マーケティング 2018.08.24 Bigbeat LIVEレポートVol.2- マーケティングに挑戦した成果は必ず出る



600名以上が参加登録したBtoBマーケターのためのイベント、Bigbeat LIVE。この記事では、2nd Sessionに登壇したアルテリア・ネットワークス株式会社 川上潤さん、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 隅谷崇さん、株式会社スタディスト 坂野元紀さんの「挑戦」と、ホスト役のB2Bファシリテータ 飯室淳史さんが訴える「行動の重要性」についてレポートします。
(取材・執筆:岩崎史絵)
 

「半学半教」の精神でスタートした2nd Session

Bigbeat LIVE 2nd Sessionテーマは「自らを破壊する挑戦者たち!」。最初に壇上に上がったホスト役のB2Bハック.コム 主宰 飯室淳史さんはこのテーマについて、次のように説明します。



「いま、ビジネスはかつてない変化の時を迎えています。過去の成功体験はもはやそのままでは通用しなくなり、日本企業が得意としてきた“カイゼン”も、ちょっとやそっとの改善スピードでは追いつかない時代となりました。このセッションでは、こうした環境の中、改善というよりももはや『破壊して新しい仕組みを創る』ことに挑戦している3名の方をお招きしました」
 
一人目は、全700名の社員のDNAに「マーケティング」のスピリッツを組み込むことを目指しているアルテリア・ネットワークス株式会社 代表取締役社長 CEO 川上潤さん。二人目は、大企業においてマーケティングの力を駆使する伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 ITサービスグループ 企画統括部 部長代行(兼)マーケティング課 課長 隅谷崇さん、三人目は、ベンチャー企業において前任者からマーケティング業務を引き継ぎ、試行錯誤を重ねる次世代の挑戦者、株式会社スタディスト 営業部 坂野元紀さん。
 
飯室さんは、「これらの方々の話を聞いて、学ぶだけでなく、行動を起こしてほしい。講演者の方に、会場の皆さんがお持ちの知見をシェアしてほしい」と訴えます。


2nd Sessionの始まりは、スタンディングオベーションの練習から。
 
「3名の方から会場の皆さんに呼びかけることがありますが、講演で教わるだけでなく、皆さんも自分のご経験や知見を教える、『半学半教(はんがくはんきょう)』の精神でこのセッションを進めていきたいと思います」(飯室さん)
 

企業のDNAをマーケティング志向に変える

最初の講演者は、通信会社のアルテリア・ネットワークス(以下アルテリア)の代表取締役を務める川上潤さんです。川上さんは外資系コンサルティング企業からGEを経て、アルテリアの代表取締役に就任した経歴の持ち主。グローバルなマーケティング感覚を持つ経営者です。



アルテリアは、NTTやKDDI、ソフトバンクと同じく自社通信網を持つ通信会社ですが、これら3つの事業者と異なる3つの特徴があります。それは、BtoBに特化した通信サービスを提供していること、有線網に強いこと、そして大都市にフォーカスしていること。
 
「なぜなら会社の規模がまったく異なるため、同じ土壌で勝負はできません。このポジショニングにより、オンリーワンになるというのが私たちの戦略です」(川上さん)
 
これだけ聞くと、非常にマーケティング志向の高い企業と思われますが、川上さんは「インフラ事業は公共性が高いため、お客様をセグメントしたり、ターゲティングしたりする文化はありませんでした」と説明します。これはアルテリアだけなく、通信業界に共通するカルチャーだそうです。
 
加えて、通信会社という性格上、テクノロジー中心でビジネスを捉える傾向が高く、「優れたテクノロジーを提供していれば、お客様はついてくるはず」というマインドがありました。お客様と対峙する役割は営業部門のみで、開発担当者や製品担当者が直接市場に出ることもほとんどなかったそうです。
 
これを変えるため、川上さんは組織改革を実施。ツールの導入と共に、社内でマーケティングを啓蒙するエバンジェリストを任命してアクティブラーニングを進め、また戦略立案のため部長クラス60名を集めた部長会を開催し、社員700名へのマーケティングの啓蒙を図りました。2018年4月には、通信会社では珍しくCMOも設置。これにより、営業はお客様、マーケティングは製品、開発は技術という3軸で市場に臨む体制を整えたそうです。
 
ポイントは、「たとえ経理や総務のように、直接お客様と接することのない業務でも、自分たちの仕事がどのようにお客様に貢献しているのかを自身で考えるように促すこと。『自分はお客様と関係ありません』という抵抗勢力は必ずありますが、すべての仕事がお客様にどのような価値を提供しているのか、その道筋を作ることが、社内にマーケティングの精神を育むためにも必要です」(川上さん)



こうした施策を繰り返してはいますが、組織全体がマーケティング志向に変わったかといえば、「まだ道半ばというのが正直なところです」と川上さんは説明します。「売上がどう変わるんだ」と株主から問い詰められることも珍しくありません。とはいえ、一部の部署や社員は顧客中心で施策や戦略を考えたり、営業提案をしたりする雰囲気が生まれ、社内の議論が活発になったという小さな変化は確実に起こっています。川上さんは「この変化を、さらなる成果につなげていきたいと思います」と改めて強い決意を示しました。
 

大企業で新市場開拓に臨むCTCのマーケティング

続いて壇上に現れたのは、伊藤忠テクノソリューションズ(以下CTC)でマーケティングを担当する隅谷崇さんです。CTCは1972年に創業し、サン・マイクロシステムズ(現オラクル)やオラクルのデータベースに強く、1990年代のIT化の波に乗り、急成長を遂げました。250社の企業とパートナーを組み、マルチベンダーソリューションのSIerとして、その技術力や提案力に定評があります。



隅谷さんがマーケティングに関わるようになったのは、2008年に新設されたビジネス企画・開発チームに着任したのがきっかけです。業種・業界ごとにセグメント化された事業グループとは異なる役割を持ち、将来性のある分野を発掘することをミッションにしていました。そんな中、2010年ごろから隅谷さんが取り組み始めたのが、クラウド市場への参入です。

「ところが1つ問題がありました。マーケティング部門としては、将来性のある市場へ参入していくことがミッションですが、アカウント営業はお客様が必要とするソリューションやすでに社内で実績があるソリューションを営業し、売上を上げることがミッションなので、まだ芽が出ていないものについては営業対象にならないのです」(隅谷さん)
 
2010年といえば、まだ企業のクラウド活用が本格化する前のこと。当時隅谷さんは、ファイル共有などのクラウドサービスの確立に奮闘していましたが、CTCのビジネスとしては単価が見合わず、2013〜2014年ごろからIaaS(Infrastructure as a Service)分野へとシフトしていきました。ところがそれでもなかなか営業部門を動かすことができず、逆に従来からの顧客が別会社のクラウドに乗り換えるということも発生したそうです。
 
そこで隅谷さんは、これまでのやり方を見直し、2014年から1年ずつ「認知獲得」「認知+引き合い」「引き合い●●件」「優良引き合い●●件」などの目標を立て、広告や自社セミナーなどを展開して「クラウドサービスのCTC」をアピールする戦略を立てました。これと同時に、市場開拓意識のある営業担当者とタッグを組み、MAツールを導入して、施策から得たリードを共有することも始めたそうです。



「2018年からはリードを全社公開しました。これにより、営業部門から自らリードを取りに来るようになったのですが、最初はほんの2件くらいしか取りに来なかったのです。ですが一緒に市場を作っていくため情報共有が進み、少しずつ増えています」と隅谷さんは説明します。このリード公開サイトへの訪問は、7月には6,800件を獲得して、300を超える社内サイト中で5番目に多いアクセスだったとのこと。営業部門からの関心は着実に高まっているようです。
 
今年の目標は、商談として見積書をお客様に提示する件数を増やすこと。大企業の中で、これまでになかった新たな分野を開拓する、隅谷さんの挑戦はいまも続いています。
 

マーケティング専門家不在の中、仕組みを作ってきたスタディスト

三人目の講演者は、スタディストの坂野元記さん。新卒でITエンジニアとしてキャリアをスタートし、転職。いまは学生時代に自分で立ち上げたメディア運営を行いながら、スタディストでマーケティング業務を担当しています。



スタディストは「伝えることを、もっと簡単に。」というミッションのもと、仕事の手順や方法を、より簡単にわかりやすく伝えるBtoB向けマニュアル作成・共有プラットフォーム『Teachme Biz』を提供するスタートアップです。コンサルタント出身者が開発したソリューションで、「伝えることのロスを減らし、知力活力みなぎる社会をつくることを目的にしています」と坂野さんは説明します。
 
ところが創業当時の問題は、良い製品を作っても、マーケティング専門家がいなかったこと。どんなに優れたサービスでも、誰にもその存在が知られなかったら、0(ゼロ)でしかありません。そのため最初は、0→1を目的に、スタディストの執行役員を務める豆田裕亮さんが手探りで進めたそうです。最初はまったく成果が出ませんでしたが、同じくベンチャー企業でエバンジェリストを務めていた著名マーケターと知己を得て、勧められたWebマーケティングを強くする方法を75項目紹介していたある書籍に出会ってからは、「愚直なまでに、その75の方法に優先度を付けて実行していきました」(坂野さん)といいます。これが功を奏し、問い合わせが爆発的に増え、管理するためにMAツールを導入しました。
 
ところが、ここへ来て真の課題が見えて来ます。それはリードを集めても、受け皿がないということ。営業はすでに商談中のお客様で手一杯なこともあり、ホットリードを受け取るのは難しいし、そもそもホットリードの中でも多少の温度差は必ずあります。そこでホットリードを見きわめて、営業に確実に渡すためにインサイドセールスを立ち上げることになりました。そんな中、マーケティングを推進して来た豆田さんが海外事業を担当することになり、バンコクへ。業務を引き継いだのが坂野さんです。



坂野さんも、本格的なマーケティングの仕組み作りは初めてです。そこで豆田さんと同じように、まずは専門書を読み、そのノウハウから実践することにしました。顧客のセグメント化から、流入チャネルと施策の整理、そして営業プロセスを洗い出して、マーケティングから営業の工程をまとめ上げ、それぞれの施策から何件、どんな成果に結びついているかを可視化しました。
 
「これにより、参加するだけで精一杯だった展示会を、『何件リードを取る』といったように明確な目的を持って参加するようになりました。また、無料体験会の商談成約率が非常に高いことがわかったので、認知フェーズではなく後ろ工程、つまりリード登録からナーチャリングにかけての工程として位置づけることで、商談化率を明確にKPIとして追うようにしました。」(坂野さん)
 
いま坂野さんが挑戦しているのは、大企業の顧客を増やすこと。そしてインサイドセールスをよりスケールするために導入されたオンライン商談への流入を強化・改善することです。
 
最後に坂野さんは「僕らは素人なので、まだ挑戦中ですが、とにかくやってみることを重視しています。とはいえ闇雲にやるのではなく、ロジカルに考え、すぐ打てる手から始めることにしています。こうした行動を打つに当たり、書籍はとても役立ちました。意外と本を真似するだけでも侮れないと思っています。本に書いてあるとおりきっちり行動した人は意外と少ないので、皆さんも騙されたと思ってやってみると、思わぬ成果が出るかもしれません」と語りました。
 

会場とのディスカッション

講演終了後、飯室さんが再び登場し、会場内を縦横無尽に動き回り参加者に突撃。感想や共感、そして講演者へのアドバイスを募りました。


次々と参加者に声をかけていく飯室さん。会場とステージ上の登壇者とが一体となりディスカッションが進みます。
 
「うちも同じだ」「なかなか成果が出ないと思っていたけど、着実に進めていくことが大切だと気付いた」という声のほか、「案件数や商談数はもちろん、マーケティングのROIなど数値化できるものを示すことが、マーケティングには必要」という意見も聞かれました。



最後に飯室さんはこう締めくくりました。「こうした知見やアイディアをみんなで共有し合い、行動することが必要です。行動しなければ何も変わりません。明日を変えるため、挑戦するために一歩行動してみましょう」と。行動すれば、たとえそれがどんなに小さな一歩でも、確実に未来につながるはず。会場の熱が一段とあがり、次の3rd Sessionへと続きます。

※当日の様子は「#BigbeatLIVE」でたくさん発信されています。どうぞご覧ください。
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