マーケティング 2019.07.05 コミュニティマーケティングの始め方|freee 田中圭氏
freee 株式会社 Community Team Community Marketing Manager 田中 圭さん
〈Bigbeat LIVE 登壇者インタビュー⑦〉
“スモールビジネスを、世界の主役に。”のミッションのもと、アイデアやパッションやスキルがあればだれでも、ビジネスを強くスマートに育てられるプラットフォームを提供している freee 株式会社。
昨今、同社ではスモールビジネスのオーナーを支える、会計士や税理士のコミュニティづくりに注力していると言います。まさにそのコミュニティづくりに奮闘しておられるfreee 株式会社 (以下、freee) Community Team Community Marketing Manager の田中 圭さんに、なぜマーケティングにコミュニティが必要なのか、どのようにコミュニティをつくっていったのか、お話を伺いました。
(聞き手:ビッグビート マーケティングチーム ディレクター 野北瑞貴)
医療法人から IT ベンチャーへ
—まずは freee でマーケティングに携わるようになるまでの、田中さんの経歴について教えてください。
田中さん
新卒で人材会社に入り、営業を担当していました。その後、医療法人に転職し、部署は広報だったのですが、役割としてはイベントの立ち上げメンバーです。地域の方たちを対象としたイベントの企画・運営を担当していました。
今思えば、その頃からマーケティングの仕事に携わっていたのですが、当時はマーケティングという言葉は、まったく意識していませんでしたね。それからメディアリレーションなど、いわゆる広報の仕事にも携わった後、freee のマーケティングチームに転職しました。
—マーケティングという言葉を意識していなかったのに、マーケティングチームに入ろうと決められたのは、なぜですか?
田中さん
ちょうど freee がオフラインのイベントに注力したいフェーズで、共催セミナーやブース出展などを始めていたんです。私はオフラインイベントの企画・運営をずっとやっていて、しかもそれが平日は毎日、1 日に 3 回、医療講座を実施するというものだったので、freee から「その経験を生かせるのではないか」とスカウトメールをもらったのがきっかけでした。
—転職の決め手は、なんでしょうか?
田中さん
その医療法人は、どちらかというと保守的でアナログな面が強かったのですが、“もっとテクノロジーを使った仕事をしたい”という思いがありました。freee から声をかけてもらったときは、大きな仕事をやり遂げて、転職を意識していたタイミングだったこともあり、これはチャンスだと思い、転職を決めました。
—同じイベントの企画・運営の仕事とはいえ、伝統的な業界からスタートアップに転職されて、カルチャーギャップはありませんでしたか?
田中さん
めちゃくちゃありましたね。「IT ベンチャーって、こんなに横文字が多いのか!」というのが率直な感想でした(笑)。あまりにも横文字ばかりだったので、最初は「僕を馴染ませるために、ふざけているのか?」と思ったほどです。いきなり外国で生活し始めたような感覚で...、ミーティングで何を話しているのか全然わからない。周りが見えるようになるまでの最初の3〜4ヶ月間は、今、思い出しても相当厳しかったです。
なぜ freee はコミュニティマーケティングを始めたのか
—田中さんが所属されているパートナー事業部とは、どんな部署ですか?
田中さん
会計事務所や税理士事務所のような、スモールビジネスの経営者の方のパートナーさんに対して、"マジ価値"(※)を届けるための部署です。
(※)freee の価値基準のひとつで、「本質的(マジ)に価値のあること」という意味
—クラウド会計ソフト「freee」はスモールビジネスの経営者が利用するものですよね?どうしてその先にいる会計士や税理士といった方々のコミュニティをつくることになったのですか?
田中さん
スモールビジネスの経営者の方々にヒアリングしていると、「アドバイザーとして、会計のプロフェッショナルの支援はとても重要だ」というお話が多くあり、エンドユーザーの皆さまに我々の"マジ価値"をさらに届けるには、パートナーさんにも我々の想いやプロダクトを届けることが大切ではないかと考えたからです。
—スモールビジネスの経営者が利用する「freee」と、会計士や税理士の方が利用する「freee」は同じプロダクトですか?
田中さん
いえ、プランもサービスも異なります。
もともとスモールビジネスの経営者の方に利用していただくものからスタートしていますので、会計士や税理士の方が使いやすい仕様に変更する過程では、社内でかなりの苦労があったようです。また、今ではfreee認定アドバイザーとして5,800事務所にまで至りましたが、販売当初はなかなか浸透せず、厳しい時代があったと聞いています。
—そこでコミュニティを始めることにされたのですか?
田中さん
はい。一部の地域では会計士や税理士のコミュニティがすでにあり、横のつながりが強いため「うちの地域はこれを使っているから、よそのは使わない」という文化が根強くあったようです。そこで「freee」を浸透させるためには、「freee」を使っていただいている会計士・税理士さんから、「実際に使ってみたら、こうだったよ」と紹介していただくのが良いのではないかと、当時の営業が仮説を立てたんです。
まず、「freee」をご利用いただいている会計士・税理士さんと交流会を開き、コミュニティの基盤をつくることからスタートしました。さらに導入事例インタビューにご協力いただき、それを freee のサイト上で紹介していきました。
その結果、会計士さんや税理士さんの間で、徐々にクチコミで「freee」が浸透していったんです。そんな経緯があったので、"マジ価値"を届けられるのであれば、会社としてもコミュニティに対して本格的に投資をして、全国に広げていこうという判断に至りました。
自走型コミュニティを立ち上げる秘訣とは?
—営業の方はお客さまと接点を持ちやすいように思いますが、マーケターとしてお客さまのところへ飛び込むのは、ハードルがありませんでしたか?
田中さん
コミュニティを全国展開するにあたり、先ほど話した営業担当者がマーケティングに異動し、今は私との 2 名体制になっています。しかし、彼女は営業経験者で、ある程度のリレーションを持っているとはいえ、特定の地域を担当していたため、他の地域のことは知りません。
そこで、すでにお客さまとリレーションのある他の地域の営業や、カスタマーサクセスの担当者とコミュニケーションを取りながら、「この地域でコミュニティをつくりたいんだけど...」と相談するところから始めていきました。
—新しい地域を開拓するときは、営業の方と一緒に行かれるのですか? コミュニティを新規で立ち上げる際の流れを教えてください。
田中さん
最初はコミュニティチームの2名で一緒に行きましたが、今では直接 1 人で行きます。
ユーザー主導で自走してもらえるコミュニティをコンセプトとしていて、その地域のリーダーになってもらえる人を探しに行くところから始めるんですね。“一緒に企画から運営まで、我々と同じ熱量で行動していただける方”をリーダーの定義としていますので、各地域でリーダーを 3 名ずつ探して、初回のmeetup を開催する流れになっています。
—リーダー候補を選定する際には、何か定量的な基準は設けていますか?
田中さん
はい。freeeの導入数等によってランク付けされる”アドバイザーランク”という制度がありますが、必ずしもランクの高い方がリーダーに向いているかというと、一概にそうとは言い切れません。「熱量とホスピタリティのある方」という意味では、人柄の部分も大きいですね。あとは純粋に、「freee のミッションや、これからやっていこうとしている世界観に、共感いただけるかどうか」も重要です。
このあたりの情報は、普段お客さまと接している営業やカスタマーサクセスの担当からもらいます。そして自走するコミュニティづくりにあたっては、その方ご自身の「キャラクターが尖りすぎていない」というのも大切なポイントです。リーダーのキャラクターが濃すぎると、freee のコミュニティではなくなってしまう危険があるからです。
—社内の営業やカスタマーサクセスの方々は、最初からコミュニティづくりに協力的でしたか?
田中さん
いえ、人によっては結構冷たかったです(笑)。
私も転職したばかりだったので、「私、田中って言うんですけど...」というところから始めて、「今度うちの部署でコミュニティっていうのをやることになって...」と続けていくので、リーダー候補の方を紹介してもらうまでの前段階があまりにも長くて...。
それでも、紹介してもらった方に実際に会ったら、「先日ご紹介いただいた方にお会いしたら、こうでした」と必ずフィードバックをしたり、社内の情報共有ツールで進捗報告をこまめにしたり...といった地道な活動を続けていましたね。
「freee"マジカチ"meetup!」というコミュニティのイベントで形になってからは、目に見えてわかるアウトプットが徐々に増えてきたので、今では「こんな良い人いるよ」と言ってもらえたり、他のチームの人からも「"マジカチ"にみんなを呼ぼう!」という声が上がったりするようになりました。
—freee さんでは、コミュニティの成功をどのように定義されていますか?
田中さん
定性的な定義でいうと、「会計業界を強く・かっこよくするムーブメントを起こす」ということです。一方、定量的な定義でいうと、一旦のゴールとしては4年間で「freee"マジカチ"meetup!」に 1,400 名の方に参加していただくことです。
なぜ 1,400 名かというと、我々がコミュニティを始めるにあたって、年齢層や地域、会計士か税理士かなど、コミュニティに参加していただきたい方を算出したら、全国で 約7,000 名でした。そのうちの 20%、要は 1,400 名にリーダーと同じぐらいの熱量でご参加いただけたら、会計業界を強くするムーブメントを作れるのではないか、と考えて弾き出した数字です。今は 200 名くらいなので、まだまだこれからですね。
—これからどのように伸ばしていこうとお考えですか?
田中さん
この 10 ヶ月で、東京・大阪・福岡・名古屋・北海道の 5 地域でコミュニティが立ち上がり、7 月には全国版の「freee"マジカチ"meetup!」として 100 人規模のイベントである、「MAJIKACHI JAPAN TOUR 2019 TOKYO」の開催が決まっています。やりたいこともやれることも、まだまだたくさんあるので、もっと多くの方にご参加いただけるよう、新しい企画にもどんどんチャレンジしていきたいですね。
さらにその先には、会計士や税理士といった士業の方だけでなく、スモールビジネスの経営者の方に対象を広げたコミュニティづくりにもチャレンジしたいと思っています。それが全社を挙げて"マジ価値"を届けるための、大きなセントラルコミュニティになればいいなと考えています。
—最後に、今年の「Bigbeat LIVE」に参加される皆さまにメッセージをお願いします。
田中さん
「どうやって社内を巻き込んでいったのか?」「自走型コミュニティのリーダーになっていただく方を巻き込むには、どうすればいいのか?」といった疑問に対し、私の経験をもとにお話しができればと思っています。
—当日も楽しみにしています。ありがとうございました。
[撮影]野村昌弘
[執筆]野本纏花