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2019 2019.09.18 【LIVEレポート⑧】マーケティングを行政に『誰が』『どう活かすか』

Bigbeat LIVE 2019 スペシャルステージの行政編。登壇者3人それぞれの取り組み内容に続き、パネルディスカッションの模様をお届けします。アジェンダは、「マーケティングをどう行政に活かすのか」「移住者に選んでもらうにはどんな取り組みをしているか」の2つ。セッションテーマに掲げた「『みなさまのため』は、実は誰のため?」に斬り込んだ議論が展開されました。

前編はこちら

[撮影]野村昌弘

 

「みんなのため」を納得してもらうには

Local_パネルディスカッションの様子_1

日比谷:行政は「平等を良し」とする価値観です。「母になるなら、流山市」のようにターゲットを特定した打ち手に対して、反対意見はありませんでしたか。

河尻:行政は住民の皆様のためにある組織なので、本来であればターゲットを絞ることはできません。でも、みんなが幸せに生きるには街が持続可能なお金などのリソースを減らさない必要があります。その手段としてターゲットを絞り、最終的には全員に行き届くと説明して納得してもらっています。

日比谷:すんなり納得してくれるのですか。

河尻:粘り強く説明する必要がありますね。

沖本:苦労したのは企画を通すことだったのではないですか。「結婚していない人はどうか」「病気で子供が産めない人に対して失礼にならないか」など、そんな意見が来たらどうするかと言う関係者を説得するのに苦労したのではないでしょうか。

内田:「ターゲットを絞る」という言葉に引っかかるのだと思います。マーケティングの1つの役割は、効率よく最大公約数をつかむことではないでしょうか。県民の幸せにつながることを効率よくやることなのに、説明の仕方を間違えると、排他的な印象を与えてしまいますし、行政にはマーケティングの知識やノウハウがないので、正論だけでは説明できません。関係者へのマーケティングの考え方に対する認識の差を埋める必要があるのは民間との違いだと思います。

日比谷:特定の人を優遇するのではなく、打ち手として効率のいいやり方であると伝えていくことですね。具体的にはどうするのでしょうか。1人ずつ説いて回るのですか。

河尻:役所内に説いて回っても「上から目線」に思われ、誰も聞いてくれません。大事なのは教えるのではなく、一緒に成長するスタンスをもつことです。他の部署と一緒にプロジェクトをやり、時には失敗しつつも、成功体験を共有することが必要です。それは各部署ともですし、市民ともです。気持ちだけあって、マーケティング思考がなかったとしても、成功体験を共有できれば「共通言語」ができますから。

日比谷:巻き込んで一緒にやるわけですね。

河尻:巻き込んだからには成功させないといけないので、私のプレッシャーは大変なものですが、みんなにとっては「自分ごと化」できる分、理解が早いのです。

(左)内田さん (右)河尻さん

内田:それは民間でも同じことですね。民間から入った立場として気になるのは、県職員が上からの物言いをしていないかです。

沖本:高知県の場合、前知事(橋本大二郎氏)時代、職員が県民の下で働いているという意識を持てるよう、組織図上のトップを知事ではなく県民にしました。とは言え、行政にはありがちなことだと思います。

内田:結局はどれだけわかりやすく話すことができるかに尽きます。それができないと、相手も本音を話してくれないですし、共感を得て、一緒にやろうとも思ってもらえません。

外部の知見をどう組み込むか


日比谷:徐々に二つ目のテーマ「マーケティングを行政に活かすこと」に近づいてきました。先ほどの沖本さんの説明に、「マーケティングの基本を理解していない」という指摘がありました。職員には民間企業の経験を持つ沖本さん自身のノウハウを伝えようとしているわけですよね。

(左)河尻さん (右)沖本さん


沖本:事業自体は仮説を立てて進めています。でも予算を握る側に十分な知識がなければ、良い企画を良いものと評価できません。さらには結果を検証する仕組みがないまま事業を進めていることが問題です。

日比谷:企画の質は外部の知見がある人が作れば担保できますが、しかし企画内容をわからない人たちが審査や事後の評価も行うのですね。

沖本:大きな壁と感じるのが一般競争入札制度です。仮にとてもいいアイディアを持つ人たちと企画書を作っても、その人たちと一緒に仕事をすることができないのです。プロポーザル方式もありますが、プレゼンだけが上手な人が高い評価を得ることもありますし、本当に一緒に仕事をしたいと思う専門性を持つ人たちと仕事ができないという悩みを抱えています。

日比谷:競争入札は公正な競争を促すための仕組みであり必要な仕組みではありますが、弊害をなくすにはどうしたらいいのでしょうか。

河尻:この場を借りて日比谷さんにぜひ聞いてみたいのが、どうやって渋谷区の仕事を得ているかです。

日比谷:逆質問ですね!ありがとうございます。渋谷をつなげる30人は、渋谷区の課題解決やビジョン実現を通じて地域を盛り上げるプロジェクトを進めていますが、あくまでも民間主導です。渋谷区は協賛という形で参画しており、職員を二人派遣していますが、ノウハウや人脈を貸してくれるだけです。新しいことを区役所の中だけでやろうとすると、何かと乗り越えるべきハードルが高くなってしまうので、外にやっているプロジェクトを支援するスタンスになっていますね。

沖本:確かに高知県でも民間を含めた一般社団法人を作って事業を進めています。

内田:それは長野県も同じです。沖本さんの話に戻すと、民間の人たちがより意欲的に専門性を発揮してもらえるよう、私たち自身もスキルをつけないといけないと思います。
 

行政にもあるマーケターの活躍の場
 

Local_パネルディスカッションの様子_2

日比谷:評価する仕組みが必要という話に関連して伺いたいのは、民間企業のマーケターのキャリアパスにおいて、行政が選択肢になり得るかです。

沖本:機会はたくさんあります。高知県はすでに社会人採用の年齢制限を撤廃しました。例えばIT調達の専門家が採用された実績があります。同じように、マーケティングの考え方で事業を組み立てることができる人材が必要とされています。

内田:私の場合、実は行政に転じる前に会社を辞めることを決めました。20年以上、大企業でマーケティングの仕事をして実績を積んできたので、地方に同等のキャリアを積んだ人はそうはいないと仮説を立てました。その仮説を確認するために、地元に帰っていろいろな人たちと意見交換を繰り返す中、県庁に新しい組織ができることを知り、ご縁があって今に至ります。自分の価値をどこなら高く評価してもらえるか、どこがブルーオーシャンかを考えることはマーケティングの考え方そのものですよね。

日比谷:個人のキャリアやスキル発揮ができる場として、行政も選択肢になるのですね。経済産業省が「週一官僚」を募集した例もありました。正職員以外で、マーケティングの仕事ができる可能性はありますか。

沖本:もちろんです。さっきの例に挙げたITの専門家の採用は、5年間の「任期付採用」という制度を使っています。任期は職種によりますし、そのまま継続採用に切り替えることもあり得ます。

(左)日比谷さん (右)内田さん

日比谷:行政がマーケターを求めていることがわかりました。ここで当初のアジェンダになかった質問を一つしたいと思います。内田さんと河尻さんはプロセスをオープンにするという話をされていましたが、共感を得る手段として有効な反面、横槍が入らないように手を打つことも必要になりませんか。

河尻:初めて企画するプロモーションは、成功するとは限りません。でも仮に失敗したとしても、「大出血」はしないリスクヘッジはしています。血が出ないならば、なるべくプロモーションのプロセスからオープンにしようというスタンスです。ちょっと話はズレますが追加で共感を得る手段として、私が対話の時に活用しているのが、その昔合コンで培ったスキルです。会う人を4つに分類し、タイプ別の殺し文句を駆使しているんですよ。

内田:今の話を聞いて思い出したことがあります。伝統工芸の職人さんたちの話を聞いたとき、「新しいことをやりたい人」「伝統を守りたい人」「権威がある人に倣う人」の三つに分けられることに気づきました。

河尻:タイプ分けをしたのですね。

内田:私たちのゴールはその産業を活性化することなので、どのグループとも仲良くしなければなりません。共感を得るためのコミュニケーション能力は、トレーニングか、合コンか、千本ノックのどれになるかはわかりませんが、どこかで身につけないといけないことだと思います。それもマーケティングのスキルの1つだと思います。

カスタマージャーニーを意識せよ


日比谷:ありがとうございます。最後のテーマに移りましょうか。移住先として選んでもらうためには、マーケティングの観点から、どんなことが必要になるのでしょうか。

沖本:このテーマについてはぜひお二人に聞いてみたいです。移住相談件数では長野県が全国トップです(総務省調べ)。流山市も人口が増えています。高知県も相談件数ではトップ10に入るぐらい頑張ってはいるのですが、施策については模索を続けています。長野県がトップなのは、どんな施策が効果を上げているからなのでしょうか。流山市も先ほどの話に「ターゲットを明確している」という話がありましたし、取り組み内容を聞いてみたいです。

日比谷:Sansan時代に関わった徳島県神山町では、最初の頃はパン屋やカフェをやりたい人など、町として来てもらいたい人を優先的に受け入れていました。当時はその基準に当てはまらない人をお断りしたこともあったようです。流山市と長野県の移住政策では、どんな試行錯誤のプロセスがあったのでしょうか。

(左)内田さん (真ん中)河尻さん (右)沖本さん

河尻:民間企業では当たり前だと思いますが、カスタマージャーニーを意識することです。住人を増やすには、「知る」「訪れる」「好きになる」「住む」「ファンになる」の段階に応じた施策を展開する必要があります。知名度があれば「知る」をスキップできますが、いきなり不動産情報サイトに広告を出すような、自分たちの街がどの段階にいるかを無視した施策をやると失敗するでしょうね。

内田:私自身は移住政策には関わっていないので、詳細はわかりませんが、移住相談件数がトップの大きな理由の1つは、個人の生き方が多様化し、県外の人から見て、食べ物や自然など、理想のライフスタイルを創るための素材が豊富に揃っているからではないかと思います。ですから、先ほども話したように、県内の人が長野県というものにブランドのストーリーをもって活動しないといけないと思います。

日比谷:Sansan時代、多くの自治体やNPOの方々の視察を受け、ご質問に答えていましたが、古民家をコワーキングスペースにするという手法だけをコピーしようとする人が多いと感じたことを思い出しました。

河尻:最初、私も流山を都会と同じように「キラキラ」にしようとして失敗しました。都会に近いので、キラキラを持ってこられてもうれしくないわけです。育んできた風土がブランドなのに、街に根づいていない、きれいなところだけ移植しようとしても支持されません。内田さんの話はよくわかります。

沖本:おっしゃる通りですね。移住政策では、自分たちの良さを理解してもらうことが重要ですし、マーケティングの考え方を活かすことができると思います。入札の仕組みなど、改善することはまだありますが、民間のノウハウを取り入れて効果が出ることに取り組んでいきたいと思います。

内田:行政には大きなビジネスチャンスがあります。入庁してたった数カ月ですが、いろいろな人たちと話すことがとても楽しいです。ビジネスチャンス拡大に興味を持った人はぜひ扉を叩いて欲しいですね。

日比谷:今日のテーマはセクターを越えることで価値を提供できるだけでなく、それによって自分の価値が高まり、新しい景色が見え、刺激が得られるということでした。今日のセッションではそみなさんのお話から、行政でもマーケターの越境力が求められていることがわかってもらえたと思います。ありがとうございました。

 
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