マーケティング 2018.07.09 明るく楽しいサイボウズ流マーケティングを実践する3つのポイント|サイボウズ 鈴木亜希子氏
サイボウズ株式会社 ビジネスマーケティング本部 プロモーションディレクター 鈴木亜希子氏
サイボウズ株式会社が主催するイベントや、展示会の出展ブースを訪れた人は、口をそろえて「サイボウズって、楽しそう」「明るい感じ」「先端的な製品やソリューションが多いね」といいます。この“明るく楽しく、最先端のテクノロジーがある”というサイボウズらしさを作り上げているのが、ビジネスマーケティング本部でプロモーションディレクターを務める鈴木亜希子さんです。そんなサイボウズらしさを演出するマーケティングのコツは何か。ビッグビート 代表 濱口 豊が鈴木さんにお聞きしました。
「展示会ではリードを取らない」がサイボウズ流
濱口:サイボウズさんといえば、IT業界において「先進的なマーケティング会社」「ああいうマーケティングをしたい」と憧憬の念で見られることが多いと思います。実際、鈴木さんとお付き合いさせていただいて6年になり、セミナーや展示会などをお手伝いさせていただいていますが、ほかのクライアントさんから「サイボウズさんみたいな感じでイベントをやりたい」というお問い合わせも多いんですよ。鈴木氏:本当ですか、ありがとうございます。特に変わったことをやっているわけではないんですけどね(笑)。
濱口:他社から見るとサイボウズというブランドは常に“立っている”と見えますし、私もそう思います。鈴木さんは、プロモーション担当ということで、イベント会場でサイボウズらしさを表現する立場かと思いますが、ブランド力を意識することはありますか?
鈴木氏:そうですね、はじめは色々な企業のブースを見て、部分的に取り入れてみたりもしたのですが、他社と同じことをしていてもあまり成果がでないなと。
サイボウズは、どちらかというとおっとりした社員が多くて、あまりガツガツしたところがありません。「ブースの外にお客様を追いかけていく」という社員はほとんどいないんです。社内がもともとそういう雰囲気なので、そこに鞭打ってお客様を追いかけてもらうのではなく、むしろそうした空気を生かす展示ブースを作ろうと。
そうするとかえって親しみやすくなるし、お客様も立ち寄りやすくなる。具体的にいえば、「リードを取らない」というやり方にしたんです。
それ以来、サイボウズらしい表現にこだわることにしました。
濱口:リードを取らないとなると、KPIは?
鈴木氏:数字としては、サイボウズ製品を購入いただいたお客様のうち、イベントで製品を認知した方がどのくらいいるか、というのを年単位で見ています。もともと当社の場合、短期的なKPIを上司から追求されることは少なく、各担当に任せられている部分が多いです。個人的には、KPIを「展示会でのリード獲得数」とするのは、取り方次第で達成しやすくなるので、あまり意味がないと思っています。
展示会に出始めた6〜7年前はサイボウズがクラウドビジネスを始めたばかりで、「クラウド事業者としてのブランドの地位を高める」というプロモーションの理想がありました。そこで展示会では「お客様が会社に戻った時、『サイボウズ、勢いがあったよ』と周囲に言ってもらえるようにしよう」というところに特化しようと。だから、リード獲得数を追うのをやめました。
サイボウズが大事にしている3つのこと
濱口:マーケティングとは究極のところ、「お客様に自社のことをどう言ってもらいたいか」「お客様にどうなってもらいたいのか」に尽きると思います。展示会の場合、まさにお客様が目の前にいるので、どういう反応があるかすぐに分かりますよね。そして、企業の狙いどおりの感想と違うのであれば、それはそもそもマーケティングができていないということになります。こう話すと、マーケターの方はみなさん同意なさるのですが、なかなかそういうマーケティングができていないのも事実です。サイボウズさんはその点いかがでしょうか?ビッグビート 濱口
鈴木氏:サイボウズでは3つポイントがありまして、まず1つ目がコンセプトです。
コンセプトとは「ターゲットとバリュー」を指していて、要は「誰に何と言ってもらいたいのか」です。当社の代表である青野がコンセプトをとても大切にするので、何かをやる場合、常にコンセプトを問われるんです。先ほどの展示会でいえば、「情報システム選定に関わる方に『サイボウズは勢いがある』と言われたい」がコンセプトになります。
2つ目は「自分が言いたいことではなく、お客様が知りたいことを伝える」ことです。これも青野が重視していることで、何か企画を提案すると、必ず「それ、面白いの?」って聞くんですよ。それも怖い顔で(笑)。この場合の面白さとは、下らないことやお笑いではなく、「お客様目線で面白いのか」ということなんです。
最後に、公明正大であること。たとえバレないとしても社内外に対して「私たちはこういうことをやっています」と胸を張って言えないことはやらない、という社風があります。これはプロモーションだけでなく、出張費の使い方などすべてにおいて公明正大であることを会社として重視しています。
濱口:おっしゃるとおり、公明正大ということはマーケティングにおいてはもちろん、会社の文化としても重要ですね。
鈴木氏:そうですね。あと、こうした3つのポイントを実践するためか、サイボウズは一人ひとりへの権限移譲が大きいように感じます。展示会や自社イベントであれば、私が決められる範囲がかなり多いと思います。ステークホルダーが多すぎると、先ほどいったコンセプトがブレたり、お客様視点であるべき目線がバラバラになってしまいがちなのでやりやすいです。
もともとマーケティングやプロモーション志望ではなかった!?
濱口:少し視点を変えて、鈴木さんのこれまでのキャリアについてお伺いします。鈴木さんはサイボウズさんに入社以来、ずっと展示会やプロモーションを担当なさっているのでしょうか。鈴木氏:実は新卒で入社した会社は、サイボウズの販売代理店だったんです。サイボウズ製品の販促担当として、全国の社員が販売するフォローをしていました。仕事はとても楽しかったのですが、人事異動で別の部署に異動することになったんですけど、サイボウズの仕事の方が楽しかったんです。で、「だったらサイボウズに就職しちゃえ!」ということで、当時サイボウズの担当営業だった野水(注:現サイボウズ株式会社 社長室 フェロー 兼 フリービデオグラファー 野水克也氏)に連絡をしたんです。
入社した時には、マーケティングやプロモーションにそれほどこだわりはありませんでした。野水がマーケティングだったから、私もマーケティングを担当するようになったのが正直なところです。
当時は営業・マーケティング本部という部署で、一番上の上司は営業でした。また、今は製品ごとに販売を担当するプロダクトマネージャーがいますが、当時は開発部門に責任者がいるだけだったので、マーケティングとはいっても業務範囲は広く、価格付からコピーライティング、プロモーションまで全部担当していました。右も左もわからなくて大変でしたが、この時にいろいろな経験をしたことは、結果的にとても役に立っていると思います。
濱口:すると、展示会などのイベントを主に担当するようになったのはどういう経緯でしょう?
鈴木氏:最初は特定の製品担当でしたが、その後クラウド全般の担当になり、製品カットではなく、まとめて扱った方が良い施策の担当になったんです。展示会などのイベントは、一同に扱った方が良いケースが多かったので、必然的に担当するようになりました。当初は私以外にもイベント担当の社員がいたのですが、その人が異動することになり、いつのまにか私が一人でイベントを見るようになって、いまに至ります(笑)。
人を巻き込む力は「心を寛く保つこと」
濱口:鈴木さんと一緒にお仕事をさせていただくようになり、鈴木さんの「人を巻き込む力」にはいつも感心しているんです。鈴木氏:私の力ではなく、協力いただいているパートナーさんがいい人ばかりでノリがいいんです。私はそもそもコミュニケーション苦手ですし。そもそもうちの会社自体が完璧ではないので、助けていただくことばかりです(笑)。
パートナーさんは本当に面白い人が多くて、仕事とは関係のないくだらない話題で盛り上がるFacebookメッセンジャーがいくつかあって、いまもメッセージが来ています。
ひとつだけいえるとすれば、当たり前のことではありますが、いつも感謝の心を忘れないようにしたいとは思っています。あとは、相手の仕事をなるべく想像するようにしています。
濱口:そのあたりのことや、プロモーション担当という職種について、8月1日に開催する「Bigbeat LIVE」でお話しいただけるのを楽しみにしています。ところで、展示会への出展ですが、「今年で最後にする」という話を伺いました。
鈴木氏:はい、ここ数年の来場者層の変化や2020年に向けて会場の閉鎖などの問題もありますし、当社にとって展示会の効果は今年がピークかなと思いまして。下がるとわかっているものを続けるより、ここで一度止めた方がいいと判断しました。
濱口:社内の反応は?
鈴木氏:展示会で製品を知り、購入に至った方は多くいらっしゃるので、続けた方が良いのではという意見もありました。kintoneという製品の場合、購入者アンケートを見ると、展示会経由の方が1割くらいいるんですよね。ただ、説明したら理解してもらえました。
濱口:今後はどういうことに取り組まれる予定ですか。
鈴木氏:まだ改善の余地が大きい自社イベントを伸ばしていきたいと考えています。個人的なキャリアのことでいえば、実は将来のことをあまり考えず、「いまが楽しければいいかな」というタイプなので、ひとまず9月から4都市で開催するイベント「Cybozu Days」のことを今考えてます。
濱口:「先のことを考えない」と聞くと、一見無責任に見えますが、鈴木さんはそうではないですよね。むしろ、仕事はできますし、バリバリとこなしていく方だと思いますが。
鈴木氏:先のことをしっかり決めすぎると、柔軟性が失われるデメリットもあるかなと思って。イベントに限らず「直前にそんなムチャぶりされても対応できない」という事態ってよくありますよね。実際、塩対応してしまったものの、一晩経って冷静に考えると、「あの意見も一理あるな」と思うこともあるんです。だから、できるだけ柔軟に受け止められるようにしたいなと。塩対応されたメンバーはその先、アイディアや意見を出すことに躊躇するかもしれません。そういうことがないように、心を広く持ちたいなと思っています。ただ、まだまだ道半ばなので、イライラすることも多々あります(笑)。
濱口:さすがです。だからまわりの人は、鈴木さんに協力したくなるんですね。本日はありがとうございました。
【サイボウズ株式会社について】
サイボウズは、グループウェア「サイボウズ Office」シリーズなど、チーム・コラボレーションを支援するツールを開発・提供。グローバルに拠点をもつ企業や公共団体などの大規模チームから、企業間プロジェクト、ボランティア、家族などの小規模チームまで幅広く利用されている。近年はソフトウェアのライセンス販売に加え、サーバーやセキュリティなどの運用環境も提供するクラウドサービスを実施している。
■会社概要
商号:サイボウズ株式会社(Cybozu, Inc.)
所在地: 東京オフィス 〒103-6028 東京都中央区日本橋2-7-1 東京日本橋タワー 27階
設立:1997年8月
事業内容:グループウェアの開発、販売、運用
資本金:613百万円(2017年12月末時点)
従業員数:586名(2017年12月末 連結)/414名(2017年12月末 単体)
代表者:代表取締役社長 青野 慶久(本名:西端 慶久)
会社HP:https://cybozu.co.jp/
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