マーケティング 2018.11.21 徳本昌大×日比谷尚武×濱口豊 「広報・マーケに悩む企業、こうすれば生まれ変われる」



「自社のマーケティングを何とかしたい!」と考えているマーケターを招き、明日すぐできる変革のヒントを考えるビッグビートのミートアップ「生・おきゃく」。今回はビジネスプロデューサーの徳本 昌大さんにモデレータをお願いし、Sansan株式会社のコネクタであり、多方面で活躍する日比谷 尚武さんを招いて、ビッグビート代表 濱口 豊と共に「PR×マーケティング徹底討論!」を行いました。(取材・執筆 岩崎史絵)
 

広報・マーケティングはなぜ企業に必要なのか

企業には「営業」「経理」など、役割に応じてさまざまな事業部があります。ですが「マーケティング」「広報」は社内の数ある事業部のなかでも、外からではちょっとわかりにくい仕事かもしれません。

「営業なら、製品をお客様に売るという明確な目的があるけど、マーケティングは何をやっているのかわからない」
「そもそも、製品がすばらしければ自然とお客様はついてくる。マーケティングがわざわざ広告を作る必要はない」
「広報の仕事って、リリースを書いて、メディアの人と飲んだりしていればいいんでしょ」

……などなど、下手をすると「広報やマーケティングはいらない」との暴論まで聞こえてきそうです。

ビジネスプロデューサーとして複数企業の役員を務める徳本さんは、以前広告代理店に勤務するアドマンでした(その広告代理店に一年後輩として入社したのが濱口)。一方日比谷さんは、クラウド名刺管理ソリューションを提供するベンチャー企業 Sansanでマーケティング事業や広報部門を立ち上げた立役者。そしてお2人ともそのビジネス活動自体がメディアとなっており、マーケティング業界で知らない人はいない存在となっています。

そんなお2人は「広報もマーケティングも企業には絶対に必要」と口をそろえます。なぜなら、どんなにすばらしい製品を開発し、いい取り組みを推進している企業があっても、まわりがその企業の存在を知らなければ、結局は「ない」と同じことだからです。誰も知らなければ、企業が価値を生み出すことはできません。

 

広報とマーケティング、何が違うの?

では広報とマーケティングは、それぞれどのような役目があるのでしょう。このテーマについて、まずは日比谷さんの現在の役職である「コネクタ」のミッション・活動から深堀していきました。


ブロガー・ビジネスプロデューサー 徳本 昌大さん
複数の広告会社で、コミュニケーションデザインに従事後、企業支援のコンサルタントとして独立し現在はベンチャー企業の取締役や顧問として活躍中


徳本さん:
日比谷さんの役職である「コネクタ」とは、どういう業務なのでしょうか。

日比谷さん:
僕としては広報活動の一環と捉えてやっています。普段何をしているかと言うと、、簡単にいえば、社外のいろいろな方々と交流し、ひたすら名刺を集めています。そして、Sansanの社内で何か課題が生じた時、有用なアドバイスや知恵をいただけそうな方を社内担当者につなぐパイプ役になります。

パイプ役といっても、めったやたらに人をつなぐのではなく、あくまでも「Sansanの事業の先回りや種まき」に必要な人と出会い、紹介することをポリシーにしています。たとえば「来年、大きなマーケティングイベントをやりたいから、BtoBマーケティングのキーマンの人と交流しよう」「次期の海外進出に当たり、すでに海外進出しているベンチャー企業のトップにお会いしよう」など、そんな形でいろいろな方とお会いしています。


Sansan コネクタEightエヴァンジェリスト 日比谷 尚武さん
2009年からSansanに参画。マーケティング・広報機能の立ち上げに従事。現在はSansan コネクタ/名刺総研所長/Eightエヴァンジェリストとして活動中。
株式会社PRTable 社外取締役、公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会 広報委員、一般社団法人 at Will Work 理事も兼務


徳本さん:
経営層と今後の事業戦略を共有し、それに従って活動しているわけですね。

日比谷さん:
そうです。広報の方はご存じだと思いますが、パブリックリレーションズ、つまりPRとは、「一般社会とのリレーションズ」という意味なんです。企業にはお客様やパートナー、または広告代理店やメディアなど、いろいろなステークホルダーがいますよね。そのステークホルダーといい関係を築いていくことを「◯◯リレーションズ」というわけです。お客様といい関係を築くのであれば「カスタマーリレーションズ」ですね。

さて、一般社会にいるさまざまなステークホルダーといい関係を確実に作るには、やはり個人対個人の付き合いで語り合うことがベストです。でも世の中のステークホルダー全員とそんな付き合いはできないから、セミナーを開催したり、広告やパンフレットを配布したりします。そうしたなか、メディアを使って発信した方が、拡散力や周知などの面で費用対効果がいい場合もあるんですね。その手法としてメディアを使うのが「メディアリレーションズ」です。

なので広報も、メディアの人と飲んでいることだけが仕事ではありません。仕事の本質は「誰がターゲットかを見きわめて、いい関係を作る」ことです。僕の場合、メディアに協力をお願いすることもありますが、ある意味肉弾戦で1人ひとりコツコツと関係を築いていく、ということをやっているわけです。



徳本さん:
Sansanでは最初にマーケティング、次に広報を担当されたんですよね。

日比谷さん:
そうです。マーケティング部門を立ち上げ、2年ほど専属で担当していていましたが、その過程でIT系のメディアの取材を受けるようになったんです。何度か取材を受けるなかで気付いたのですが、記事が出るたびに問い合わせが増え、リードが取れるようになりました。

また営業活動においても、意思決定者の方が「Sansanってどこかで聞いたことあるぞ」という反応があれば、受注率が高くなることがわかりました。そこで商談を進めるために、戦略として「年に1〜2回でいいからマスメディアに事例記事を乗せてもらう」という広報活動を展開したんです。広報活動ではありますが、マーケティング的な目的もありました。

 

「マーケティング=販売支援」という定義は正しい?

なるほど、広報をしていくうちに、それが営業にも貢献するようになったわけですね。徳本さんはこれについて、「私も自分のブログで情報を発信していくうちに自分がメディアとなり、それが自分のマーケティングになった」と話しています。

そこで次に話題になったのは「マーケティングとは何か」というテーマです。これについて濱口は、「そもそも『マーケティングとは何か』を定義すること自体がおかしいという意見がある」と述べたうえで、最近気になったことを話しました。


右:ビッグビート代表取締役 濱口 豊

濱口:
先日、米アドビ システムズが、マーケティングオートメーションツールベンダの米マルケトを買収した時、日経新聞が「アドビが販売支援ソフト会社を買収」と報道したんですよ。それを読んで、「あ、日経新聞ではマーケティングを『販売支援』と定義しているんだな、と思いました。

すると、マーケティングファネルの中で「売れたら終わり」というのがマーケティングのミッションになりますよね。これについてはどう思いますか?

日比谷さん:
僕は、ゴールは必ずしもそこじゃないと思います。

よくあるカスタマージャーニーで、「潜在層がいて、認知して興味を持ってもらい、検討から購入に進んで、カスタマーサクセスを経てロイヤルカスタマーとなり、アップ/クロスセルにつなげる」というプロセスがありますよね。そのカスタマージャーニーを実現するには、会社のなかにそれぞれのステップを担当する機能があればいいわけで、その役割をどう分担させるかは企業ごとに異なります。

「営業」と呼ばれる人が全プロセスを担う場合もあれば、細分化して1つひとつに横文字の肩書きを付ける場合もあるし、マーケティングと呼ばれる部門がクロージングに至るまでの流れを担当し、最終的に営業がクローズする場合もあるでしょう。それは役割分担の問題ですから、担当する部門をどう呼ぶかというラベル付けは、はっきりいってしまうと最後でいいと思います。逆にラベル付けから入ってしまうから、「あなたは広報だからメディアと付き合いなさい」「マーケティングだから、認知を広める活動をして」となってしまう。それも、ちょっと違う気がしているんですよ。

徳本さん:
僕もカスタマージャーニーを描くことは大事だと思います。でも、これは個人の主観になりますが、日本企業の多くは新規獲得に目が向きがちな気がするんです。だから購入前のカスタマージャーニーは一所懸命描くけれど、購入後のジャーニーがないことがあるんですよね。

特にBtoBマーケティングでは、離脱率をいかに防ぐかが勝負だと思います。僕は離脱につながるような体験を「逆鱗体験」と呼び、逆に感動を与えるような体験を「琴線体験」と呼んでいるのですが、マーケティングとは逆鱗体験を減らし、琴線体験を増やすことが大切なんですよ。そうすると、お客さんが自社のファンになってくれるんですよね。

そしてそうした活動はすべてPRネタ、平たくいえば広報のネタになります。記者の方が「それ、面白いね」と興味を持ち、情報発信につながっていく。最近は、「マーケティングから広報へと流れる設計をしていくことが正解かな」と考えているんです。



 

広報・マーケティングを向上させるため、明日からできるチェンジマネジメント

感動する体験を提供し、お客さんに自社のファンになってもらう。そして、そのストーリーをもとに情報発信を行う——マーケティングと広報はこうした形で1つのプロセスを作っているといえそうです。

では、こうした成功体験を企業のなかで形成していくには何が必要なのでしょうか。徳本さんは、先ほど「新規顧客獲得だけに目が行って、既存顧客のフォローがない」という問題を指摘しました。日比谷さんは、「Sansanで事業を立ち上げたばかりのころ、やはり製品開発と営業活動を中心に活動し、1年後に解約が増えて初めてマーケティングの重要性に気付いた」とのエピソードを披露し、マーケティングの仕組みづくりを手がけた経験があります。「最近のスタートアップは、マーケティングの重要性をきちんと認識し、事業を開始する時からマーケティングの仕組みを構築しているところが多いです」(日比谷さん)

これに対し、濱口は「広告会社としてさまざまな企業の経営者とお話ししていますが、既存顧客を大事にして事業を営んでいるのに、なぜかマーケティングがうまくいっていない企業が多いですね。数代にわたる老舗企業のなかにも、そういう会社がたくさんあります」といいます。


濱口:
「マーケティングがうまくいっていないけど、しっかりお客さんに向き合っている」という企業であれば、やはりその事実を外部に伝えていくことが大切だ、と私は考えているんです。だから、そうした企業に対して広告会社が支援できることはたくさんあるはずなんですよね。

日比谷:
実は僕の同級生で、とあるメーカーの三代目経営者がいます。彼はMBAを取って、マーケティングやPRの重要性は理解しているんですけど、既存社員にその考えが浸透しきっていないんです。「今までどおりでいいでしょ」という気持ちと、「新しいことをやらないといけないけど、でもどうする?」の間で逡巡している状態です。

企業が企業として存続するには、企業そのものや経営層が変革、チェンジマネジメントをしていかないといけません。でも実際にその立場になると、非常に悩ましい。

濱口:
マーケティングを企業の文化やDNAに根付かせよう、といわれますが、経営者目線で正直にいうと、「文化」から入るのはかなり難しいのではないかな、と思います。

ではどうするか。わかりやすいのは、行動を変えることなんですよね。たとえばFacebookやブログで1日1回、経営者自身が仕事のことを発信して社員に読んでもらうとか、または社員のアカウントでいま取り組んでいることをつぶやいてもらうとか、ちょっとした行動を変えるように促すだけで、会社が変わってくるんじゃないかな、と。それが1年定着したら、それこそ会社の文化が変わるのではないかと思うんです。徳本さんはご自身もブログを書かれているので、この件についてちょっとご意見を伺ってみたいです。



徳本:
ブログについてですが、以前「お前のブログなんて誰も見ていないから、とにかく書き続けないといけないよ。書かなければ存在していないことと一緒だよ」といわれたことがあるんです。。そこで毎日毎日書き続けて1000本くらい記事をアップし、ずっと書き続けていたら、やっぱりいろんなことが変わってきました。

コンサルに入ったあるベンチャー企業で顧客対応しているチームに「ブログを書いてみましょう」と促したら、ふだんからカスタマーサクセスに接しているだけあって、目をみはるようなすばらしいストーリーを持っているんですよ。

これを続けていけば、インターネットに自分の「陣地」ができます。それを記者の方やお客様が見つけてくれるでしょう。それで自社の良さやすばらしい点が共有されてくると思います。

濱口:
そういうエモーショナルなストーリーを外部に伝えていくための支援が、私たち広告会社の仕事だと考えています。今日はありがとうございました。
(終)



※「おきゃく」とは濱口の故郷高知のことばで宴会などお酒を飲み集う場のこと。

BtoBマーケティングの課題や奮闘をディスカッションし、よりよい未来を創造する「場」として、Facebookコミュニティ「おきゃく」を運営しています。マーケティングの実務で奮闘される方、マーケティングで経営を変えようと考えていらっしゃる経営者のみなさん、ぜひのぞいてみてください。
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(関連記事:LIVEレポートVol.4- 総括とBtoBマーケターの「おきゃく」
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