マーケティング 2019.04.12 マーケターに必要な視点を鍛える「マーケティングトレース」とは|黒澤友貴氏(前編)

ビッグビート野北とブランディングテクノロジーの黒澤さん2ショットです 

「マーケティングトレース」という言葉をご存知でしょうか。

マーケターなら必ず聞いたことのある4Pや4Cなどのフレームワークで企業のマーケティング戦略を分析し、自分をその企業のマーケターと仮定して施策を考えるというものです。

参考サイト:マーケティング思考力を鍛えるトレーニングとは 

トレース例:串カツ田中の#マーケティングトレース 成長の秘訣は果たして禁煙化なのか?

今回の対談相手は、マーケターの筋トレコミュニティ「マーケティングトレース」を運営されている黒澤友貴さん。
弊社・ビッグビートでマーケティング部を立ち上げ、自社とクライアント双方のマーケティングを行っている野北との対談です。なぜ黒澤さんはマーケティングトレースを始めたのでしょうか。そこには、マーケターなら誰もが経験するような理想と現実とのギャップがありました。
 
 

自身のジレンマから生まれた「マーケティングトレース」 

野北
まずは、黒澤さんがマーケティングトレースのコミュニティを運営するに至った経緯を教えていただけますか?


黒澤 友貴さん Twitter:@KurosawaTomoki / note:黒澤 友貴
 
黒澤
僕はデジタルマーケティングの業界に8年近く関わってきています。
今は現場からは離れて経営戦略を考える仕事をしていますが、5年近くは第一線でコンサルティングの仕事をしてきました。関わってきた領域としては、SEMやアクセス解析が中心となります。仕事をする中で、「マーケティング」と言いながら、どうしても広告パフォーマンスやコンバージョンの最大化、チャネルの最適化といったミクロな視点にとらわれがちであることに課題を感じていました。

「本当はもっとダイナミックに市場を動かすことが、マーケターの役割なのではないか」と常に感じていたんです。

そこで自分自身のトレーニングのために始めたのが、さまざまな企業を個人的に分析して戦略思考を鍛える、という「マーケティングトレース」でした。テレビ東京の「カンブリア宮殿」や『週刊東洋経済』『週刊ダイヤモンド』などで特集される成功企業のマーケティング戦略を、独自に抽出して言語化する、というトレーニングです。

これをSNSで発信したところ、同じような課題を抱えたり行き詰まったりしている仲間が多くいることがわかり、コミュニティ化を考えるようになりました。仲間がいれば学習も継続するし、みんなで頑張り合えますから。そうすることで、ミクロな視点に陥りがちなマーケティングの仕事を変えていけるのではないかと考えたのが発端です。
 
野北
自身のトレーニング目的で、同様な考えの人たちが集まってコミュニティ化されたんですね。
でも実際の仕事の中でマーケティングの提案をしていると、クライアントからは「チャネル最適化」を中心とした依頼が多くないですか?そういう時は、何かチャレンジされたりしましたか?
 
黒澤
たくさんチャレンジはしてきましたね。
デジタル時代に突入して、それによってビジネスモデルがどう変わっていくのか、という「ビジネスモデル視点」でクライアントと常に話すようにしていました。
その結果、施策としてはミクロな手法を取ることはもちろんありますが、あくまでビジネスモデル視点が大前提だということを伝え続けていました。
「何のためのマーケティングなのか」「そもそもマーケティングとは何なのか」という議論を尽くして、共通言語をしっかり作っていくことに注力していましたね。

 

組織を動かすのに、コミュニケーションを取るべき相手とは 


野北
「マーケティングとは」みたいな話をすると、各社によって認識が様々で、クライアント側の求めているものではないケースも多くあると思います。
まして、目に見える形のサービスでもないわけですし。そのあたり、クライアントからのご理解は得られていたのですか? 

黒澤
理解していただくのは簡単ではなかったですね。
ところが、価値が絶対にあると信じておこなった戦略提案について、あるクライアントから評価をいただける機会がありました。
 
野北
その価値にきちんと気づいてくださった方がいらっしゃったと。
そのご担当者は、会社内でどういう立場の方だったんですか。
 
黒澤
会社全体のマーケティングを統括する立場の方でしたね。成果を出すマーケティングを実行するためには、マーケティング組織のトップに誰が立つかが重要なポイントだと考えさせられました。
 
 
野北が黒澤さんに質問する写真

野北
今までお付き合いさせていただいた日本企業内のマーケティングの方を見ると、役割分担が多いケースをよく目にします。例えば、イベント担当やSEO担当などですね。
役割分担を厳密に定義した結果、そもそも、「それってなんでやるんでしたっけ?なんでそのKPIが必要なんでしたっけ?」となり、事業の根幹と結びついていないケースがあります。おそらく役割を全うすることに注力しているのだと思うのですが、マーケターとして本来必要な長期的で広い視野を持ちづらい環境になっていますよね。「僕の仕事はSEOなので、検索順位を上げるにはどうすればよいかを考えます」と、目先の課題ばかりを追うことになりがちなのではと思います。

マーケティングトレースのコミュニティに集まってこられる方も、細分化された役割を持っている方が多いのでしょうか?
 
黒澤
比率でいうと多いですね。向上心のある人が多いので、そのことに対して「あれ?俺、マーケティングの仕事してるはずだよな?」と疑問を感じてもいるんですが、どうすればいいかわからず悩んでいるという感じです。
 
野北
「本当はマーケターとして全体を見ながら、経営に関わるような提案をしたい」と思いながらも、うまくその役割に到達できていないという感じなんでしょうか。
 
黒澤
「マーケティングって組織を動かすことだよ、経営そのものだよ」ということは心得ていて憧れももっているけれど、今やっている仕事とのギャップがあまりにも大きい、というのが現状なんだと思います。「いきなり経営そのものって言われても…」というところもあるでしょうし、どうすればいいかわからないという人が集まっているんじゃないでしょうか。
 
野北
マーケティングトレースを行ったことでこんなふうに変わった、という嬉しい声が上がってくることはありますか?
 
黒澤
ありますね。最近嬉しかったのは、とある企業でカスタマーサクセスの仕事をしていた方の話。
その方は、仕事に対してやりがいを感じていて、LTVを上げるという目標も理解しているものの、その前提となる戦略までは踏み込みきれていなかったんようです。
それが、自分が属する会社も含めていろんな企業のマーケティングトレースをやってみて、「カスタマーサクセスという部署は会社においてどういう位置づけで、その中でLTVに与える要素は何なのか」ということを考えられるようになったんです。今までなら「顧客満足度アップのためにイベントをやってみよう」といったわかりやすい戦略に走っていたところが、もっと物事を広く見られるようになって、取り組む仕事の領域が広くなったとお伝えいただきました。
これは理想の変化だなぁと思いましたね!
 
 

マーケティングはマーケターのみのものならず

 
野北
カスタマーサクセスも最近非常に耳にしますね。直訳すると、顧客の成功という意味になりますが、KPIはチャーンをなくすことやLTVというのは伺ったりします。
しかし、その前に、「顧客は誰で、その方がどうなったら成功か?」というところをキチンと見極めないと結局、顧客をマスと捉えて、コミュニケーションしてしまう。その結果、施策はやっているけどあまり効果ないなぁ~ということが起こったりすると思うんです。
ここにも、本来はマーケティングへの意識が重要。「マーケティングはマーケティング部が行うもの」ではなく、職種に限らず従業員全員が持たなければならない意識ですよね。
 
黒澤
そうですね。マーケティングトレースも職種越境を推奨していて、実はデザイナーやライターにも仕掛けているんです。
一度やったのは、デザイナーとマーケターのペアワーク。ある企業に対してペアで1時間マーケティングトレースを行い、デザイナーはその戦略仮説に対してデザインという武器でどう落とすのか考える、という一歩踏み込んだものだったんですが、すごく評判がよかったですね。

実際のマーケティングトレースの様子
マーケティングトレースの様子
 
野北
デザイナーにもマーケティング思考を身につけてもらうという取り組みですね。
 
黒澤
マーケティング思考は、マーケターだけが磨くというのではなく、仕事で関わる周辺の人たちも身につけることで、共通言語が作れるようになると思うんです。それが「組織全体をマーケティングの力で動かす」というところに繋がるのではないだろうか、と可能性を感じました。
 
野北
その可能性、かなりあると思います。
マーケターの悩みの一つに、「市場や顧客に対して伝えたいものがあるのに、自分が思い描いているものが思うようにデザインできていない」というモヤモヤがあると思います。
そこを解消するためにデザイナーと何度も何度もやり取りをする。これはかなりコミュニケーションロスがありますよね。しかし共通言語を作ることができれば、マーケターの思いは伝わりやすくなり、デザイナーも理解しやすくなる…ひいてはそこでの生産性がすごく上がりますよね。
さらに顧客に対して伝えたいこともより的確に伝達され、顧客のマインドにも残りやすくなってきます。

今のお話を伺っていて、そういういい循環を生むための第一歩だなと感じました。
 
黒澤
デザイナーはユーザー体験や対顧客といった部分に寄り添うことができ、マーケターは市場やビジネスを大きくスケールすることができる。そういう可能性を作ることが大事で、うまく組み合わさるとよりいいビジネスにつながるのではと思います。共通言語をうまく作ることは大きなカギですね。
 
野北
マーケターとデザイナーだけでなく、マーケターと製品開発担当、マーケターと営業でも同様に考えられますよね。
共通言語がうまく作れておらず、営業とマーケティング部との壁があったりするのを耳にしますが、職種間の壁にもマーケティングトレースは効くんでしょうか?
 
黒澤
プラスの効果はあるのではないかと思っています。マーケティングトレース自体は思考を鍛えるトレーニングですが、「何のためにこの市場にアプローチしてるんだっけ?」というように、根本を考えるきっかけにもなるものだと思うんです。
そういう意味でも、今後は「組織」単位で推奨していきたいと思っています。

例えば、とある企業で各部署から一人ずつ集めてマーケティングトレースをやり、実際に何が理解できたのか、課題は何で、市場はどこへいくのか、といった意見を共有しあうというようなものを。
これをやることで組織の共通言語が作れたり、自分たちがどこへ向かうべきで、そのための各部署の存在意義が何なのかを確認できたり、ということにつながると思っています。
    

企業の目指す姿を視野に入れた「経営目線」がマーケティングのカギ

 
野北
会社がなぜ存在しているのか、という存在意義って重要ですよね。企業が存在しているということは、何かしらの社会貢献をしているということ。売上至上ではなく、あくまで存在意義を磨き上げてファンを集めることで、拡大させていくという流れは大事です。
 
黒澤
そうですね。マーケティングトレース自体にも一応、型があるんです。

いきなりマーケティングの部分から入ってしまうと、「コレで売り上げが上がっているんだな」とか「このプロモーションが当たったんだな」という短絡的な思考に陥りがち。そうではなくクライアントが抱えている課題や、何に対してお金を払ってもらえて社会構造はどうなっているのか、というところとチャネルを接続できれば、より深い考え方ができると思います。
ですから企業の目指す姿や提供している価値について言語化し、そのうえでマーケティングの構造を理解していく、という意図を持って型を作っています。
 
野北
日本企業ではマーケティング部という部署もまだまだ設置率が低く、人材もいない。だからこそ、外に情報を求めているマーケターの方は多いと思うんです。

私の周りを見ていてもマーケティング関連のコミュニティイベントは増えていて、いろんなことを吸収できるという点でいいと思いますが、一方で、各社内でのマーケティングの価値はどれくらい上がってきているのだろう?と思う部分もあります。

マーケティング思考の強いスタートアップがある反面、技術のみ・営業のみでやってきた古くからある日本企業にはまだマーケティングが浸透していない気もするんですが、黒澤さんの実感値としてはいかがですか?





黒澤
スタートアップの企業にマーケティングが根付きやすいのは、グロースを前提とした事業計画を策定するにあたり、マーケティングと向き合わなければ、どうしても達成できないというところがあるから。マーケティングが必須なのです。

逆にマーケティングがどうしても機能しない組織は、事業の成長に対する意識を持ちきれていないのではないでしょうか。ビジョンが明確になっていない、何のためにその事業をしているのかが見えていないという状態だと思います。
 
野北
日本の昔の商売というのは、町の電気屋さんのように「この人に買ってほしい」という、顧客に合わせて物を買い付けて売るスタイル。顧客の顔も見えているし、どういったものが欲しいのかも理解している、いつ購入したからいつ頃辺りには修理が必要になるなどの想定もできている、つまりシンプルに誰にどういうものを提供する、ということを実践して生きていたのだと思います。

しかしながら、大量生産が主となっている今では物が溢れかえってきており、技術力の面でも大きな差が出てこなくなってきている。さらにこれから日本の人口は間違いなく減っていくし、才能ある人材の国外流出が増えている印象です。この時代をどう生き残るのか?と思うにつけ、昨今増えているイノベーションをするにしても、大前提としてマーケティングがなければ不可能だと思います。

かつての日本の商売の部分は、取り戻したい力だなぁと個人的に思いますね。
 
黒澤
確かにそうですよね。新規顧客を開拓するより、目の前の人にどう価値を届けるのか。
もしかしたら日本企業がもともとは得意としていたことかもしれません。この、日本企業がもっている強みを生かしたマーケティングのあり方は探っていけると良いなと考えています。
 
野北
ありがちな「経営者の頭の中にある概念が、下へいけばいくほど伝わっていない」という状況もあるかもしれませんね。そのギャップをどう埋めるのか?と考えると、マーケターが担う役割は大きいと思います。

僕は、マーケター 一人ひとりが役割に関わらず、「これをやったら数年後どうなっているのか」ということを見据えられる経営視点がギャップを埋めるカギだと思っていて、その力をつけるためのマーケティングトレースは、もっともっと普及すべきだと思っています。
 
黒澤
ありがとうございます!
 
 
――時間軸と目標軸の話や、マーケティングトレースに関してさらに突っ込んだ話など、対談はまだまだこの後白熱。残りは次回です。お楽しみに!
 
 


今回対談いただいた、 黒澤 友貴さんをお招きし、
「マーケティングトレース」をテーマにしたワークショップを生おきゃくで開催!

市場の論理から逆算して企画・発想できる力を身に付けたい方はぜひご参加ください!
 


 

 『生・おきゃく』Vol.8
〈マーケティングトレース〉4/23(火)&5/8(水)2日間 開催!



様々なジャンルのトップランナーを招聘し、対談、セミナー、鼎談などを実施している、マーケターのためのオフラインイベント「生・おきゃく」。
今回は、マーケターの筋トレコミュニティ マーケティングトレースから黒澤 友貴さんをお招きし、4/23(火)と5/8(水)の2日間に分けてマーケティングトレースを実際に行ってみたいと思います。詳細やお申込みは以下のURLから!

 【概要】
1日目:2019年4月23日(火) 19:00~21:00(受付18:30~)
2日目:2019年5月8日(水) 19:00~21:30(受付18:30~)
(※本イベントは1日目、2日目の両日の参加が必要になります)

場所:ビッグビート プレイスタジオ(千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニガーデンコート22F)
費用:2000円(2日間含めての料金)
定員:10名 (※先着順)
主催:株式会社ビッグビート

≫≫イベント詳細・お申込みはこちら:
生おきゃく vol.08 イベレジ申し込みサイト ※本イベントは終了いたしました

≫≫マーケティングトレースの様子:
第四回 #マーケティングトレース ミートアップ開催レポート
 
 
 
【NEWS】ビッグビートから新刊が出ました♪
最前線で走り続けるトップマーケター12名を招聘して行われた、ビッグビート主催のカンファレンスイベント「Bigbeat LIVE」(2018年開催)。そこで語られた、トップマーケターたちによる「現在進行形の挑戦」をテーマにした全講演を一冊に凝縮!マーケター必読書です!
『Bigbeat LIVE BOOTLEG 2』濱口豊【著】
Amazonにて発売中!

≫≫ご購入はこちらから
Recommend
Ranking
  1. ハマロから新社会人のみなさんへ
  2. ”君は、どうしたい?” ~その身で語る2年目コンビの奮闘~
  3. 新卒採用、はじめました ~2025 spring~
  4. 「110%の男」が語る、オレ流仕事術|Sansan 松尾佳亮氏
  5. 2050年の仲間たちへービッグビート29歳、『はじまりの日』にルンさんと
Mail magazine