マーケティング 2019.09.06 急成長SaaS企業におけるWho・What・How 【Bigbeat LIVEレポート②】
8月2日に開催され、大盛況のうちに幕を閉じたBigbeat LIVE。広告会社が主催するプライベートイベントとして、国内マーケターが集結する国内最大級のマーケティングイベントです。3回目となる今年のテーマは「Go for it!」。このレポートでは、Bigbeat LIVE幕開けの様子から、パラレルマーケター/エバンジェリストの小島英揮さんがホストを務めた1st Stage「真に『顧客の未来』を描く」を前後編でお届けします。(「前編」はこちら)
後編はSansan 株式会社 松尾佳亮さんのプレゼンテーション、そしてホストと登壇者3名によるパネルディスカッション、Q&Aセッションです。
後編はSansan 株式会社 松尾佳亮さんのプレゼンテーション、そしてホストと登壇者3名によるパネルディスカッション、Q&Aセッションです。
成長段階に応じて「価値」の定義を明確に打ち出す
1st Stage最後のプレゼンターとして登壇したのは、Sansan株式会社 マーケティング部SIP統括責任者/ ブランドコミュニケーション部の松尾佳亮さん。1st Stageのテーマに掲げていた「『市場創造期』『事業転換期』『急成長期』の3つの事業段階におけるマーケティング」のうち、「急成長期のマーケティング」についてプレゼンテーションを展開しました。◆松尾さんプロフィール
2014年Sansan株式会社入社。法人向けクラウド名刺管理サービス「Sansan」の新規開拓営業に従事。現在、マーケティング部とブランドコミュニケーション部の2部門を兼務。延べ5,000名超が来場する、Sansan主催のビジネスカンファレンス「Sansan Innovation Project」の責任者も務め、同イベントを2年連続で成功へと導いた。
松尾さんのインタビュー記事はこちら
Sansanといえば、クラウド名刺管理サービスを提供する企業。ユーザーは必然的にビジネスパーソンになるので、ターゲットとする顧客(Who)ははっきりしています。松尾さんは「マーケティングのWho、Whatは表裏一体で、どちらかというとWhat先行という特徴があります」と説明します。
ただ、提供する機能やサービスは明確ですが、具体的に提供できる「価値」はさまざまです。松尾氏は「振り返れば、提供する価値を事業フェーズに応じて再定義してきたのが当社のマーケティングの歴史かもしれません」と話します。
2007年に創業した同社の知名度を一気に上げたのが、2013年に開始した俳優の松重豊さんが出演するTVCMでした。当時Sansan導入企業は1,000社、デジタルとオフライン領域のプロモーションは頭打ちという状態だったそうです。
そこで再定義した価値(What)とは、「営業を強くする名刺管理」というコンセプト。顧客層(Who)を「営業マン」とし、これを届ける手段(How)としてTVCMを選択しました。結果、問い合わせ数、受注数ともに前年比の数倍の成果を得たそうです。
次に大きく躍進したのは、2016年です。この年、同社は初の大型イベントである「Sansan Innovation Project」を開催しました。
この時の導入社数は約4,000社。ちょうど働き方改革が叫ばれた時期でもあり、Whoを「働き方改革を推進するイノベーター」とし、Whatを「名刺を企業の資産に変える」と再定義。
2013年~
Who(顧客):営業マン
What(価値):営業を強くする名刺管理
How(どのように):TV CM
↓
2016年~
Who(顧客):働き⽅改⾰を推進するイノベーター
What(価値):名刺を企業の資産に変える
How(どのように):⼤型イベント
名刺を企業資産として管理することを「働き方改革の一丁目一番地」とする同社では、唯一取り組んでいなかった大型イベントを通じてこのメッセージを届けることで、新たなチャネル開拓につなげる狙いがあったそうです。
「イベント参加者は、テレビCMやデジタルではリーチできない層であり、かつイベントに自発的に参加する実行力や、情報感度が高い層と考えられ、ここにリーチしたいと考えました」と松尾さんは説明します。以来、松尾さんはこのSansan Innovation Projectの推進役として、毎年イベントの企画設計・運営をリードしています。これにより、獲得リード数は約2万件超、ROIも150〜200%という成果が出ました。
そして2018年から同社が取り組んでいるのが「コミュニティマーケティングの強化」です。契約件数も6,000件近くまで増え、1クラウドサービスから、プラットフォームへの進化を目指す時期に来ていました。
ここでターゲットとしているのは新規よりも既存ユーザーで、届ける価値としては「名刺管理から、ビジネスが始まる」というもの。既存ユーザーに新しい価値を届ける手段として、大規模なマスマーケティングから、既存ユーザーをターゲットにしたコミュニティマーケティングにシフトしつつあるそうです。
コミュニティは、サポートやオンボーディングの工数を削減できるほか、活用促進による継続率上昇、新規顧客へのリファラル効果といったメリットが得られます。特にクラウドサービスのビジネスを左右する解約率については、「現在、月次解約率は0.66%まで下がっており、ほとんどのお客様に継続してご利用頂いています。今後コミュニティを強化することで、当たり前のようにSansanを使ってもらう環境を作っていきたいと思っています。」と松尾さんは話し、今後さらなる挑戦を続けていくことを表明しました。
松尾さんからのメッセージ
急成長企業に関しては、まずどこに何を届けたいのか(What)、それがお客様にどんな世界観を見せられるのかを考えてシンプルなメッセージで発信することが大切だと思います。Whoは定義が細かすぎると機会損失を生む。ポイントはHow。他社の真似をするのもよいが、なぜ自社でその方法を用いる必要があるのかを考え抜くことが重要です。それがあれば自然とオリジナリティが出てくるはずです。
短期的な視点に陥るな! マーケターこそ長期的な広い展望を持とう
1st Stage最後は、登壇した松村さん(空)、牟田口さん(IKEUCHI ORGANIC)、松尾さん(Sansan)と、ホスト・小島さんによるパネルディスカッション、そして会場からのQ & Aセッションです。
小島さんは、学生時代から「マーケティングを仕事にしたい」と考え、まだ日本企業にマーケティングという概念が根付く前からそれを実践してきた、まさにマーケティング業界を牽引するひとり。「まだマーケティングが営業の後方支援部的な存在だったころからこの分野に携わってきて、本当に面白い仕事だと思っています」と語ります。
松村さんは、新しい市場を創造している実業家でもあり、一方で「マーケティングは好きだし、自身の役割もマーケターだと思っています」と自身の役割を分析。「マーケティングは好きですが、前職時代に先輩社員に教えられた『数字だけを見るマーケターになるな』という言葉を常に胸に刻んで仕事をしています」(牟田口さん)、「マーケターになりたいと意識したことはありませんが、ゼロから新しいアイディアを考えるのが好きなので、マーケティングに向いているのかも」(松尾さん)など、マーケティングに取り組む姿勢は各自それぞれながら、自分たちが大切にする“真の顧客”を明確にし、そのターゲットに向かって自分たちが提供できる最大限の価値を供給し続けています。
そんななか、共通のキーワードとしてあがったのが「カスタマーサクセス」です。
「マーケティングにおいても、コミュニティをつくっていくうえでもカスタマーサクセスはとても大事。なぜならファンがいないとコミュニティ自体も存在しないからです。」(小島さん)
松村さんはCEOの立場でありながら、自身がカスタマーサクセスリーダーをやっていた時期もあるといいます。
「社内では『For Customer Success』とよく言っていて、かなり力を入れています。売上も新規顧客より既存顧客からのほうが生まれています。」(松村さん)
小島さんはこれに強く同意しながら、「積み上げ式のSaasビジネスではチャーンレートを抑えることが大事。そのためには、(サービスやプロダクトを)うまく使っているお客様の声を聞くことが重要です」と語りました。
さらに小島さんは「カスタマーサクセスとコミュニティマーケティングは切っても切れない関係」と話し、上図のようなマーケティングファネルをつかって説明するとわかりやすいと話します。
「他部署と話すときも、ファネルを出すと同じ目線で話ができる。このファネルのどこをやっている、こういう風に一緒にやってほしいと話すと伝わりやすい。ゴールは台形の下(Cross/Up Sell)を大きくすることです。そのためには、お客様が成功して『良い』と言ってくれること、つまりカスタマーサクセスが重要で、それをオウンドメディアであったりコミュニティであったり…、次の人に伝えていく場をつくることが大切です。」(小島さん)
「目標設定が「獲得」で終わってしまわないようサイクル図で書いています。既存顧客→顧客のサクセス→次のファンを連れてくる→新規顧客、とグルグル回っている。このサイクルのなかで、プロダクトもさらによくなっていきます。」(松村さん)
ここから話は、売上やKPIなどの目標設定へと移ります。各人が口を揃えて語るのは「短期的なKPIや、売上達成だけを目標にすると、パフォーマンスも成果も小さくなる。長期的な視点に立ち、どんな価値を提供したいのかを考えて目標を立てることが大切」ということ。たとえばテレビCMのようなマスマーケティングは、短期的なスパンで売上貢献度を考えると、「かなり効率が悪いです」(松尾さん)という見方がありますが、「自社の理念を広く社会に伝えるにはマスはやはり効果的で、それは短期的なKPIでは現れない」(松村さん)、「顧客とのコミュニケーションレベルに応じて、オウンドメディアやマス施策などいろいろなコミュニケーション施策を展開することが大事」(牟田口さん)という意見が聞かれました。
また、マーケターに求められるスキルについて、「課題を因数分解して本質を読み解く力」(小島さん)というコメントもあれば、「視点を高く持ち、市場や世界がどういう状況にあるのか、抽象度を高く考える力」(松村さん)という意見も聞かれました。
会場からは、「感覚(フィーリング)で物事を進める上司をどう説得していくか」という具体的な悩みから、「マーケターとして他事業へ転職したが、Who・What・Howのフレームワークをどう活用し、説得力ある説明を行えばいいか」などの質問が寄せられました。「フィーリング派の方なら、まず自分とその人の間で共通のゴールを設定・共有し、自分の役割がそのゴール達成にどのように貢献するかを説明する」(小島さん)、「なるべく対人コミュニケーションでとことん話し合い、解決策を探る」(牟田口さん)など、さまざまな企業で切磋琢磨してきたマーケターならではの回答が聞かれました。
最後に小島さんが「今日の話を、『聞いて良かった』だけにせず、ぜひ自分自身の明日の行動を変えるきっかけにしていただければと思います」と話し、1st Stageは幕を閉じました。