BigbeatLIVE 2025.06.30 「利他」を原動力に「ありたいリーダー像」を目指す | ハタノシステム 波多野麻美さん
就職氷河期の挫折、家業への参画、東京青年会議所で女性として初の理事長など数々の転機を経て現在、株式会社ハタノシステム(以下 ハタノシステム) 代表取締役専務に就任した波多野 麻美さん。8月1日開催の「Bigbeat LIVE 2025」に登壇していただく波多野さんに当社取締役 大滝がインタビューし、ご自身のキャリアや経営に対する思い、「波多野さんらしさ」が作られてきたその本質に迫ります。

株式会社ハタノシステム 代表取締役専務 波多野 麻美さん
しかし、最初は家業を継ぐことが選択肢に入っていなかったそうです。家族経営のために家庭内の会話の多くが仕事に関連した内容が多く、そのような環境に波多野さんが身を置くことを母親が心配したことがその理由でした。
母の気持ちを汲み、大学時に就職活動を開始した波多野さんでしたが、当時世間は就職氷河期の真っただ中。「本当に何も考えずに大学生活を送ってしまっていた」と振り返る波多野さんは、手当たり次第に30社ほど採用試験を受けたものの内定を得られず、最後の最後で電器メーカーのシステム会社に就職します。
同社ではCAD業務に従事しましたが、ここで「従業員側」の視点を得られたことも波多野さんの財産になったといいます。祖父や2代目の社長である伯母が奮闘している姿は身近だったものの、そこで見えていたのは経営者の視点です。従業員が会社に対して抱く不満や人間関係の難しさなどを痛感し、見方を変えたら全く違う景色があることがわかったのです。
そして、同時にジェンダー格差という現実があることにも直面しました。「総合職で入っても女性だけ制服がありますし、お茶当番があったり給湯室の掃除があったりなど、なぜだろうと疑問に思うこともたくさんありました」と振り返る波多野さん。
さらに、当時は「女性は結婚がゴール」という風潮がまだまだ色濃い社会。祖父の代からいずれは兄が会社を継ぐものだという空気感が幼少期から形成されており、波多野さん自身も「兄には会社を継ぐという選択肢があるが、自分にはない」という違和感があったと振り返ります。
東京青年会議所は、中小企業の経営者の後継者の方が多く参加している組織です。その中で波多野さんは自分よりも困難な境遇にありながらも突き進んでいく仲間の姿を見て奮起を決意します。
特に印象的だったと振り返るのが、青年会議所で学んだリーダーシップのスタイルでした。東京青年会議所は、給料をもらって働く企業とは違い、自分が会費を払って所属している団体です。「周りの人にどうやって動いて力になってもらうか」という考えが求められました。

東京青年会議所での活動の様子
人の心を動かして行動を起こさせるには、一人ひとりの特性や目的を理解し、相手に合わせて異なるアプローチを行う必要がありました。波多野さん自身も、その人の心に火をつけるようなリーダーシップ像があるという学びになったと振り返ります。
15年間所属した東京青年会議所で、最終的には理事長も務めあげた波多野さん。女性の理事長就任は同団体で初のことでした。自分の会社よりも大きな組織を運営する体験が、その後の企業運営に活かされたそうです。
さらに、波多野さんは同団体での活動を通じて、ブータンで青年会議所を設立する交渉や、アジア各国から集まるメンバーとの会議体で議長を務めるなど、貴重な国際交流の経験も重ねました。
ここで築いた海外の人脈は、海外事業を立ち上げる際に不可欠な一次情報の獲得や、日本人では思いつかないようなアイデアの創出など、後のハタノシステムの業務拡大を図る際に大きな力となりました。
そして2020年、コロナ禍という先行きの見えない中で、波多野さんは代表取締役に就任しました。業界では珍しい男女2人代表制は、「どちらかの身に何かあっても従業員やお客様に迷惑をかけないように、そしてお互いの強みを活かせるように」という想いから生まれました。
そんな波多野さんの行動哲学の根底にあるのは「利他の精神」です。これは第二次世界大戦から帰ってきた祖父が「まず日本のために何ができるのか」を考えて事業を始めたエピソードから学んだもの。「自分のため」では人は誰も動きませんが、「あなたも私も、社会も世界もみんな良くなる」という大義があれば人の心は動き、行動は変わっていくという考え方です。
もう1つ、波多野さんを特徴づけるのは、与えられた機会を素直に受け入れ、そこから学びを得ようとする受容性です。
「たとえ何かに参加してそれがつまらない機会だったとしても、それを価値に変えるかどうかは自分次第です。どんな機会でも自分の学びに変えることはできないかと何かポジティブな要素を見つけることで、得られる経験値は全然変わってきます。そうした考えを持ちながら積極的に行動を起こすことを大切にしています」(波多野さん)

「まず悩むことも大事ですが、新しい行動を起こして新しい体験をしてみるとか、新しい人たちとの出会いを自分から作っていく。そのような機会を積極的に作っていくことで、多角的な視点が養われ、自らの内省を深めることができます。そして、その結果、物事が良い方向へ進んでいくという経験を私自身も数多くしてきました。
今の世の中はスマホでいろんな情報が入手でき『自分もわかった気』になってしまいますが、自分自身がその場に行って体験して確かめることでしか得られないものがあるはずだと思ってます」(波多野さん)
波多野さんの言葉を受けて大滝もこう応じます。
「自分で体験して一次情報を得るという視点はとても共感できます。受け売りではなくて自分が見聞きした経験があるからこそ、説得力のある自分の言葉で語れるようになります。私が関わる営業という視点からみても、お客様から喜ばれる機会も増え、そうした体験が『もっとその人に貢献したい』という行動のモチベーションにつながると思っています」
最後に波多野さんは、「一緒にいることですごくプラスのものをもらえて、自分もプラスのものを返したいなって思えるような人たちが周りにいる状態を作った方がいい」と、自分が身を置く環境を自ら整えることの重要さを伝えます。
目の前の機会に対して、利他の精神で実直に行動する。波多野さんの歩んできた道のりは、自分自身のありたい姿への道のりがわからない中で、よりどころとなる指針を示しているかもしれません。

株式会社ハタノシステム 代表取締役専務 波多野 麻美さん
想定されていなかった「継ぐ」という選択
ハタノシステムは、波多野さんの祖父が戦後復興への想いを込めて創業した自家発電設備の専門会社で、波多野さんは3代目にあたります。現在は兄が社長を務め、波多野さんが専務を務める業界では珍しい兄妹での経営体制を敷いています。しかし、最初は家業を継ぐことが選択肢に入っていなかったそうです。家族経営のために家庭内の会話の多くが仕事に関連した内容が多く、そのような環境に波多野さんが身を置くことを母親が心配したことがその理由でした。
母の気持ちを汲み、大学時に就職活動を開始した波多野さんでしたが、当時世間は就職氷河期の真っただ中。「本当に何も考えずに大学生活を送ってしまっていた」と振り返る波多野さんは、手当たり次第に30社ほど採用試験を受けたものの内定を得られず、最後の最後で電器メーカーのシステム会社に就職します。
同社ではCAD業務に従事しましたが、ここで「従業員側」の視点を得られたことも波多野さんの財産になったといいます。祖父や2代目の社長である伯母が奮闘している姿は身近だったものの、そこで見えていたのは経営者の視点です。従業員が会社に対して抱く不満や人間関係の難しさなどを痛感し、見方を変えたら全く違う景色があることがわかったのです。
そして、同時にジェンダー格差という現実があることにも直面しました。「総合職で入っても女性だけ制服がありますし、お茶当番があったり給湯室の掃除があったりなど、なぜだろうと疑問に思うこともたくさんありました」と振り返る波多野さん。
さらに、当時は「女性は結婚がゴール」という風潮がまだまだ色濃い社会。祖父の代からいずれは兄が会社を継ぐものだという空気感が幼少期から形成されており、波多野さん自身も「兄には会社を継ぐという選択肢があるが、自分にはない」という違和感があったと振り返ります。
東京青年会議所での経験が大きな糧に
そんな波多野さんの転機は伯母からの声掛けで訪れました。新規事業の立ち上げに参画してほしいという依頼を受けた波多野さんは、2003年にハタノシステムに入社。同時に、伯母の勧めで東京青年会議所にも入会することになりました。東京青年会議所は、中小企業の経営者の後継者の方が多く参加している組織です。その中で波多野さんは自分よりも困難な境遇にありながらも突き進んでいく仲間の姿を見て奮起を決意します。
特に印象的だったと振り返るのが、青年会議所で学んだリーダーシップのスタイルでした。東京青年会議所は、給料をもらって働く企業とは違い、自分が会費を払って所属している団体です。「周りの人にどうやって動いて力になってもらうか」という考えが求められました。
東京青年会議所での活動の様子
人の心を動かして行動を起こさせるには、一人ひとりの特性や目的を理解し、相手に合わせて異なるアプローチを行う必要がありました。波多野さん自身も、その人の心に火をつけるようなリーダーシップ像があるという学びになったと振り返ります。
15年間所属した東京青年会議所で、最終的には理事長も務めあげた波多野さん。女性の理事長就任は同団体で初のことでした。自分の会社よりも大きな組織を運営する体験が、その後の企業運営に活かされたそうです。
さらに、波多野さんは同団体での活動を通じて、ブータンで青年会議所を設立する交渉や、アジア各国から集まるメンバーとの会議体で議長を務めるなど、貴重な国際交流の経験も重ねました。
ここで築いた海外の人脈は、海外事業を立ち上げる際に不可欠な一次情報の獲得や、日本人では思いつかないようなアイデアの創出など、後のハタノシステムの業務拡大を図る際に大きな力となりました。
祖父から受け継いだ利他の精神
新規事業は数年で撤退となりましたが、波多野さんはその後人事部門に異動し、東京青年会議所の活動と並行しつつ8年間にわたって人材育成や組織運営のスキルを磨いていきました。そして2020年、コロナ禍という先行きの見えない中で、波多野さんは代表取締役に就任しました。業界では珍しい男女2人代表制は、「どちらかの身に何かあっても従業員やお客様に迷惑をかけないように、そしてお互いの強みを活かせるように」という想いから生まれました。
そんな波多野さんの行動哲学の根底にあるのは「利他の精神」です。これは第二次世界大戦から帰ってきた祖父が「まず日本のために何ができるのか」を考えて事業を始めたエピソードから学んだもの。「自分のため」では人は誰も動きませんが、「あなたも私も、社会も世界もみんな良くなる」という大義があれば人の心は動き、行動は変わっていくという考え方です。
もう1つ、波多野さんを特徴づけるのは、与えられた機会を素直に受け入れ、そこから学びを得ようとする受容性です。
「たとえ何かに参加してそれがつまらない機会だったとしても、それを価値に変えるかどうかは自分次第です。どんな機会でも自分の学びに変えることはできないかと何かポジティブな要素を見つけることで、得られる経験値は全然変わってきます。そうした考えを持ちながら積極的に行動を起こすことを大切にしています」(波多野さん)

「行動」こそが人生を変える
就職、家業への参画、東京青年会議所を通じたたくさんの人との出会い経験し、現在では業界内では比較的若い経営者として兄とともに会社を牽引する波多野さん。8月のBigbeat LIVEで伝えたいのは、「百聞は一体験にしかず」という言葉に込められた行動の大切さです。「まず悩むことも大事ですが、新しい行動を起こして新しい体験をしてみるとか、新しい人たちとの出会いを自分から作っていく。そのような機会を積極的に作っていくことで、多角的な視点が養われ、自らの内省を深めることができます。そして、その結果、物事が良い方向へ進んでいくという経験を私自身も数多くしてきました。
今の世の中はスマホでいろんな情報が入手でき『自分もわかった気』になってしまいますが、自分自身がその場に行って体験して確かめることでしか得られないものがあるはずだと思ってます」(波多野さん)
波多野さんの言葉を受けて大滝もこう応じます。
「自分で体験して一次情報を得るという視点はとても共感できます。受け売りではなくて自分が見聞きした経験があるからこそ、説得力のある自分の言葉で語れるようになります。私が関わる営業という視点からみても、お客様から喜ばれる機会も増え、そうした体験が『もっとその人に貢献したい』という行動のモチベーションにつながると思っています」
最後に波多野さんは、「一緒にいることですごくプラスのものをもらえて、自分もプラスのものを返したいなって思えるような人たちが周りにいる状態を作った方がいい」と、自分が身を置く環境を自ら整えることの重要さを伝えます。
目の前の機会に対して、利他の精神で実直に行動する。波多野さんの歩んできた道のりは、自分自身のありたい姿への道のりがわからない中で、よりどころとなる指針を示しているかもしれません。
