マーケティング 2019.03.19 変化の時代、「選ばれる」企業になるために必要なこと|イマジナ 関野吉記氏(後編)
前編では、株式会社イマジナ 代表取締役社長 関野吉記氏と、ビッグビート 代表取締役 濱口豊がブランディングの重要性と共に、多くの企業がなかなかブランディングできていない現状について語り合いました。
将来、AIやロボットがビジネス分野に適応されるようになると、人間の業務活動が生み出す「価値」が問われる時代が到来します。そんな未来のビジネス環境の変化に向け、これからブランディングやマーケティングで何をすべきかを考えました。(取材・執筆 岩﨑史絵)
働き方改革には、企業理念や価値を社内で共有するインナーブランディングが必要
濱口:ある僧侶の方から聞いたのですが、お経の「経」はインドの言葉で「縦の線」を表すそうです。
では横軸は何かといえば、それは「時間」。つまり人の一生において、時間が流れていくなか、よりどころとなる縦のラインが「経」だ、と。
経という字は、経営の「経」にも通じます。その経とは、企業が目指す理想や理念だと思うんです。その経を社内外に伝え、共有・共感してもらうことが、ブランディング、マーケティングの目指すべきことかな、と。共有・共感を目指すということは、ブランディングもマーケティングも同時にやらないといけないんですよね。
関野:おっしゃる通りだと思います。深く同意します。
濱口:経営って、経を営むことですよね。日本企業の多くは、経の部分で「これをしないといけない、あれをやってはダメだ」と、一種の美意識とも言える企業文化を押し付けてきたところがありましたが、これからの経営は、もう1つ「従業員が会社で働き、キャリアを積む期間」という横の時間軸を考え、この縦(理想や理念)と横(時間=毎日の営み)をうまく織り合わせて紡いでいくことが必要だと思っています。
どういうことかといえば、社員が仲間として働くなかで、縦のラインを共有していること。そこで、我々もインナーブランディングを始めたんですよ。
関野:どんなブランディングですか。
濱口:前回の話とも関係しますが、働き方改革の一種かな。早くいえば、「ワークライフバランスを取らない」ことなんです。
関野:ワークライフバランスを取らない?
濱口:本当に伝えることが難しいのですが(笑)
ワークライフバランスというと、バランスを取ったり、どちらかに重きを置いたりするじゃないですか。そうではなくて、会社で得たキャリアでプライベートや未来を充実させ、プライベートで得た経験を会社で生かすといったように、個人の未来と仕事の未来が縦糸と横糸になって、うまくタペストリーになるような、そういう経営をしたいんです。それが私の目下の経営課題ですね。 社員にきちんと伝わっているかどうか、若干不安もあります(笑)。
関野:なるほど。
でも、前回から話に出ている働き方改革って、そういうことだと思うんですよ。
既に海外ではワークとライフを統合(インテグレーション)した「ワークライフインテグレーション」という概念が広がっています。ワークとプライベートを別々のものと切り離すのではなくライフという一つの視点で捉えることで、プライベートを充実させてアイディアを蓄え、会社で成果を出していく。そこでどういう価値を出せるのかは、人間しかできませんからね。
ビジネス構造の変化は今後も激化、これまでと同じ価値提案では淘汰される
濱口:前回、ものづくりの重要工程を機械でオペレーション化するという話がありましたが、これからAIやロボットが進化していくと、広告代理業のような中間事業はだんだん仕事がなくなっていくのではないかと思うんです。 右のものを左に動かしてマージンを取るのではなく、「この会社の良さを伝えるメッセージをどう作るか」という上流部分にコミットすることが、これまで以上に求められるようになるでしょう。あ、ひょっとしたらセミナーの椅子並べとか、そういう末端の仕事も残るかも。上と下だけで、中間部分はAIやロボットになってしまう(笑)。
関野:それも働き方改革ですよね。
労働時間が短くなれば、いままで長時間働いていたのと同じパフォーマンスを短時間で求められるのだから、実は働く側にとってあまりいい話でもないんですよね。下手をすれば、24時間365日文句も言わずに働いてくれる機械がライバルになるわけですから。
こんな形で、これから産業構造自体がどんどん変化すると思うんです。
実際、自動車も保有するものからシェアの時代になっていますし、情報産業や出版もどんどん変化しています。あのトヨタでさえ、その変化に対応する新しい事業を始め、そこでどのような価値を提供するのかをきちんと市場に説明しています。残念ながら、この変化に気付かず、準備ができていない企業の方もいます。
少し話は飛びますが、海外の展示会に行くと、素晴らしい機能の工作機械を展示している日本メーカーがいるんですよ。その分、価格も高い。一方で、中国や韓国のメーカーは、機能的には日本の製品に劣りますが、海外の一流デザイナーに発注して見栄え良いものに仕上げ、しかも低価格という製品を展示しているわけです。その時、日本のメーカーがきちんと値段の違いを価値として説明できず、ただ機能紹介に終始しているというケースがあるんですよ。
これから先、きちんと自分の頭で考え、クリエイティブ性を発揮できる人材が必要になるでしょうね。ただ、いまの教育がそういう方面の力を伸ばしていないのが問題ですけど……。
濱口:産業構造といえば、IT企業もビジネスモデルが大きく変化しています。
昔は数億円のシステムを売って、5年間保守契約をすれば、少なくとも5年先までは大丈夫というビジネスでした。
しかしいまは、月額制のサブスクリプションサービスが増え、以前のようなビジネスは成り立たなくなってきたのです。
コールセンターやメールの対応が遅れただけで、すぐに解約されてしまいます。 そうなると、解約されないための価値づくりが必要になります。 社内教育はもちろんのこと、その価値をどう伝えていくかというブランディング的な発想からマーケティング施策を考えなくてはなりません。これが昨今のマーケターの課題です。
関野:どのように顧客をつかまえるのかを考え、ブランディングやマーケティングを組み立てていくのか、それが今後はますます問われる時代になるでしょうね。
ブランディングやマーケティングに熱心に取り組んでいる企業を讃える社会を作りたい
濱口:これから先、関野さんが目指していること、目標についても教えていただけますか。関野:目指しているのはマーケティングです(笑)。
というより、たとえばブランド調査のように、実際にマーケティングに近い相談も増えているんです。 そういう調査やパネルはすでにありますが、実は既存のものはほとんど大手調査会社や広告代理店が抱えていて、生の情報を調査することは非常に難しいんですよ。 だから、そういう情報や調査パネルを独自に構築し、信頼できるマーケティング企業と何社かで共有し、ブランディングやマーケティング戦略に生かしていくことができるといいなと考えているんです。ぜひビッグビートさんにも協力していただきたいです。
濱口:ぜひ。
関野:あとは、ブランディングやマーケティングに熱心に取り組んでいる会社をさまざまな視点で評価し、表彰するような取り組みもしていきたいですね。
こういう取り組みは大手の方がリソースが豊富なので、何かと大手が注目されますが、スタートアップや中小企業でも頑張っている企業はたくさんあります。だから大手と同じベクトルで評価するのではなく、新たな指標を設け、その結果を一般の方も見学に来られるようになれば面白いことができそうです。 これもビッグビートさんと協力できたらいいですね。
濱口:そうですね。3月25日開催の「生・おきゃく」でその辺りの話をできれば幸いです。
今日はありがとうございました。
今回対談いただいた、株式会社イマジナ 代表取締役社長 関野吉記氏をお招きし、
〈ブランディング×マーケティング〉をテーマにしたコミュニティイベントを開催します。
ブランディングの理解とヒントをつかむ貴重な機会。ぜひご参加ください!
『生・おきゃく』Vol.7
〈ブランディング×マーケティング〉3/25(月)開催!
様々なジャンルのトップランナーを招聘し、対談、セミナー、鼎談などを実施している、
マーケターのためのオフラインイベント「生・おきゃく」。
今回は、株式会社イマジナ 代表取締役社長 関野吉記氏をお招きし、
マーケティングとブランディングの親和性など、事例を交えながらお話いただく予定です。
【概要】
日時:2019年3月25日(月) 19:00~22:00(受付18:30~/懇親会含む)
場所:ビッグビート プレイスタジオ
(千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニガーデンコート22F)
費用:2000円
定員:20名 ※先着順
主催:株式会社ビッグビート
≫≫イベント詳細・お申込みはこちら(本イベントは終了いたしました)
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