マーケティング 2019.07.25 「110%の男」が語る、オレ流仕事術|Sansan 松尾佳亮氏
Sansan株式会社 Sansan事業部 マーケティング部/ブランドコミュニケーション部 松尾 佳亮さん
〈Bigbeat LIVE 登壇者インタビュー⑬〉
延べ5,000名超が来場する、Sansan株式会社主催のビジネスカンファレンス「Sansan Innovation Project」。このビッグイベントを2年連続で成功へと導いた、同社 Sansan事業部 マーケティング部/ブランドコミュニケーション部の松尾 佳亮さんにお話を伺いました。“(目標達成率)110%の男”と評される松尾さんの仕事との向き合い方とは、いったいどのようなものなのでしょうか。その人物像に迫ります。
(聞き手:ビッグビート マーケティングチーム ディレクター 野北瑞貴)
出会いの先にイノベーションが生まれる
——Sansanでは「出会いからイノベーションを生み出す」をミッションに掲げておられますが、この具体的な意味を教えていただけますか。
松尾さん
歴史の中で世界が大きく変わったタイミングには、誰かと誰かが出会って、そこから何かしらのイノベーションが生まれているんですよね。当社の寺田(代表取締役社長 寺田 親弘氏)がよく例に挙げるのが、“ビートルズのメンバーが出会ったからこそ、世界的なロックバンドとなり、数々の名曲が生まれたんだ”と。確かに、歴史を紐解いてみると、“出会い”にこそイノベーションの原石がある。言い換えれば、人と人との出会いで、世界は動いているんです。
ビジネスにおける出会いの象徴は名刺交換であり、その裏に秘められたイノベーションの可能性を、デジタルで管理して、共有して、拡張していくのが「Sansan」の役割です。一回きりの出会いで終わらせずに、ちゃんと未来へ繋げて、イノベーションを起こしていこうよ、と。
——名刺交換をきっかけに、“出会い”というイノベーションの原石を大切にしてほしいということですね。
松尾さん
そうです。組織の規模に関わらず、見過ごされていたり、忘れられたりしている出会いは、いくらでもあるじゃないですか。2人でも、お互いに話さなければ、相手の繋がりをすべて把握するのは難しい。でも「Sansan」を使うことで、人と人の繋がりを追うことができるようになり、その先にあるイノベーションにたどり着きやすくなる。原石を掘り当てるための“優秀なソナー”のような存在になれたらいいなと思っています。
——とはいえ、“出会い”は未だオフラインが多いですよね。一人ひとりが外に出て出会いを求めなければ、なかなか難しい気もするのですが。
松尾さん
そうですね。積極的に社外に出ていく人は絶対にいたほうがいいとは思います。しかし、「Sansan」のいいところは、僕みたいなオフラインでのアクションが苦手な人でも、“「Sansan」をのぞけば人の繋がりがわかる”という点です。「Sansan」自体は、必ずしも外に向かってアクションすることを促すようなものではなく、外交的な人の人脈を拡張して、他の人がまた別の繋がりを探しに行けるというのがミソなんです。
——オフラインとデジタルを融合させることで、“出会い”というきっかけから新たな価値を生み出せるというわけですね。次に、御社におけるマーケティングの役割について、お聞かせください。
松尾さん
マーケティング部には約40名が在籍していて、いろいろなグループがあります。オンライン広告、コンテンツ制作、セミナーや展示会、そして僕らのいる「Sansan Innovation Project」のような大型イベントなど、施策ごとにグループが分かれていて、法人向けの「Sansan」を推進するための“ブランディングと売上拡大を見据えたリード獲得”がマーケティング部全体の役割となります。
お客様のベネフィットとプロフィットを追求したマーケティングを
——Sansanのマーケティングの特徴や意識していることはありますか?
松尾さん
単純なプロダクトの訴求ではなく、「Sansan」の機能によって、お客様に提供できるベネフィットやプロフィットを訴求できるよう、強く意識していますね。デジタルトランスフォーメーションや働き方改革など、最近市場が伸びているところに絡めてコンテンツを作る場合でも、そこに対して「Sansan」がどう寄与できるのか、どんなコンテンツにすれば僕らが描いたペルソナの人たちに喜んでもらえるのか、追求しながら作っています。
——御社では、どのようにペルソナを設定されているのですか?
松尾さん
ペルソナの設定は、本当に悩ましいですよね。特に僕らは業種・業態を選ばないため、ペルソナを絞りすぎると機会損失になってしまいます。なので、全体として決めているのは業種と従業員数だけ。あとは各施策の役割や目的に応じて、グループ内でもっと絞っているものもあります。
10月末にユーザー向けのイベントに向けて準備を進めているところなのですが、それに限ってはユーザーの中で特定の人にピンを立てて“この人が喜ぶコンテンツを探そう”という方針で動いています。ロイヤルユーザーが喜ぶのであれば、これが波及して他のユーザーもロイヤルになってくれるはずだという仮説があるからです。
——そこに踏み切るのは、勇気が要ったのではありませんか?
松尾さん
そうですね。今まで1人に対するマーケティング施策はほとんどなかったので。最初は“30代~40代で、業種はこれで、「Sansan」の管理者で”といったくらいしか決めていなかったのですが、これだけだと、この人は何をすれば嬉しいのか、全然わからなかったんですよね。
このままではユーザーのためのイベントはできないと思ったので、1人をピックアップして、「『Sansan』の機能で可能性を感じているものは何ですか?」「やってもらいたいことはありますか?」とかなり深くヒアリングさせてもらい、それをイベントに落とし込むようにしたんです。
——「Sansan」のロイヤルユーザーとは、どのような人ですか?
松尾さん
「『Sansan』を使って、名刺管理だけでなく、SFAやMAなどと連携して、うまく使いこなしている人」ですね。名刺をたくさん取り込むだけでは、プロダクトの広がりがほとんどないので、『Sansan』と何かを組み合わせて新しいイノベーションを起こしている人という観点で選出しています。
——「Sansan Innovation Project」では、どのようなイベントの作り方をされているのですか?ユーザー向けのイベントとは、また違った役割があると思うのですが。
松尾さん
「Sansan Innovation Project」では、世の中で起こっているイノベーションを感じてほしいし、知識や経験を吸収して持って帰ってほしい、というのがイベント制作担当としての想いです。一方で、僕らも一事業者として開催するイベントなので、いかに新しいユーザーを獲得できるか、来場したユーザーのLTVをいかに上げられるか、というのも重要なポイントです。要は、ブランディングと売上拡大が目的ですね。
「Sansan Innovation Project」の名の通り、僕らはイノベーションを起こしてきた組織だと思っているので、それを世の中で次のイノベーションを起こそうとしている人たちや、そのポテンシャルがある人たちをもっともっと発掘していきたいし、自ら行動を起こす力にしてもらいたい。イベントには、人と人がオフラインで出会って何かが起こる可能性が秘められているので、それをSansanが手がけるというのは自然なことだと思っています。
“オレのエッセンス”を加えた仕事を追求したい
——松尾さんは、もともと営業をされていたそうですね?
松尾さん
技術者育成に関する社員研修の営業をしていました。
——なぜその仕事を選ばれたのですか?
松尾さん
正直なところ、何の意思も意図もないです。僕は映画監督になりたくて、就職活動では、テレビ局や製作会社、配給会社を受けたのですが、ぜんぶ最終面接で落ちたんです。たまたまいいところまで行っちゃったのでタチが悪く、気づいたら就活留年していました。それで翌年も受けたのですが、それでもまたダメでした。さすがに3年目はないと思っていたので、とりあえず社会人になろうということで、まだ募集していたところに申し込んだら、その1週間後に内定をもらって入った感じです。
——映画監督の夢は、もう捨てたのですか?
松尾さん
捨てました。僕は組織に属する覚悟がまったくなかったことが敗因だと思っていて。僕は最終面接で各局の有名なプロデューサーに対して、「オレの案、使ってもいいぜ」くらいの気持ちで企画書を持って行っていたのですが、今思えば向こうは組織として使いやすいやつが欲しいわけじゃないですか。もちろん企画書が「こいつ、すごいな」と思わせられるものだったら、受かっていたはずですし。落ちたってことは才能がないということなので、諦めました。
——そのトンガリは社会に出て丸くなってしまいましたか?
ビッグビート マーケティングチーム ディレクター 野北瑞貴
松尾さん
いや、それは今でも持っていると思います。人と同じことをやるのは本当に嫌いなので。…って言うと、なんだかすごく調子に乗っている感じがするかもしれませんが、とにかく自分の中で満足がいかないんですよね。もちろんベンチマークとして、いろいろなものを参考にはするのですが、そこに何かしら“オレのエッセンス”を加えて、オンリーワンにしなければ、気が済まない。そこは今でも変わらないと思います。
——ということは、Sansanでのご自身のポジションは、自ら要求して手に入れて来られたのですか?
松尾さん
いやいや、それはまったくないです。Sansanに入ってから自分で「このポジションをやりたいです」と言ったことは一度もありません。最初、営業で入って、その後「インサイドセールスの立ち上げをやってみるか?」と言われて、「はい、喜んで!」と。
それを1年やって、次は「Webマーケティングの責任者をやらないか?」と言われて、「はい、喜んで!」と…。Webマーケティングなんて、まったく門外漢だったんですけど。それから今度は「『Sansan Innovation Project』の責任者をやらないか?」と言われて、また「はい、喜んで!」と。
唯一、自分からお願いしたのは、「『Sansan Innovation Project』をもう一度やらせてください」ということですね。一回担当して、おしまいにするつもりだったのですが、その後よくよく考えて、もう一度やらせてほしいと、初めてお願いしました。
——その理由は?
松尾さん
2018年に開催した「Sansan Innovation Project 働き方2020」のときは、前任者のやり方を模倣することが多かったのが悔しかったんです。僕なりの何かをやらなきゃと、もがいてはいたのですが。結果はついてきたものの、「ちゃんと事業に利益をもたらすイベントにしたい」という点において、自分では満足ができなかったんです。
——これまでは、成果が出てから異動されてきたのですか?
松尾さん
僕がやってきたのは、幸いにも正解がない部分が多かったので、一定の成果を出しやすかったということはあると思います。それ自体、ほめ言葉ではないと思って受け止めているのですが、社内で先輩や上司から「110%の男」と言われるくらい、目標をちょっと上回るくらいの成果を出すのは、すごく得意なんです。「150%とか200%の成果を出せ」と言われても難しいんですけど、「110%なら、まぁ…」っていう(笑)。「松尾にやらせておけば、なんとかなるだろう」という安心感を持ってもらえているのではないかと思いますね。自分で言うの、すごく恥ずかしいんですが(笑)。
——壁にぶつかって動けなくなることはないのですか?
松尾さん
ないと思いますね。あったのかもしれませんが、それを壁とは思っていない。後から振り返って、「ここをこう改善したほうがいいな」ということはあっても、やっている最中に「クーッ!」となって立ち止まることは、あんまりないんです。…鈍感なだけなのかな?
——では最後に、Bigbeat LIVEの来場者に向けたメッセージをお願いします。
松尾さん
今回、いろいろな方が登壇されますよね。界隈では有名な方もいらっしゃるので、感銘を受けることもあるかと思うのですが、それをそのまま真似しないでほしいなと思います。だって、植山さんをそのまま真似したら、“変なおじさん”になっちゃうじゃないですか(笑)。あれは植山さんだから“すごいおじさん”になっているのであって。
あくまでもベンチマーク。そこから自分なりに落とし込んで、行動することが大切ですよね。だから最初から「すごい!」と思って聞かないでほしい。フラットに聞いて、「それ、おかしくない?」と思う自分の素直な感情を大切にして、“自分らしさを見つけよう”と意識しながら、話を聞いてもらえるといいのではないでしょうか。
——当日を楽しみにしています。ありがとうございました。
[撮影]篠部雅貴
[執筆]野本纏花