マーケティング 2018.06.28 Dropboxで学んだマーケターとして成長するために大事なこと4つ|Dropbox Japan 植山周志氏


Dropbox Japan株式会社 Growth & Monetization Head of International Strategy 植山 周志氏

全世界で5億人のユーザーが利用するDropbox。クラウドストレージサービスから、コラボレーションプラットフォームへと進化し、日本でもユーザー数を順調に伸ばしています。そんなDropbox日本オフィスで、マーケティングを担当しているのが植山 周志さん。数字オタクで、「英語と数字、ロジック、情熱」が共通言語という植山さんに、大切にしているマーケティング哲学と、Dropboxで学んだ大事なことについて、ビッグビート 代表 濱口 豊が聞きました。
 

「お前の成功が、俺たちの成功」というDropboxの文化

濱口:植山さんといえば、「英語と数字、ロジック、情熱」という4つの共通言語を持つ外資系企業の敏腕マーケターとして有名ですね。そんな植山さんが、マーケターとして大切にしていることを、今年8月1日に開催される「Bigbeat LIVE」でお話しいただきたいと思います。
 
植山氏:ありがとうございます! よろしくお願いします。
 
濱口:まずはイベント前に、ニシタイで植山さんのご紹介をしたいのですが、現在の仕事内容について教えてください。
 
植山氏:Dropboxでグロース マーケターをやっています。Dropboxは創業11年になる企業で、以前はクラウドストレージサービスが主流だったのですが、最近はコラボレーションプラットフォームへの進化を目指し、社員一丸となって頑張っています。ユーザーは全世界に5億人、企業・組織でDropboxを導入している数は30万チームに上ります。これだけ多くの方に利用されている、本当にラッキーでハッピーな会社なんです。

オフィスは全世界12カ国に展開中です。日本オフィスが設立されたのは4年前。僕が入社したのは3年前で、日本オフィス初のマーケターとして採用されました。社風はめちゃくちゃユニークです。最大の特徴は、「まわりの人を助けたい」という精神が根付いていること。僕も入社してすぐ、サンフランシスコに3週間出張したのですが、僕が日本オフィス初のマーケターということで、みんなすごく僕に期待して、応援してくれるんですよ。30人のスタッフと1on1(ワン・オン・ワン:1対1のミーティング)を行ったのですが、みんな口々に"What can I do for you ?"と声をかけてくれるんですね。

「俺たちはみんなお前に成功してほしいと思っている。お前の成功が俺たちの成功だ。だからもっとオープンになってくれ。そうすれば、どうやってお前を助けられるかが見えてくる。わかるか?」と、真顔で当時の上司にいわれたんですよ。ちょっと妙な気持ちにもなっちゃいました(笑)。



濱口:オープンで明るい社風ですね(笑)。植山さんの具体的なミッションは?
 
植山氏:僕のミッションは「米国以外のオンラインから発生する売上市場を成長させる」ことなので、日本やアジアだけでなく、いろいろな市場を見ています。わかりやすくいえば、オンラインショップの店長ですね。オンラインで個人向け・法人向けに有料版のDropboxを扱っているので、これを成長させていくことが僕の役割になります。

Dropboxは英語から始まったサービスなので、やはり英語圏でのビジネスが大きいです。日本はインターネット人口でいえば世界2位と市場は大きいですし、他の非英語圏の国もまだまだ成長すると私は考えています。国際市場でグロース マーケター目線で成長させていきたいですね。
 
濱口:上司の方は普段日本にいらっしゃらないんですよね。どのようにコミュニケーションしているのでしょう?
 
植山氏:毎週30分の1on1をやっています。共通言語は「英語と数字、ロジック、情熱」の4つ。上司はアメリカ人なので、日本のように「あうんの呼吸」が通じないし、文化も違いますから、「日本はこうなんですよ」と言うだけでなく、定量分析や定性調査などでわかりやすく見せる必要があります。

たとえば先日、日本オフィスの公式ブログを立ち上げたのですが、そのためには「これだけの投資が必要だ」と説明しなくてはなりませんよね。なので「こういうブログを立ち上げて、こういう成果を上げると3年後にはROIがこれくらいになる、かなり低く見積もってもこれだけの成果が出る」と説明しなくちゃいけないんです。

そうかといって、人間はロジックと数字だけでは動きません。そこで必要なのは、世界の誰もに通じる「情熱」なんです。数字とロジックがバッチリ合って、英語が通じても、話している内容にパッションが感じられないと、相手の心は動きません。情熱はとても大事な要素です。


 

数字とコンテンツで人を動かし、ビジネスを伸ばす

濱口:具体的に、植山さんはどうやってビジネスを成長させているのでしょうか?
 
植山氏:はじめの一歩は現状把握なので、大好きな数字を見て、全体を把握するようにします。僕の所属するチームは Growth & Monetization といってオンラインでの売上責任を持っているので、お互い数字の話をよくします。

数字を見て、現状把握を大枠から細かなところまで把握すると共に、ユーザーの方を招いた定性調査を行うこともあります。先日もユーザーインタビューを行ったのですが、そこで課題を抽出して仮説を立て、その仮説に基づいてA/Bテストの仕様を組み、実行して、売り上げにどれくらい影響を与えるかを分析していきます。1つのテストでだいたい1カ月ないし3カ月かけますが、なかには半年、1年がかりで行うテストもありますよ。

たとえば昨年行ったプロジェクトは半年かかりました。国内の無料ユーザーを複数セグメントに分けました。1つの軸はデータサイエンティストが作った無料ユーザーが有料ユーザーにアップグレードするかどうかというスコアを使いました。分けたユーザーにはぞれぞれメッセージとシナリオを入念に組み立てたランディングページに誘導をし、さらにDropboxを快適に使っていただけるように教育コンテンツを見せたのです。その結果売上も向上したのです。実は以前に同じターゲットを使って、もっと複雑なセグメントを組んだのですが、複雑すぎてあまりうまくいかなかったことがあるんです。その経験を生かし、今回はセグメントを2つくらいに単純化して、コンバージョンを125%改善しました。
 
濱口:そりゃすごい。ブログはどう活用されているのですか?
 
植山氏:いま日本語ブログは85万PVになり、リードジェネレーションのプラットフォームとして立派に役立っています! 売り上げも創出しています。

僕ね、数字とコンテンツが大好きなんですよ。ブログの記事もできるだけ自分で書きます。先ほどもお話ししましたが、数字だけで人は動きませんよね。数字やデータで納得してから起きる態度変容、そしてコンテンツで訴求できる感情の変化と、2つがあると思うんです。僕のように、数字とコンテンツ、両方が好きで得意という人はなかなかいないので、そこが僕の武器ですね。
 

Dropboxで学んだ4つのこと

濱口:Dropboxのマーケターとして、学んだことが4つあると伺ったのですが、具体的にどのようなことでしょう?
 
植山氏:「Prioritize&Focus(優先付けと集中)」「Announce(告知・発表)」「Evangelize(啓蒙)」「Scale(拡大)」ですね。これ、僕がDropboxに入社してから成長してきた軌跡なんですよ。

入社当時は日本で最初のマーケターだったので、とにかく仕事が山ほどありました。前々から決まっていた施策もあったので、それらをこなすだけが精一杯で全然成果が出なかったんですよ。上司もその状況を理解してくれたのですが、「お前がどんなに優秀でも、分散しているから成果が出ていない。製作したランディングページも、全然勝っていないじゃないか」といわれたんですよ。

正直、「えええっ!」と思いました。だってそのランディングページ、僕の前任者が決めたもので、本当に良くなかったんですよ。前任者の決定だったから、それを引き継いだだけで。——と説明したかったのですが、上司の頭の中は僕がやったことになっている。「どうすればいいか、Deep Dive(深く反省と分析)して考えろ」といわれて、モヤモヤしながらも失敗した理由を考えたんです。すると、それまで気付かなかった改善点をいくつか見付けたんですね。たとえば日本語の表現をもっとわかりやすいものにした。ブログをやっていたことが役立ち、ランゲージスペシャリストと日本語を書き換えたら、それでコンバージョンが10%上がったんです。これが初めての成功体験でした。これを皮切りに、イベントなどは別の担当者にお願いして、僕はオンラインの売り上げに集中したんです。



翌年、上司と半年に1回の人事考課面接をやった時、「お前、成功したな」「まあね」というやり取りがありました(笑)。「じゃあ、その体験をアナウンスしようぜ。四半期ごとにニュースレターを書いてみろ」とアドバイスされたんですよ。自慢ではなく、「海の反対側でこんな成功しているんだぜ」というのは本社の励みになる、と。成功しているところをみんなで助けたいんですよね。で、毎四半期にニュースレターを書くようになったら、本社のCOOがそれに対して返事するようになったんです。とにかくレスポンスがうまいCOOで、「日本は成功しているな! もっと成功するにはどうするんだ?」と、やたらハードルを上げてくるんですけどね(笑)。

濱口:なるほど、それがPrioritize&Focus、Announceなんですね。
 
植山氏:そうなんですよ。ニュースレターを書くようになって、次の人事考課面接では「お前は成功しているが、ヨーロッパの拠点ではそこまでうまくいっていないんだよ。だからお前の成功をEvangelizeしようぜ!」ということになりました。

そこで、入社当初に自分のやるべきことやミッションをフォーカスするためにつくった分析表や、成功したABテストや考えているテストなどをヨーロッパの同僚たちと毎週話し合う 1on1 をするようにしました。

そして1年前、当時の上司とコーヒーチャットをするなかで、「日本の成功はうれしいけれど、それをScaleすれば、会社にとってもっと喜ばしくなる。だからその成功を、より多くの拠点に展開するような案を考えよう」というアドバイスをもらいました。これが4つのうちの一つ、「Scale」ですね。そしていま、それを実践しているところです。



濱口:詳しく教えてください。
 
植山氏:今年から「日本以外の国をどう成長させるか」というミッションが与えられました。そこで、日本で成功したアカウントアップグレードに関する日本語コピーのA/Bテストを踏まえ、それを中国語、韓国語、英語に翻訳したんです。それをアジア地域でA/Bテストしたところ、同じようにコンバージョンが上がったんですね。日本で成功して10上がった施策を、別の国に展開させれば100にも120にもなる。こういうことを、これから実行していきたいと考えています。あとは日本語ブログの成功を、他国でどう展開していくか、近々本社に行きアイディアを話す予定です。
 

データと数字がわかるから、フォーカスすべき領域がわかる

濱口:なかなか厳しく、かつ難しいミッションだと思うのですが、植山さんのお話を伺うと楽しそうですね。
 
植山氏:楽しいですよぉ。僕のテーマは「主体的に、積極的に」ということなんですね。四半期ごとのゴールや中長期の目標をつくり、前期を振り返ってハイライトを洗い出して、具体的にどこで戦うべきかフォーカスを決めるんです。米国と比べ、ファネルのどこに問題があり、地域差があるのかをデータで洗い出す。すると優先すべき箇所が見えてきます。
 
濱口:植山さんのように、数字とデータとロジックがわかっているからフォーカスできるんですよね。
 
植山氏:もともと僕は自分から積極的にプランを出すタイプですし、Dropboxは「あなたの成功のために、私は何ができるか」というカルチャーなので、とても合っているんです。
上司がちゃんとフォーカスを決めてくれればいいのですが、そうでない場合は自分で決める必要がありますからね。外資系のマーケターの方は、本社の突き上げと日本市場の間でやることばかり増え、転職する方も多いのですが、今回Bigbeat LIVEに来場していただいた方には、このイベントで何かを持って帰っていただき、これからの働き方や目標設定に役立てていただきたいですね。
 
濱口:ありがとうございました。楽しみにしています!



Dropbox Japan株式会社について】
Dropbox は世界をリードするコラボレーション プラットフォーム。小規模なビジネスから大企業まで、あらゆる規模の組織で人々のワークスタイルに変革をもたらす。Dropbox の製品のユーザーは現在 180 カ国以上で 5 億人を超える。米国カリフォルニア州サンフランシスコに本社を置き、世界各地 12 カ所にオフィスを構えている。

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2018年8月1日、BtoB企業のマーケターを対象としたライブイベント「Bigbeat LIVE」を開催します!
今年のLIVEはマーケティングの最前線で戦っているマーケターの方々に向けて「具体的な事例や実践者の生の声」をご紹介!

『マーケティングこそが経営を変えて未来をより良くするキーワードであると信じている』
そんなマーケター、クリエイター、ビジネスパーソンが多く出会い、何かを学び、視線をあげて未来を語る。
そんな場所をご提供いたします。ぜひ皆さまご参加ください。

※Bigbeat LIVEは大盛況のうちに終了いたしました。誠にありがとうございました。開催レポートはこちらから

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