001年に高知県庁へ戻り総務部・観光復興部を務めた後、2018年東京事務所所長として就任。高知県の復興を推進している。
高知県東京事務所について


沖本さんのキャリアは高知県庁だけで培ったものではありません。国家公務員としての中央官庁、そしてゲームソフト会社のスクウェア(現スクウェア・エニックス)出向時に営業を経験したという、公務員には珍しい経歴の持ち主です。「地方が抱えている現状と課題の解決には、マーケティングの考え方が有効であることを話したい」と述べ、「課題先進県」である高知県が直面する厳しい現状から説明を始めました。
日本は少子高齢化による人口減少という社会課題に苦しんでいますが、地方では特に顕著です。沖本さんは、高知県は全国に先駆けること15年前から、人口減少による経済の衰退に苦しんできたことを紹介します。2015年時点の総人口は約72.8万人(高齢化率32.8%)。何もしなければ、2060年には約55.7万人にまで落ち込む見通しです。また、1997年(平成9年)に約2兆円あった年間商品販売額も2007年(平成19年)にはその8割にまで落ち込みました。この現状を打破するための戦略の柱としてあげたのが以下の二つです。

・観光入込客数と移住者数を増やす
・県産品販売による県外および海外からの「外貨」獲得

両方とも成果は出始めていますが、持続的発展の段階に至るにはまだ課題が残るのが実状です。



沖本さんは「行政はPDCAサイクルのPとDは熱心でも、CとAをやらないことが多い」と述べ、そうなる原因として定期人事異動を挙げました。行政の人事には、3・4年サイクルで部署のメンバーを大幅に入れ替える定期人事異動が必ずあります。その結果、中身は同じでも看板だけ架け替えた事業がゾンビのように復活する「先祖返り」現象があちこちで起きてしまうのです。

とはいえ、根本的な原因として、行政にマーケティングの考え方が浸透していないからと沖本さんはみています。具体的には「ニーズの把握をしていないこと」「独りよがりのプロダクトアウト的発想があること」「広報の概念はあっても宣伝の概念がないこと」「ターゲットが明確でないこと」だそうです。特に最後のターゲットを決めることは、これまで行政が重視してきた「平等」と相反する考えに思え、抵抗が大きいのでしょう。
ですが、すべてを一律に扱う姿勢は変えなくてはなりません。なぜならば、県行政としてやらなければならないのは、数ある選択肢の中から高知県を選んでもらうことだからです。そのためには、「マーケティングリサーチ、広告宣伝活動、効果の検証を繰り返し行い、常にブラッシュアップする必要がある」と沖本さんは訴えます。それができなければPとDの繰り返しが続くという危機感がひしひしと伝わってきます。行政が取り組む社会課題解決にマーケティングが不可欠であることを強調し、沖本さんのお話は終わりました。
 

「誰でもいいから」は美しくない

次に登壇したのが、全国でも珍しい「市役所のマーケティング課」でリーダーを務める千葉県流山市 流山市役所の河尻 和佳子さん。



◆河尻さんプロフィール
民間企業で14年間営業やマーケティングに従事。住む街であり愛する流山市でそれらを活かしたいと一般任期付職員へ応募し、自治体マーケティングの道へ。首都圏を中心に話題となった「母になるなら、流山市。」プロモーションや、年間12万人を集客する「森のマルシェ」の企画を手掛けた。全国で開催が広がる街への愛をプレゼンバトルする「シビックパワーバトル」の発起人でもある。
流山市 マーケティング課について


河尻さんは「母になるなら、流山市。」というコピーで話題を呼んだ広告キャンペーンを始め、数々のユニークな仕組みを手がけています。
河尻さんが千葉県流山市の職員になったのは2009年。それ以前は東京電力でマーケターとしてデータ分析の仕事に携わっていたそうです。着任当初はマーケティング課ができて4年という草創期。データ分析を主な業務としてマーケティングに携わっていた河尻さんにとって、「予算がない」「人もいない」「知名度もない」という状況にやりがいを見出せるようになるまでには、時間がかかったと振り返ります。

河尻さんが考えるマーケティングとは「売れる仕組みを作る活動全て」ですが、売れる仕組みと言っても、認知されていないことには何も始まりません。河尻さんが行なったのは、初めてのことや風変わりなことをやって、メディアに取り上げてもらい、流山市の存在を知ってもらうことでした。これらは市への定住人口を増やすことを目的としたもので、そのターゲットは首都圏在住の共働き子育て世代と明確です。行政は平等であるべきですが、お金をかけるからこそ、広告キャンペーンではターゲットを明確にする必要があるのです。認知度向上は重要ですが、「誰でもいいから来てもらいたいというのは美しくない。補助金の力で人の気持ちを動かそうとするのも美しくない」と河尻さんは強調します。どうすれば流山市を好きになってもらい、住もうと思ってもらえるか。
河尻さんが着目したのが「共感」でした。



子育て世代の共感に訴えた「母になるなら、流山市。」広告キャンペーンは好評を博し、順風満帆に見えましたが、大きな見落としに河尻さんは気づきます。子育て世代の誘致に熱心になる余り、すでに流山市に住んでいる人たちの気持ちを忘れていたのです。最初の期待が大きい分、本当に子育てしやすい環境でなければ、最初の期待は失望から不満に変わります。「宣伝はうまいけど、実際に住んでみると大したことがないね」と言われないよう、住民の気持ちを温める「インナーマーケティング」に注力するようになったそうです。

その一環として行なった例に、街対抗で住民が住んでいる街の魅力をオープンデータで説明する「シビックパワーバトル」があります。また、市民主導でコワーキングスペースを作るプロジェクトもビジネスとして進みました。「住んでいる街を愛する気持ちがあれば、市民主導で自走する仕組みができる。そうなるまでに5年ぐらいかかった」と話す河尻さん。外への施策は反応がすぐにわかりますが、中の施策はリーダーが生まれ、自発的な活動が始まるまでに時間がかかったとのことです。
河尻さんはこの取り組みをさらに進め、今後は「中を温めて、高まった熱を外に発散させるようなブランディング」に発展させたいそうです。市民の中からその役割ができる人を生み育っていく展望を示し、話を締めくくりました。
 

「課題の本質」にたどり着いてこそ本当の解決

最後のプレゼンターとして登壇したのは、長野県営業本部の内田 哲也さん。



◆内田さんプロフィール
1993年4月富士通株式会社に入社。5年間の地方営業を経験した後、1997年4月本社宣伝部に異動。以来、約20年にわたり広告・宣伝、マーケティングの業務に携わり、2019年4月長野県庁へ転職。同年3月、県庁に新設された長野県営業本部 営業局 メディア・ブランド発信担当部門の企画幹に就任。
長野県 営業局について


内田さんは、2019年3月に25年間勤務した富士通を辞め、新しくできた長野県営業本部の職員に転身されたばかり。この部署は、長野県産品の良さを県外・海外に広く知らせ、「稼ぐ力」と「ブランド力」の向上を目指し、知事の肝いりでできた組織だそうです。富士通時代は一貫して宣伝のプロとしてのキャリアを積み重ねてきた内田さん。着任してから4カ月の奮闘の歩みを語ってくれました。

現在、内田さんが重点的に取り組んでいるのは「長野県のアイデンティティ確立」です。組織が連綿と築き上げてきた「アイデンティティ=らしさ」はやがて哲学に昇華し、そこで働く人の気持ちの拠り所になると内田さんは説明します。それを外に向かって表現することがブランディングなのですが、長野県の場合、それを推進する立場の県職員の気持ちの中にまだ確固としたものが根付いていないというのが内田さんの見立てです。

自分たちの「らしさ」がわからなければ、県外の人に長野県のファンになってもらうことはできません。ずっと県内にいると、客観的な視点を持つことが難しいのは理解できます。県産品を県外に売るための消費者調査をしたところ、内田さんは「りんごも米も自分では買ったことがない」という県職員の声を多く聞いたそうです。消費者の気持ちがわからず、県外の方に県産品をお薦めしていくことや、新たなマーケット開拓を支援していけるでしょうか。内田さんは、「販売チャンスを増やすには、消費者視点に立つことが重要」と業務の中で訴えていると話しました。



この様に、意思決定や行動に必要な情報を得て、課題の本質をあぶり出し、実情にあった具体策へ展開していくところに庁内の弱みがありました。そうした中で、内田さんの庁内での役割は「カメラのピント合わせのように本質をあぶり出すこと」です。具体的に、内田さんが課題の本質をあぶりだすために行なったのが、農産地や伝統工芸の工房を訪れ、県民の生の声を聞くことでした。

例えば、伝統の工芸の場合、後継者不足の悩みは多くの地方が共通して抱えるものでしょう。その原因は、職人が一人前になるまで10年以上かかるので、下積みの長さを若い人たちが嫌うからというのが通説です。ところが、内田さんが関係者に話を聞いてみると、意外にも若い人たちは意欲的なのに、空き家はあるのに住めないとか、当の職人たちの高齢化により、弟子を抱え育成していくには負担が大き過ぎるという事実がわかってきたのです。だとすると、これまで県がおこなってきたイベント出展などへの補助だけでなく、若手の生活資金援助や技術を身につけるための共通の場づくりなど新しい施策が必要になります。

内田さんは現在、庁内での仕事を通じて県職員が「消費者から見た長野県の良さ」に気付く働きかけを続けています。「苦労も多いが、ファーストペンギンのようにリスクを恐れないで取り組んでいきたい」と決意を述べ、話を結びました。

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後編は、ホストと登壇者3名によるパネルディスカッションの模様をお届けします。トークテーマは「マーケティングをどう行政に活かすのか」「移住者に選んでもらうためにどんな取り組みをしているか」など。お楽しみに!




 
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